第7話(お付き合い)
「この後、待ち合わせている。ちょっとついて来い」
……何だ。かなりびっくりした。本当に、お付き合いが始まるのかと思った。
こんなあたしの顔なんて放っておいて、寿也くんはチャッチャカ続けた。
「頭数でも、あった方がマシだろ」
……頭数って?
「ちょっとした抗争に巻き込まれている」
そういえば、あたしって寿也くんの事が好きだったっけ? 大事な所を忘れて抜け落ちている気がする。
「この前、風俗街をたまたま歩いていたら」
たまたま歩くような所じゃないと思うんだけど。まあいいや。
「一人のチンピラと出会った」
出会いは、いつも突然。
「裏通りで、ボコボコにされて気を失っていたそのチン・ピーラ。僕は かわいそうになって、ケガの手当てをしてやった」
ああそんな出会いを……に、自ら関わりに行っているではないか。
「そうして、友達になって。ボコボコにされた理由を聞いたら……」
大人と、小学生だよね?
「金のシャチホコを敵対している組員に盗られたんだって」
何その名前がウサン臭いブツ。
「敵対している組の奴らを呼び出した。何人来るかは知らないが、これから行く」
何処に!
「背犬川のほとり」
……川が赤色に染まる!
「何で あたしもそれに付き合わなきゃなんないの! 冗談じゃないわよ! まだあたし死にたくないわよ!?」
あたしが抵抗すると、寿也はフッと笑う。ああもう呼び捨てだ! まあいいや!
「良かったじゃんか。死にたくなくて」
何言ってんだろう。意味わかんない!
「とにかく、あたし帰るから。抗争でも戦争でも、好きにしたら!」
あたしはプンスカ怒って帰った。
どうせ寿也の嘘。ホラ。でたらめに決まっている。信じるわけが無い……。
……なんだけど。
あたしは、いったん家に帰ってランドセルを置いた後、背犬川へ出かけてしまった。
どうせ寿也の嘘で、騙されていたとしても。それならそれでいいと思った。
寿也の事が……心配だった。
好き……なのか、なぁ……まだ、そこまでには達していないよね、と思うのだけれど。人として、心配したり気にするのは普通よね? ……
なんて考えた後。ドキンとした。
人として。
でも、あたしは……。
……
……背犬川が見えてきた。まだ川の近くは よく見えない。歩いていくうちに、段々と状況が明らかになってくる。
大橋の架かった背犬川。川幅はソコソコ広いが、水深は思ったより浅い。天候良ければ、ヒザまでくらいしか水面は届かない。ゴツゴツした大きめの石が転がっていて、堀になっている。そこを下って、大橋の下へ出て近づいた。
立っているのは寿也一人。
寿也を中心に、周りにはチンピラ風の男たちが倒れて……いた。
川もチンピラたちも、赤色一滴 染まっていない。
寿也の両手には、金のシャチホコが。
さて、問題です。第一問。
この状況を、説明して下さい。
「やっつけたぞ。僕一人で」寿也は涼しい顔で言った。「安心しろ。みねうちだ」
お願いだから真面目な顔でサラッと嘘を言わないでくれないかな。何処に刀があるのよ。
「ココ」
寿也は、金のシャチホコを地面に置いた。そして右手だけを少し高めに掲げ、目をつぶって精神集中をはかると……。
光輝く棒が手に現れた。例えると……。
「……蛍光灯?」「ま、似てるか。ミルキー棒」
頭の中が麻痺しそう。いや、してる。
もうダメ、寿也には ついていけない。
あたしは卒倒した。もうダメ、現実ダメ……夢に行かせて。
あたしが夢の中へと走り出す前に、寿也の声が聞こえた。
「僕が そんじょそこらのミルキー星人と同じだと思うなよ」
……末恐ろしいこの子供。