第92話(予知)
精密検査をして下さい――
あたしのジョークは完璧だったはずだ。どう突っ込まれるんだろうか。
「する必要はない」
あっさり返された。それもそうか。
「寿也……だって、何か、ヘン……」
あたしは素直に心配した。寿也はあたしの顔を見て、またクス、と笑う。
寿也が普通に笑っている。
おかしい。
いや、何だかその言い方も おかしいんだろうか。
いっそ普通って何。
「僕がヘンだって? 僕にとっては普通の態度だよ? 真木」
手を広げて意味ありげに あたしの目を見た。見つめられて あたしは何とも言えない顔をする。困った あたしは「ねえ。どういう事なの」と聞かずには いられなかった。
「千歳の奴、バカじゃないけどバカだな。考えすぎやがって」
寿也が そんな事を言い出した。
消えてしまった千歳くんをバカ呼ばわりするだなんて。あたしは憤慨。でもグッと我慢する事ができた。寿也は気にする風もなく、坦々と言い出した。
「もっと単純に素直に受け止めればよかったんだ。余計な事をゴチャゴチャと考えすぎて。結局は滅ぶんだ、自分の首を絞めてね。もっと単純に……母は」
チラッと、窓の方を見た寿也。窓は開いてなかったけれど、開けてほしいと思ったのかもしれない。
思うだけで、開けようとは しなかったのかもしれない……。
するとたまたま、窓際に居た患者さんが窓を一つ開けた。
本当に偶然だ。何で開けてくれたのだろう?
「母には未来が“見えて”いた……」
未来が“見えた”だけ。
……だから寿也は窓を見たの?
窓際の患者さんは、黒い下敷きを持っていた。そしてその上に あった『何か』を、窓の外へパラパラと落とした。
何だろう? ゴミだろうか?
あたしはジッと始終を見ていたんだけれど。わからずにいたら、寿也があたしの疑問に答えるかのように言った。
「ただ単にケシカス捨てただけだろ」
「ケシカ……ああ、消しゴムのゴミかぁ……」
見た所。その患者さんのベッドの上には小さめのスケッチブックが紙面を開かせて置いてあった。そしてその横には鉛筆と消しゴムだ。……
そんな特段変わったもんでもない光景から、あたしは寿也の方へと向き直した。
「ま、ゴミはゴミ箱に」
ボソリと寿也は呟いた。
「話を戻すけどさ」
すぐに仕切り直す。
「予知のできる母は、真木に『シャンプー』、千歳に『リンス』。そして僕には『真木を助けろ』とのご命令だ。その結果、どうなった」
「って……ご覧の通りだけど……」
どう答えていいものかがわからない。……難しいよ。
「そ。ご覧の通りだ。こうして、僕 ら は 繋 が っ た 」
繋 が っ た …… ?
あたしはポカンとして肩の力を抜いた。え? 繋がった、って……?
「見事だね。母は自分の予知を信じて、未来に全てを賭けた。僕らは縁で繋がり、そして……」
「そして?」
ゴクリと息を呑んだ。何なに、何なの!?
寿也は最高級の笑顔を見せた。
ゾクリ。
あたしの寒気が走る。
「結果、僕らは一つになった。千歳は……
僕 の 中 に 居 る 」
【あとがき】
解説。窓うんぬんの所は、その前の『ゴチャゴチャ考える』例です。
作者、実際に どうやら読者さんを悩ませすぎてしまってるんじゃ、と。
ゴチャゴチャゴチャゴチャ。