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第56話(誤った使い方)

 あたしは真さんの言葉に、背筋がゾワッとした。

 真さんは続ける。

「元は一つだったかもしれない。しかし2人に分かれてしまった……液体が どう働いたかは知らないが、誤った使い方をすれば違う結果が起きる。覚えておくようにね」


 戒め、のように感じた。一番にそれを感じたのは あたしだ。

 あたしは死のうと思った。今は飲んだ事をバカみたいだったと、後悔している。

 あたしは美少女になったけれど、だからといって幸せになれるのか はたまた なれたかというと、そうでも無い。

 あたしはあたしだ。先生は あたしの姿がどうであろうと、大事にしてくれている。

 下手をすれば あたしは死んでしまって、先生が悲しみに暮れる所だったのだ。


 先生、ごめんなさい。

 もう、バカな事はしません。

 あたしは誓う。空の何処かの、今はどうなっているのか わからないミルキー星に。


「あの〜」


 黙って聞いていた千歳くんが口を開いた。

「何? 千歳くん」あたしは気を取り直して千歳くんの顔を見る。

「惑星シャンプー惑星シャンプーって。何だか俺だけ、話が見えない感じ。ねえ一体何の事?」


 ああそうか。これまで千歳くんはカヤの外。千歳くんの前で あたしの不思議の話は、した事が無かったかも。

 それは何だか、かわいそうだ。「あのね、あたし、昔……」

 あたしは説明した。あたしが かつてブスの黒メガネで、惑星シャンプーを飲んでも無事だった事。背犬川のほとりで。


 すると千歳くんは ひょうひょうと答えた。


「あ、それ知ってる。真木さんなんだ、あの子。俺『衛星リンス』を飲ませて、逃げたけど」



 怒る気にも なれなかった。

 千歳くんは「家に容器は保存してあるよ。取ってこようか」と言って、いったん自宅へ帰った。


『衛星リンス』


 惑星シャンプーのケア用品。決して口から入れるものでは無い。

 あたしと違ってさっきの真さんの戒めには、特に反省する様子も無く……というよりは、本人が全くわかってないような気がする。

 つかみ所の無い人だ。まあ、あたしは死なずに済んだからいいけれど。



「ふうう。こんなもんかな」

 買い物カートを押しながら、レジへと向かった。

 ここは近所の大手スーパー。今夜は おでんだ。しかもあたしと先生だけでは無い。寿也と千歳くんと真さんと、たぶんのどかさんも。あの狭いアパートの部屋の中に、ぎゅうぎゅう詰めだ。きっと外がどれだけ寒くとも、部屋の中は下手をすれば夏並みに暑くなるのではないかと思う。

 6人分の食材をカートの中の買い物カゴに放り込み、レジで並んで順番を待つ。

 ふと、レジの側の陳列棚にあるアメが目に留まった。


 あたしは手にとる。そしてそのアメの袋をカゴの中に入れた。

 中に入れたというよりは、大根やらニンジンやらナスやらカボチャやら、本日特価の白米5キロ『べっぴんさん』やらと。食材はカゴの中で山積みだ。カゴの上に乗せた、と言った方がよい。

 白いパッケージのアメ袋。

『ミルキーキャンディー・おふくろさん』

 おかめが丸い小さなメガネをかけたようなキャラクターが描いてあった。




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