第62話(病院)
場所の見当がついたので、タイムマシンは もう少し移動した。病院より数十メートルは離れた森の中にタイムマシンを落ち着けた。念のため、さっき真さんが言ったように機体には、自身を見えなく隠すためのシールドを。
3人とも、口には それぞれおしゃぶりをくわえていた。バブバブ。
真さんが持ってきて渡してくれた このおしゃぶりをつけると、透明人間の如く姿が見えなくなるらしい。
「本当に見えてないのかな。あたし、寿也も真さんも見えるんだけど……」
と、あたしは確かめるように真さんに聞いた。
「そのはず。見つかってしまってからでは、効果が無いんだよ。だから俺にも今、2人の姿は見えている。まあ安心して。大丈夫だと思うから」
そう返事が返ってきた。うーん、信用しとくよ真さん。
「じゃ、気をつけてな。ココで待っとくから」「頑張ってね、寿也」
真さんとあたしのガッツに見送られ、ずっと緊張気味だった寿也は歩き出した。
振り返る事無く。
ただ真っ直ぐに……病院だけを目指して。
バブバブ。
道なりに続くアゼ道を辿り、寿也は病院に着く。
手前の駐車場を突き抜ける。遠くから見るよりも、建物は老朽化し傷んでくたびれていた。白い壁の外装は、黒ずんでいる箇所が処々と見受けられる。
ゆっくりと寿也はガラス貼りの両開きのドアの片方を押し、できるだけ誰にも気づかれないようにと慎重に目を配らせ、まずは数センチ、そして寿也が通りぬけられるほどの隙間を開けた。
人気の無い空気。診療時間内のはずだが、開けてすぐの待合所に外来は一人も居なかった。寿也は少し安心して開けた隙間から体を中へと滑らせる。
どうやら、受付の向こうに人が一人居たみたいだが、恐らく姿の見えていないせいもあって寿也には全く気がついていないようだった。
人気が無い。
……静か過ぎて不気味だ。
寿也はココに来るまで ちゃんとくわえ続けていた おしゃぶりを取ろうか考えたが、やはりやめておいた。いつ何処に誰が潜んでいるかも わからないし、ココは過去だ。下手をして歴史を変える事にでもなったら……と。
色々と考えながら、待合所から奥へとのびている暗い廊下へと。進んでいった。
ヒタ…ヒタタ……。
気持ちできるだけ足音を立てないように、ヒンヤリとした廊下を歩いた。
お化けになったみたいだな……そんな風に寿也は思いながら。もしかして病院に登場してくるお化けって皆おしゃぶりをしたミルキー星人なんじゃとさえ、思った。
そうかもよ。
「……」
寿也は何気なく後ろ上方を見上げた。何か気配を感じて見たが、特に何も無い。あるのは暗がりの中の天井と、垂れ下がってチラチラ光るクモの巣だけだっだ。