第30話(売り子さん)
あたしたちの見ているものを説明しよう。
ビルが立ち並ぶ。同じような造りの、飾りっ気のないビルが。銀行、商社、塾、公共施設といった建物が。
少し行くと、繁華街になる。コンビニ、ファーストフード店、ショッピングセンターやモール街、多種多様なチェーン店の名前が見られる。
建物だけでなく、人も。上層から見下ろすと、あの動く点が全て人だと思うとゾッとする。
タクシー、バス、電車、自転車、車、人。
往来が激しく、生活音が けたたましい。
緑は 何処っ。
「本当に かつては村だったんですか、ココ」寿也が言った。
寿也は今、何を思っているのだろうか……。
残念ながら表情からは読み取れない。
「すごい急成長だな。どんだけ〜」
真さんは車をコンビニに停めて、降りる。「タバコ、買ってくる」
「あ、あたしも行く。のど渇いちゃった。先生と寿也は? 何か買って来ようか」
とあたしも降りようとすると、「僕も行く」と寿也も ついてきた。先生も。
あたしはコンビニで買い物をするついでに、手が空いてそうな店員さんに聞いてみた。
「昔、村だったって聞いてきたんですけど。全然違いますね。びっくりしちゃった」
40代後半くらいの おばちゃん店員さんだったのだけれど、あたしを見てフッと笑って教えてくれた。
「もう少し東へ行くと、家電街に出るわよ。ええと、何て言ったかしら。あの売り子さん」
売り子さん?
「思い出した。 メ イ ド って言ったわね」
あたしたちは東へは行かない。北へ行くんだ。
「時間があれば寄って真木ちゃんにピッタリな服を見立ててあげるよ」
車を再び発進させ、それから渋滞途中で真さんはミラー越しに あたしを見て微笑んだ。
ミラー越しに。
……まさかロリ服のあたしを想像しているんでないだろうか。
あたしは無視した。ああ窓から暴走タクシーが見える。
「今さらですけど。何処に向かってるんですか、今」
助手席で缶コーラを飲んでいた寿也が聞いた。真さんは「ん、ああ……」と少し眠そうに反応した。
「寿也くんのお母さんが居た住所の所……だけど、何か手がかりのある望みは薄そうだな。そうだ」
真さんはパチンと指を鳴らす。
「市役所か図書館に行って、昔の村の事をまず調べてみようっ」
【あとがき】
人ごみが苦手なため都会というと大阪くらいしか行った事がないんですが。友達は上手い例えを言いました。改札口が「人間製造機だ」と。
そして京都で暴走タクシーとニアミスした怖い経験があったため つい暴走……と書いてしまいました。
良心的タクシーさん、ごめんなさい。