第82話(体)
車は止まらず走り続ける。突然、寿也が言い出した。
「おかしい。千歳の体が」
「!?」
「何が……どうした?」
あたしと先生が寿也に視線を向ける。先生は運転しているのでバックミラー越しだ。
「体が縮んでいる」
……。
……へ? ……
あたし、凝視する。
確かに心なしか微妙なんだけれど。言われてみれば……千歳くんの体が。顔が。
幼くなったような……。
「どういう事だ」
「千歳くん……光ってない?」
あたしが言うと、寿也は。「……」無言で状態を見守り続けた。
ドクン。
場に居た者の心臓の音が重なった。
千歳くんの体に変化がみられる。
退化。
まだ小学生の千歳くんの体が、少しずつだけれど確実に幼さを増している。
確実だ。
間違い無く、千歳くんの体内で過去へと時間が遡っている……!
そんな本人を間のあたりにして、寿也は強く千歳くんの体を抱きかかえた。温めようとしているかのように。
「何で こんなに冷たいんだ千歳。息は ある。でも死人みたいだ。おかしい……!」
寿也が言った後、何と次は寿也の体の方が淡く光り出した。弱い、微弱なんだけれど強さを感じさせる……緑青い、光の『膜』で寿也と千歳くんを一緒に包む。
あたしの横で、そんな神秘が発生していた。あたし身を引く。「おおお……」
思わず声を上げてしまった。でもフザけているわけじゃあ無いわ。
「どうなってんの寿也……とと」
言った口をあたしは自分で塞いだ。
寿也が集中している。
目は真剣に千歳くんを。2人は小さく輝きながら、張りつめた空気を作る。
「僕が どうにか持ちこたえてみせる。だから早く。あと何分ですか先生」
先生は一瞬だけ間を置いて答えた。たぶん自分の後ろで何が起こっているのかが わからず、色々と推測を巡らせていたんだろうな。
「あ、ああ。あと20分くらいだよ。クソ、混んで無ければいいけど、時間帯が」
今は夕方だ。混雑は避けられないかも。その事実が あたしたちを混乱させる。
「何とか頑張ってみる。だから……」
寿也は黙る。……あたしも、千歳くんの体を抱きかかえにいった。
2人で、そして3人で一体となって光が包んでいる。あたしたちを。
(千歳くん……!)
意識は あるのか無いのか。
最悪の事態には ならないで……。
そんな あたしたちの祈りの中で千歳くんは……か細い音でポツリと言った。
「……俺、トリートメントを盗んで……飲んだ」