第81話(ミルキーでお困りの方へ)
「千歳くん!」
あたしは何度も名前を呼んだ。呼び続けた。
千歳くんが ずっと抱きかかえていた子犬は、倒れた拍子に下に一緒に降りた後、びっくりしたのか何処かへ逃げるように走って行ってしまった。
あたしたちはゴメンだけれど、子犬に構っている場合じゃ無かった。
寿也が倒れた千歳くんの体を揺する。
「おい! しっかりしろ! 千歳!」
寿也も声を張り上げ呼んでいた。あたしたち2人して、全く冷静で無い。
「……」
あまり反応が無かった。意識が朦朧としているのか。薄く目は開いているけれど……。
体は冷たかった。気のせいか、肌が白く見える。
「どういう事なの」「わからない……とにかく、ココに居ても」
寿也は立ち上がってキョロ、と辺りを見回した。「救急車は……」
言いかけて、首を振る寿也。
「ダメだ、普通の病院だとまずい。ミルキー星人だとバレたら」
「先生! 先生なら……!」
すぐにパッと浮かんだ先生の顔。あたしがそう言うと、寿也は頷いた。「頼む」
あたしは先生を携帯電話で呼び出した。
すぐに事態を飲んで先生は駆けつけてくれた。あたしが泣きながら先生に頼んだからだ。
軽自動車に乗って先生が現れる。
車から降りた先生は、千歳くんに近寄り「とにかく乗せて。すぐに病院に行こう」と千歳くんを大事に運び出した。
「でも普通の病院じゃ」
と、あたし。車へと千歳くんを乗せようと抱えながら先生は、片手をシュビッとあげた。
「大丈夫。ツテがあるから。ミルキーでお困りの方へ」
どういう事なんだろうか。
車を走らせ何処かへと進みながら、先生は説明する。
「真木も病気になった時には何度か相談と診断に行った事もあるんだよ。実は。覚えてないだろうけど〜」
運転しながら そんな事を言う。あたしは初耳だ。
後ろの座席で千歳くんは寿也に抱きかかえられ、その横で あたしは千歳くんの様子にハラハラしていた。
汗ばんでは いる。でも熱は無い。むしろ、熱が無い、……体が冷たいのだ。
症状の理由が わからない。
「大学仲間にさ、真の他にも我こそはミルキー也な奴が居るんだ。そいつはそいつで独自に研究施設の物をこっそり使って、そこでミルキーの研究したりして。真も最初は奴らと一緒に居たんだが、海外にピュンスカ飛んで行っちまった」
……はぁ。そういえば以前ツテが どうのと言っていた気がするけれど。それがコレなの? 先生。
何にせよ、千歳くんを放っておけない!
あたしは先生から出ている“頼りになるオーラ”を、信じてみる事にした。