第46話(赤い消防車)
車は大きな道路を走る。
寿也は、ヒジをついて車の窓から外を見た。窓にうつった寿也の顔が うっすら見えるが、表情は特に崩れてはいない。
「隠す……? そう」
寂しそうに言った蝶子さんはハンドルをきる。車は止まる事無く、景色は段々とビルや商店といった建物で賑やかになりつつあった。
今、何時だろう。日は高いから、昼なのだろうけれど。
……カンカンカンカン……ウ〜。
時々、あたしたちの車の対向側を赤い消防車が何台も通りすぎて行った。
「ミルキー星は 侵略された」
……。
いきなり、蝶子さんの口から『ミルキー星』という言葉が出て、驚く。
「そこには王と王妃、それから王女と、側近の科学者たちが居た」
空気が突然張り詰めた。
え、と あたしはキョトンとする。
ミルキー星の王様?
「しかし侵略によって王と側近の科学者は……」
その先は言わなかった。
「……残されたのは、王妃と王女と、科学者の奥さん。科学者が残したアイテムを持てるだけ持ち、アイテムを使って、命からがらミルキー星をワープ脱出。しかし混乱のさなか、王妃は星に取り残され行方は不明」
まるで何処かの物語のように、蝶子さんは同じ低いトーンの口調で話していく。
あたしたちは邪魔せず、ただただ聞いていた。外では外の喧騒のはずなのに、何故だか音なんて聞こえないほど車内は静かだった。
「地球に辿り着いたミルキー星人たちと、まだ産まれたての王女を抱えた科学者の奥さん」
……カンカンカンカン。ウ〜ウ〜ウ〜。
また横を、赤い消防車が走っていく。危険を思わせる赤。慌てるような耳残りの音。
「その科学者の奥さんが、寿也くんのお母さん」
カンカンカンカン。
もう何台目なんだろう。わからない数。
「そして」
不吉を前兆するかのように、胸騒ぎが おさまらない。
「王女とは、リリン王女」
リリン王女……?
聞いた事が無い。
一体、それは誰。「知らないわ。寿也、知ってる?」とあたしは横の寿也に聞いた。
「……さあ」
寿也は窓の方を向いたまま。
蝶子さんは続けた。
「よっぽど悲惨だったんでしょう……。寿也くんのお母さんは、おかしかった」
ズキ……と、胸が痛んだ。
寿也の顔を見る事ができない。
「地球に持ってきた、『惑星シャンプー』を飲んだ」
あ、と声に出そうになった。
『惑星シャンプー』……あたしは死のうと一度口にした。どういうわけか、生きていたわけだけれど……真さんの話では、絶対にそれは有り得ないと。
ならば、寿也のお母さんは……?
「死のうと思ったのね……でも、死ななかった」
蝶子さんの言葉。
え?
死なない?
「双子が産まれた」