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第44話(木葉村)

 遅れて、あたしも振り向く。

「!」

 後ろに現れたのは女の人……あたしたちを見て、ビクッ! と驚き足を止めた。

 黒いジャケットのスーツ姿。白いパンプスを履いている。ショートカットで耳に真珠のピアスがチラついている。どう見ても山向けの格好ではないし、パンプスはせっかくの白さが泥まみれだ。「あなたたち……」と目を大きく見開く。

「追っ手じゃなさそうね。村の子?」

と、その女の人は聞いてきたが あたしはどう返答していいのか わからない。

 困っていると、「ココは何処ですか」と寿也が逆に聞き返した。

「木葉村……よ」

 女の人は あたしたちを調べるように目を移しジロジロと見る。


 木葉村!?


「と、寿也。木葉村って」

「真木、落ち着け」

と、あたしたちが そんな反応をしていると。さらに驚いた顔をして女の人は叫んだ。

「寿也って、いった!?」

 信じられない、といった顔をする。


 ええ? 何なに?

 どういう事――!?


「私は澤田蝶子。ちょっと仕事の用でココに寄って、それで――」

 女の人がまず自己紹介をした。少し考えた後、「あなたたちの名前は?」と聞く。

「由高寿也」

「軽井真木」

 あたしたちも名を明かす。すると、寿也の方を見て蝶子さんとやらは愕然としていた。「嘘でしょ……? どうしてココに来たの……?」

 そんな事を言っている。

「僕を知っているんですか? さっぱりわけが、わからない」

 寿也がそう言う。あたしも同感だ、と蝶子さんに視線を送った。

 蝶子さんの片方の目尻から、涙が。口を手で押さえて、懐かしむように寿也を。

「私は あなたを知っている……私の事、覚えてない? 寿也」


 寿也は困惑した。はっきりとは わからないけれど、一生懸命 心当たりを思い出そうとしているように見える。

「寿也……」

と、もう一度、蝶子さんが声を漏らして名前を呼んだ時。

 寿也は何かに弾かれるようにパチンと、目の色を変えた。


「ミルキーうどんの!」


 ……


 ミルキーうどん?


「僕の母ですか。それとも……」

 え!? ……あたしは驚いて2人の顔を交互に見た。けれど、蝶子さんはすぐに残念そうに力無く首を振る。

「……違うわ。誤解。私は あなたの母親じゃない。あなたのお母さんから……あなたを少しの間、面倒をみていただけ。……ごめんなさい」

 何故か謝った。

 寿也は一歩前に出る。

「母は何処ですか」詰め寄る。

 しかし蝶子さんは答えない。顔を曇らせた。寿也から顔を逸らす……。


 あたしも さっぱりわけがわからず どうしよう、と寿也を見守るが。

 やがて寿也の体はバッ! と後ろを向いた。

「まさか、あの火の中!?」


 寿也が身を乗り出す。すぐ前は道の無い、木々が阻む急激な坂だ。崖だ。「寿也、危ないよ!」……

 目先、遠くでは。変わらず延々と病院らしき建物が燃えているさまが。火は全然鎮火する気配は無い。

 あたしは寿也の腕を掴んだ。




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