第77話(ヒロシ)
滑り台の上で泣き叫んでいた少女は、鳴無来実。ヒロシという男の追っかけをやってたんだそうだが、キッパリと別れ話を持ちかけられたとか何とか。
どうでもいいけれど……子供の遊び場で滑り台を占領されて、近所迷惑だ。何人かの子供が面白そうに、滑り台の周りに集まって来て見ている。
来実さんは やっと、滑り台から降りてきた。
しかし。
「このままで済まさへんで! ヒロシぃい!」
両の手を激しく握り締め目が燃えている。触ると火の粉が飛んで来そうで。
「ちょっとアンタら!」
「!?」
あたしと千歳くんはギョッとして来実さんから一歩退いた。
「ついて来ぃ! ヒロシを連れ戻すんや!」
カモン、と手で あたしたちを誘う。そして断りを許さない目の力。
威圧された あたしたちは「は、はぁ」とアイマイな返事をするしか無かった。
かくして あたしたちは来実さんに従い、後について行った。先行く来実さんの後に続いて町を歩いて行く。景色は段々と住宅地や商店街などを抜けパチンコ店やホテル街の方へと、騒がしくなってきた。……
……何処へ向かっているんだろう……。
あたしは進むにつれ、段々と不安になってきた。隣に並んでいる千歳くんを見るが、普通の顔をしている。それは、頼もしいけれどさ。
ホテル街を通ると、バーやスナック。時々『麻雀』と書かれた看板も見えたりし出した。
子供なので遠慮したい。
「あの〜」
あたしが来実さんの背中に呼びかけようとすると。
ちょうどゲーセンの入り口の自動ドアが開き、中から少年が一人で出てきた。
何と少年とは、寿也。
「あ」
「何してんの!?」
つい あたしが叫んでしまった。こんな所で出くわすからだ。「寿!」
千歳くんが歓喜の声を上げた。
「コレやる。何してんの何処行く」
そう言いながら、寿也は片手に持っていた ぬいぐるみをあたしに渡した。
今 話題沸騰中の『にんにく坊や』の にん太郎の ぬいぐるみだ。ちょっと あたしは喜ぶ。しかし そんな事よりも。
「それがさ……」
あたしが事情を説明しようとすると、だいぶ先を歩いていた来実さんが振り返って呼んだ。
「子分ども! 早う来やがれ!」
いつから子分になったんだろうか。あたしたちは苦笑いするしか無かった。