第50話(集中)
集中しろ。
集中するんだ。
助かるか、わからないけれど……。
「あぐ……うう……」相変わらず真木は苦しい声を。
(真木……!)
夕日はとっくに沈み、夜が始まろうとしていた頃。黒いカーテンが、景色を包む。橋の上を、自動車や自転車が通る音がする。
皆、帰路を急ぐ頃合いだ。風も一緒になって、水面をさらっていく……。
でも寿也にはいっさい聞こえない。
他の そんなものが存在するとは認めないように、寿也と真木だけの空間を。
まるで世界には2人しか存在しないように。
まるでミルキー電波の世界のように。
神経を研ぎ澄ます。
(真木……!)
気でも電波でも水でもアラレでも。何でもいい。よかった。
(死ぬな……!)
真木を…… 助 け て 。
……
……
……寿也の両手の下から、やがて淡い緑色の光が輝き出した。
そこを発源とし、徐々に周囲に広がっていく! ……
まずは真木の全身を包み込むように広がり、それからさらに範囲は広がって寿也の体にまで。
背犬川のほとりで。
輝く……淡く、儚いような、生命をイメージさせるような、緑色の光。
そんな光の光線が、あちこちに伸びていく。
今 ココに。
寿也の全エネルギーが、集中する。
「寿也が居ない! 寿也は何処!? 何処に行ったの!?」
先生! とあたしは先生の胸に飛び込んで泣き続けた。
先生はあたしを落ち着かせようと、ポンポンと肩を叩く。
あたしと寿也は握手をした途端、過去へとワープしてしまって。いきなり戻って来たものの帰って来たのは あたし一人。
寿也が居ない。寿也は何処行った!?
「困ったな。由高をどう捜せば……」
と、先生も弱りきった顔をしていると。
突然、部屋の中の何も無い空間から大きな物体が出現し、先生の背後からぶつかった。
「×××××……!」
先生の言葉にならない悲鳴。
先生の後頭部に直撃したみたいだが、先生は倒れなかった。
その大きな物体……とは。
「ああ!」
あたしは声を上げた。
先生に当たったのは、リングの部分。それは。
数日前に背犬川にやって来た、土星に形状よく似た UFOだ!
やがてプシュー……ッと、入り口が開く。
「よう岩生! 待たせたな!」
機体の中から明るい声が聞こえた。
入り口から出て来たのは。
「真さん!」
そう。
ずっと行方をくらませていた、真さんだった。
「こんにちは岩生さん、初めまして。綾島のどか、ミルキー星人です。久しぶりね、真木ちゃん」
と、真さんの後ろからヒョコッともう一人、姿を見せた。
真さんと のどかさん。2人のミルキー星人、登場。
先生は後頭部を痛そうに押さえながら涙目で真さんに聞いた。
「お前何処に行ってたんだ……イテテ。そしてそれは何だ。突然何も無い所から現れたぞ」
狭い理科準備室内いっぱいの大きな機体。指さして先生は怪しそうに見た。
真さんは機体の胴体をポンポンと叩きながら、“ニヒーッ”と歯を見せて笑った。
「『タイムマ・シーン』!!」
そう宣言するかのように叫ぶ。……え!?
「タイムマシン!?」