第63話(気配)
2階へ。
さっき壁に案内板があった。見た所、どうやら入院患者は上の階だ。大きすぎず小さくも無い敷地内のこの病院の建物の中に、患者数はどれくらい居るのだろうか。
そしていつかはあの火事で……。
ピタ……と、寿也は足を止めた。
寿也は ある考えが浮かんだが、またすぐに引っ込めた。
そして再び歩き出す。
ヒタ……ヒタ……。
2階に上がった寿也。通路に出ると、廊下に沿って片側にドアが一定の間隔に並び、反対側には窓が突き当たりまで並んでいる。何処の窓が開いているのか暗がりでわからづらいが、風が吹いてくるのを感じた。
通路を歩きながら……ドアの一つ一つに示された、横に書かれている入院患者の名前の札を順に目で追っていく。
鈴木……栗沢……マイケル……ドットコム。
寿也は とっくに気がついていた。
自分は、母親の名前を知らない。
蝶子も教えてくれなかったし、自分だって誰にも聞かなかった。
どうやって見つけるのか。……
寿也には自信があった。
きっと近づけば、気配でわかる……と。
アンビリーバボ超能力少年。
ヒタ。
廊下を進み、一番突き当たりの部屋のドアの前で。寿也は立ち止まった。
名前は……書かれていない。
でも、誰か、居る。
寿也は思った通り、『何か』を感じた。言葉では説明ができないけれど、全身で、衣服を超えて肌に感じる、『何か』。
気配か。
寿也は恐れも衝撃も来る事 構わず、普通に……引き戸になっている戸を開けていった。
ゆっくりと……しっかりと……。
フワッ。
……さわやかな、心地良い風が流れ込んできた。寿也の体をくすぐる。
ユラユラと、部屋の中の正面で揺れている透けた黄色のカーテンがまず、目に入った。窓が開けっ放しだ……。
「……」
くわえていた おしゃべりを外してポケットに入れた。中に入ると、部屋の中央に白いベッドが一つ。真っ白い布団の中で、誰かが寝ている? ……
女性だ。黒髪が長く、枕を隠しているから。
「母さん……」
寿也から自然に声が漏れた。
誰かから母親の名前を教えてもらったわけでは無く、何か本人と確定できるものがあったわけでも無い。証拠は無い。あるのは……。
寿也の自信だ。
「寿也です」
何の反応も無いベッドの中で眠っている女性……に、寿也は名乗りを上げた。
「……」
本当に眠っているのだろうか。寿也はベッドの横まで近づいた。
すると。
突然、パッチリと女性は目を開け、ガバッ! っと上半身を起こした。
驚く寿也。あまりに びっくりし過ぎて後ろに倒れて尻もちをついた。
ガシャンッ。
すぐ側にあった小さなワゴンに寿也の肩がぶつかった。「……!?」
パチクリとした寿也の前に、ピースサインをする女性。そして二カッと、笑う。
「ようこそ息子。待ってたわよ」
【あとがき】
何でかドットコムさん。