第31話(1048号室にて)
何かミルキー出て来い。……しかしあたしたちの望みは立ち消えていった。
市役所の職員に聞いても若い人たちばかりで「詳細は知りません」と言うだけ。市長さんもまだ若い人みたいだし、行った時には留守だった。
図書館で過去の記事などを探してみても「昔、村だった」という程度の事しか わからない。
村長だったという人はもう亡くなっている。
おじいちゃんおばあちゃんあたりの人に聞いて尋ねてみても「すっかり変わっちまってねえ……」と嘆きの昔話を始めるばかりで。
ミルキーのミの字も無い。
……あたしたちは疲れきった。
もう何だかどうでもよくなってきた。村もミルキーもメイド服をあたしが着ようとも。
「帰ろうか……もう。ここに居てもムダな気がする」
一応、寿也のお母さんが居たと思われる家の住所にも行ってみたけれど。
フライドチキンのチェーン店になっており、店先でサーベル・カンダースという黒い紳士服を着たタイガーおじさん人形が立っていた。
日が沈んだ。
あたしたち4人は、ホテルに一泊する事になった。言い出してくれたのは真さん。
「遠慮しなくていいよ。特に岩生、心配するな。俺のおごりだ」
それを聞いてか、先生は夜、何処かへ消えた。
真さんはラウンジに行ってくると言い残して去ってしまう。
あたしたち子供は、部屋で留守番。ただ、寿也とは別々の部屋だけど。
あたしはしばらく部屋で一人、ドラマ『青春ド真ん中でドス来い』を観ていたが、ドラマが終わってニュースになると退屈になってしまった。
(寿也、何してんだろ……)
ボフッ、とベッドに寝転んだ。でもまたすぐに起きる。
「部屋に行ってみよっ」
1048号室。
『ト・シ・ヤ』だねーとあたしが言っても顔色一つ変えなかった寿也。
今、何しているのだろう。あたしはトントンと1048号室のドアを叩いた。
「寿也あたしよー」
すぐにドアが開いて寿也が出てくる。
「……何」
「暇だったんで遊びに来たんだけど。入っていい? 何してたの?」
「一人トランプ」
大きなベッドの上で2人とも座り、ババ抜き大会が開かれた。
また、あたしがババを引く。「うぎゃー」
あたしは伏せこんだ……「どうして いつも あたしがババを引くのよぉー」
あたしが叫んでも、寿也は しれっとしているだけ。
「ババを引きそうな顔をしているからだろ」
……どんな顔なんだろう。どうでもいいけれど、負けっぱなしでくやしい。
「ムダ足だったな、今日は」
終わったトランプをひとまとめにしながら、視線を下に落としたままで寿也は言った。
心なしかトーンが低い。疲れているのか、落ち込んでいるのか。
「うん……でもまあ、来てみなきゃわからなかったし。いいじゃん、また帰ってから別の手がかりを探せば」
「……」
「寿也?」
無言のまま、トランプをきり始める。そして5枚ずつ配る寿也。「ポーカーをしよう。こっちのが得意だから」
あたしは黙って寿也に任せた。
ゲームのさなか、寿也は話し始める。
「このホテルからに限らず、この土地の何処からも星は見えそうに無いな」
あたしは配られた手札を見つめ、考えながら寿也に「うん……」と相づちを打った。
「僕が昔で唯一覚えていて印象に残っているのは、母親でも村でも何でもない」
「……」
「背犬川の上空よりももっと数が多い、星が輝く……星空だった」
【あとがき】
1048。
覚えておくといいさ。
とか言ってみる作者。