第79話(金のシャチホコ)
とっさんとは、誰の事なのか。それはすぐに分かった。
恐らくヒロシと思われる男は、明らかに寿也を見てビビっている。
「と、寿也。し、知り合いの方かしら?」
あたしの声が上ずる。だって怖い。あたしみたいな健全な子供が踏み込んではいけない地域に来てしまっているじゃん!
先生に知れたら気絶されてしまうかも。体中に爆竹を巻いて乗り込んで来る可能性だってある。
何で寿也も千歳くんも見るからに平気そうなんだー!?
「……? 誰だっけ」
肝心の寿也は首を傾げている。おいおい。
「なななな何しにコチラへ来た、いやあははは、いらっしゃったんでっ!?」
チンピラ、手をこすり合わせる。何、その腰の低さは。
ヒロシという名のチンピラ、略されてヒロチンは愛想よくニコニコしながら寿也を出迎えた。
「茶ぁー出さんかいワレェ!」
ヒロチンは恐らく下っ端と思われるチンピラに怒鳴る。チンピラの格差社会がよく分からないけれど。
明らかに寿也を持ち上げているのが見え見えだ。
……寿也、何者。
「いつぞやは ありがとうございやしたっ。金のシャチホコ、助けて頂いて」
そう言ったヒロチンが手を上げて示した所には。
書類棚の上、天井の近くに……見た事のある金色のシャチホコが飾られてあった。
「ああ! 背犬川の!」
あたしが先に反応した。寿也は後にポンと手を打って「思い出した」と言った。
思い出した。だいぶ前。
寿也がミルキー星人だと判明した時だ。寿也は どこぞの抗争に巻き込まれたとかかんとかで川のほとりで戦った(と思う)。寿也はその手にシャチホコを持っていなかったっけ。
「とっさんが取り返してくれたおかげで、ウチの組の者も俺の面子も潰されずに済みましたんでっ! ほんま、おおきに、ささ、ゆっくり中でお茶でも!」
何と部屋の中に招き入れようとしている。
あたしは こんなヤニ臭い部屋は遠慮したいんだけど……。
寿也の方を横目で見ると、「いや、もう帰るし」と寿也が断ってくれていた。
「何やヒロシぃ、あたしとの話がまだや!」
来実さんは横から話に割って入る。ヒロチンは うるさそうに来実さんを はねのけた。
「やかましいわいっ。もうお前と話す事なんて無いんやっちゅうねん! わからんガキやな、ほんに」
とても嫌そうに舌打ちした。
「と、寿也。何だか かわいそう。言ってあげてよ」
と、あたしが寿也の側に来て耳打ちする。「何で僕が」寿也が冷静に答える。
「だって……」
あたしが しょぼくれた顔をすると、寿也は ため息をついた。
「聞いたらんかい ワ レェ 」
寿也の低い声のおかげで部屋の中が冷凍庫並みに冷え固まった。