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第51話(行くあても無く)

 あたしは先生をドンと横に思い切り突き飛ばして……先生は壁際に突っ立っている人体模型に突進して当たった。

 ブチュウ。先生と人体模型の嫌な音が部屋に響いた。

 しかしあたしは それどころでは無い。しかも気がつかずに、真さんに すがった。

 とりあえず すがった!

「寿也を助けて! 寿也が居ないの! 寿也を捜して!」

 あたしの寿也コールは止まらない。あたしは熱狂的な寿也ファンのように叫び続けた。


 寿也、必ず助けに行くから!

 ……待ってて!



 …………

 ……


 緑色の光に包まれて。

 寿也がフッ……と力の限界を感じたのと同時に、光は段々と消え入った。

 辺りは静寂のカーテンに覆われている。

 どれほどの時間が経過していたのか。わからなかった。


 寿也は真木の顔色を見て、流れそうになる汗を拭った。

 真木の容体は安定している。スヤスヤと、寝息を立てて平気そうだった。


 もう、だい、じょう……ぶ。


 寿也はその場からそっと離れて……歩き出した。



 力を使い果たした寿也は川上へ向かって。彷徨さまようようにフラフラと……歩く。

 寿也が川沿いに行くと時々、川の中をスーパーの袋や広告の紙ゴミが、川下へ向かって流れて行った。

 寿也は何処へ行こうとしているのか。

 特に、決めていなかった。

(とりあえず真木は助かった。他の誰かに見つかったら厄介だ……真木の側からは出来るだけ離れておいた方が……)


 行くあても無く。


 時の狭間に一人取り残された寿也。

 あの元気な方の真木は無事だろうか? 僕みたいに何処かの過去か未来で迷子になっているんじゃないのか……。

 僕の名前を呼んでいるんじゃ。

 早く助けに行かないと。あいつは王女なんだ。僕が守らなくちゃ。


 僕、が。


と……思った所で、寿也の足がもつれた。身をかばう事ができずに、転ぶ。

 起き上がれる力も……無い。

(真木……)

 チロチロと、すぐ横で流れる川の水音。

 まぶたを動かす事すら出来ない寿也の耳に、優しく響いていた。

(ごめんな……)

 時折、そよ風も吹いた。寿也の髪をフワリと撫でる。



 自然が、寿也を、包む。




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