第4話(由高寿也)
真木はそのままのいでたちで、学校へと向かった。すごい勇気だった。
途中、犬に吠えられたり、子供に指を指されたり、「シッ! 見ちゃいけません」と親が子供を叱る場面が見えたりとした。
真木が そんな調子で歩道を歩いていると、突然おまわりさんから尋問を受けた。
「ちょっと君。まだ小学生だよ……ね?」
「ハ、ハイ……」
真木はびっくりして固まってしまった。「あ、あの。これから学校に……」
嘘では無い。これから教師・岩生に弁当箱をお届けに行くのだ。真木、参る。
「今から? そんな格好で?」
おまわりさんが自信を持って言えないほど、小学生にしては怪しい服装。
おまわりさんの目が光る。メガネはかけていない。
「そいつ、僕の友達です」
横から声がした。こっちは普通の少年。
ランドセルを背負って、両手をズボンのポケットに突っ込んでいた。
由高寿也。10才。
真木は知っていた。同じクラスの男子だったからだ。
一度も話した事は無い。そういえばいつも独りで居るのをよく見かける。独りが好きなのかな。
「こいつ超人見知りで、太陽光線浴びると灰になっちゃうんです」
少年がそう言うと、おまわりさんは笑ってくれた。
「イタズラもホドホドに」
おまわりさんが学校まで送ってくれる事になった。
久しぶりの学校登校。でも、まだ4時間目が終わっていない授業中。
由高少年は平気で遅刻して来た。何という肝据わり。
2人は並んで廊下を歩いていたが……やがて真木の足は段々と遅れていった。「何。レディエンド?」
どうやらレディファーストの逆を言いたいらしいが、適当すぎる。
「……やっぱり、帰りたい……」
真木はお弁当箱を抱えたまま、ついに立ち止まってしまった。
「……帰るよ」
ハーと、真木はため息をついた。まるでシルクロードでも永遠と歩いてきたようだ。とても疲れた。でももう帰ろう。帰り道はエスカレーター道みたいに楽チンに違いない。
由高少年はいきなりツカツカと真木の前まで近寄った。
そして掴みかかったのか! と思うほどの勢いで、真木の、まずお笑いメガネ(黒ヒゲ付き)をひっぺがすように取った。
カタタタンッ……!
メガネは地面に落ちた。
そしたら今度は帽子も、マスクも、ついでにオーラも取り外した。
真木は震えるばかり。
「普通にしてろよ。美女も3日で飽きるから」
由高少年はそう言うと、クルリと方向転換し教室の方へ向かって歩き出した。
美女も3日で……美人薄命。
真木は床に散らばったメガネたちをかき集めると、職員室へ向かった。
由高少年にそうは言われても……勇気は出なくて。
結局真木は職員室で教師・岩生の帰りを待っていた。