第35話(ラッキー伝説)
「すごい煙だな。モグモグ」
と……お茶の間でお菓子を食べながらズズーッとお茶をすすった。
TVでは夜になった今も中継VTRが流れている。画面の中で、深い山の中からモクモクと真っ黒な煙が立ち昇り、現場の悲惨さが生々しくヘリから報道されていた。
懸命な救助活動が続けられている。
「何で生きてるんですか、真さん」
あたしはコタツの机の真ん前に居る真さんにそう聞いてみた。
「強運と書いて俺と読むのさ、真木ちゃん。なあ、岩生」
真さんは後ろに手をついて、台所でラーメンを作っている先生に呼びかけた。ちょうど、ラーメン臭が部屋中に立ち込める。
真さんは無事だった。なのでこうして落ち着いてTVを観ている。
「確かにお前のラッキー伝説は著書にしても売れるだろう。ベストセラーも夢じゃないな。そして今。また新たな伝説の一ページが、記されようとしている……」
「アイアムレジェンド」
話は映画化の方向へ。そんなにすごいの? 真さんラッキー伝説。
「まあ、たまたまだったんだけどねー。たまたま、ニホンザルが空港に現れて」
「たまたまですか!?」
「空港の人たちが必死で捕獲しようと頑張ってたんだけど、ラチがあかなくて。仕方が無いから、コレを」
パカッ……いや、サッと自分の着ているジャケットの内側を披露する真さん。そこには規則正しく、5本のダーツの矢が並んで内ポケットに刺さっていた。
ダーツ……?
「ホイ」
と、真さんはスッと一本取って、投げた。
「おまちど……」
グサッ。
ピタリ。
「いやーーー!!」
あたしの悲鳴。
「ラーメン、ラーメン♪」
真さんは立ち上がって、先生がこっちに運びこもうとしていた両手のラーメンのどんぶりを受け取った。どんぶり2つ、コタツの上に置かれる。
先生は動きを停止し、「どんぶりを持った状態」のまま固まってしまっていた。
い、一体何が……。
先生のオデコに、真さんの投げたダーツの矢が突き刺さったままだった。とても痛々しい。
「“ミルキーダーツ・固まるくん”。用途・用法はご覧の通り。ニホンザルの時も、とっさに使っちゃったんだよなー。ま、おかげでサル君は捕まってくれたけど。気がついた時には、俺の乗るはずだった飛行機が出た後だったよ。キーン」
……またか。ミルキーアイテム第2弾。
まさか、7つあるんじゃ。
「先生は どうなるんでしょう。……元に戻るのに半日かかるとか?」
「んにゃ、短いよコレは。30分くらい」
……よかった、それくらいなら……。ホッと胸を撫で下ろす。
「でもラーメンのびちゃう」
「あ、俺が食っとくよ」
解決した。
とりあえず見ているのも痛々しいので、オデコに刺さっているミルキーダーツは取った。
どんぶりを持った格好のままの先生。口が「ど」の形のままだ。
……これがこういう彫刻かハクセイだったらと思うと……。競売にかけてみようか、と真さんは面白おかしく笑う。
はあ〜あ……。
「寿也くんには会った?」
ラーメンを食べながら、湯気の向こうで真さんが話をふった。
あたしは……。
「学校には来ませんでしたけど……」
「けど?」
「あたし、寿也の家にお見舞いのつもりで、行ったんです」
真さんは「ほお」と物珍しそうに、あたしの話に聞き入った。