第32話(もっと好きになる)
……。
としや……?
「ムダ足だとわかっていれば来るんじゃなかったな。せっかくだけど」
あたしは引きかけたカードを一枚落とした。
でも拾う気になれなかった。
「真木……?」
落ち着いている寿也の声。
口調はいつもと変わらない。変わらないけれど、でも。
も し あ た し が 寿 也 だ っ た ら 。
「……」
あたしの目からポロポロと、涙がこぼれた。
手札の絵柄が にじんで見えなくなってくる。あたしはどれを揃えようとしていたんだっけ?
「……何で泣く。明日、目が腫れるぞ」
「だって……!」
あたしの涙は止まらない。「寿也が……」声が震える。
「あたしが寿也だったら……悲しい。思い出が壊されたみたいで……」
きっとあたしが寿也の代わりに泣いている。
寿也が泣かないから。あたしが泣く。あたしが。
「変なミルキー星人……」
ボソっと、寿也が呟いた。
あたしって変なの?
「自分の出生なんて知ったって、どうするんだろうな。別に知らないままでもいいんじゃないか……って思ったりするけど……」
あたしは手で顔を拭いながら「あたしも似たような事を思った事があるよ」と言った。
以前、あたしは自分の事よりも、寿也の事を知りたいと思った。
きっとあたしは寿也の事を好きになっていくんだと。
「寿也の事をみんなが もっと知れば、みんなが寿也の事をきっともっと好きになるんだよ」
あたしはカードを引く。でも絵柄も数字もまだ揃わない。
寿也は手持ちのカードを広げて下に並べて見せた。
「……千歳がいっぱい、って事か」
寿也を好きになる みんなの顔が千歳くんに。
ついでに みんなに解剖される寿也というものが思い浮かんだ。
あたしは「ぎゃあ」と悲鳴を上げたが、後で爆笑へと変わってしまった。
「おっかしいぃ……」
あたしがベッドの上で涙目で笑い転げると、寿也は「表情がクルクル変わる奴だな」と呆れた。
寿也のカードはロイヤルストレートフラッシュ。
……お見事。
あたしがずっと笑い転げてニヤニヤしていると、「いつか……」と小声で寿也が言った。
「え?」と聞き直しても「……何でもない」としか答えてくれず。
寿也は少し微笑んでいた。