第49話(理性、そして感情)
寿也の中で、バラバラになっていたパズルのピースが組み合わさっていく感覚が走った。
『惑星シャンプー』を飲んだ真木。
『衛星リンス』を飲ませた千歳。
そういえばシャンプーの話をしていた時は一度も、千歳は その場には居なかった。
何て事だ。
こんな事なら、千歳とデートでも何でもしてもっと話をしておくんだっ……たかもしれないが、まあいいか。解剖されたら嫌だしそれは と、寿也は思った。
「うう」
真木は苦しそうに呻き声を上げた。顔は赤みを増していて、顔中、全身に汗が浮かび上がっている。熱もあるのではないだろうか。
(何故だ? 『衛星リンス』で真木は助かるんじゃないのか?) ……
寿也の額にも微かな汗が。寿也はヒザをついて、そして苦しそうにあえぐ真木の顔を見つめた。かなり息もゼエゼエと、困難に陥っている。
とりあえず気道の確保。真木のアゴをクイと持ち上げ、呼吸をしやすいように頭を反らせた。
触ると、熱い。
どうなっているのか、真木の体は。
まさか真木の体の中で、シャンプーとリンスがケンカでも? ……と。
寿也は焦った。
このままではきっと、真木が死んでしまう。
(でもココは過去だぞ。余計な事をして、もし未来に影響が出たら)
寿也は空になって転がっていたシャンプーのボトルを掴み、
(何が『俺の理論じゃ』だ。真さんもいい加減な事を。どうする……)
と、下口唇をかみ締めた。
ボトルを置くと、少しコロコロと転がる。
寿也の中では理性と感情が うごめいていた。
真木を見下ろす……。
(この真木はまだ姿が変わる前。僕はこいつが王女だという事は知ってはいたが、特に深く関わる気なんて最初から無かった。手の内に入れといた方が手を貸せてやりやすいかなとか、死なない程度で見守っていてやるかとか……それぐらいしか思ってなかったんだ……けど……)
誰かに言い訳をしているとも見える寿也の言葉は続く。
(でも真木は……一度関わり出してからは、どんどんと……僕の中に――)
演劇で主役をやって。同じ鍋のスキヤキを食べて。
ホテルでトランプ。自分の家の部屋は見られる。
過去へは一緒にタイムスリップ。
何故か真木の顔ばかりが浮かんでくる。
笑った顔、ヘコんだ顔、叫ぶ顔、怒る顔……表情が、クルクル変わる。
とても真似できない……
真木の泣いた顔が浮かんできた。あの……ホテルでトランプをしていた時のだ。
何で泣いているんだ……『だって、あたしが寿也だったら、悲しい』。
(変な奴……僕の代わりに泣く、なんて。
それとも お か し い の は 、 僕 な の か )
「う……」
もう一度、真木が声を出した。寿也はグッとコブシを握る。
そして手を……両手を。真木の心臓のあたりに、広げて重ねて……置いた。