第72話(『恒星トリートメント』)
アルペンさんは、どうにも帰りの遅い真さんや のどかさんに業を煮やし、我慢できなくなって飛行機で飛んで来たという。
おわかりのように、相当ご立腹だった。犠牲者あたし一名。
「今日の夕方に帰るつもりだったんだぜ。いや、ホントに」
真さんはゴロニャン、とフザけてみせた。
「待ってられんっ。今まで再三連絡を取り合っている間に言ってなかったかその台詞。いつになったら実現するんだフザけた野郎めが。のどかもだ。お前らが不在のおかげで こちとら忙しくてやってられん! しかもタイムマシンまで持ち出すとは……。アレはまだ試作段階だと言っただろうっ」
クドクドクドクドとお説教が続いた。
何故か あたしたち全員、キチンと正座している。寿也も千歳くんも。あたしは背筋までちゃんと。
……ちょっと待てよ? タイムマシンが試作段階?
どういう事なんですか、とあたしは真さんを横目で見た。真さんはピュウ♪と口笛を。
「まあいい。それより。コレも試作段階の代物だが、持ってきたぞ真」
アルペンさんは自分のスーツケースを開いて、皆の前で無地のベージュ色のボトルを取り出し、置いた。
ボトルには、黒のマジックで殴り書きがしてあった。
『恒星トリートメント』
恒……? 皆の注目が集まる。
「何ができたんだ? ソレは」真さんが聞くと、アルペンさんは何十枚かが束になったA4サイズくらいの書類を取り出し、パラパラと一枚ずつ めくっていった。
「お前がオーストラリアに小包で送りつけてきた例の……『惑星シャンプー』『衛星リンス』の空ボトルにまだ付着していた成分を調べられたおかげもあって、研究の段階で止まっていたものが一気に完成に近づいた。それは感謝する」
そう言いながらアルペンさんは透明のチャック袋に入って密封されていたボトルを、それぞれケースから取り出す。それらをあたしたちに見せた。