第27話(好奇心)
ザー。
ガチャ、バタン。トイレから真さんが出てきた。
「やあゴメンゴメン。話の腰を折っちゃって。えーっと、そうそう。真木ちゃん」
「はい」
オデコをさすりながら、あたしは返事をした。真さんは またコタツに座り直し、あたしを見た。
「シャンプーを飲んでから気がつくまでの間。何があったのか、覚えていないかい」
「えっ……ええと」
あたしは必死に記憶を辿った。あたしは背犬川まで出て行って、シャンプーを飲んだ……それから後は……。
「……覚えてない」
としか、言いようが無かった。「だろうな、ふうむ」
真さんは唸るだけ。あたしは少し申し訳なく小さくなった。
何か少しの事でも、覚えていればよかったのに。
「いいよ、気にする事は無い。君は無事だったんだから。ね?」
優しく真さんは微笑んだ。あたしは口唇をかみ締めて、コクンと頷いた。
「調査を続けてしばらくなるけれど、まだミルキー星人の不思議は多くてね。次から次へと謎は増えてばかりだ。一体俺たちは何処から来て、何故ここに居るのか。何もわかっちゃいないんだな〜」
……そうか。
あたしの出生もわからなければ、ミルキー星人自体の生まれもわからない。
あたしたちは一体、何処からやって来たの。
「だからこそ、調べたくなる。知れば知るほど、謎がまた一つ、一つと増えていく。その謎を解明しに、俺たちは行くんだ」
まるで、開けてはいけないと言われている宝箱を開けたくて、ウズウズしているように見える。
好奇心。
あたしたちを動かしていくのは、好奇心、なんだね。真さん。
「……というわけで」
今度はニッカリと、真さんは笑って歯を見せた。
「不思議少年の寿也くんをオーストラリアに行って解剖する前に。寿也くんの出生を調べに行ってみようと思う」
気のせいかも知れないけど。寿也と真さんの仲が急接近したような気がする。
寿也の口数は少ないけれど、ただ真さんの問いかけにも「はい」か「いいえ」と答えるだけで、敵意を出したりするような素振りは無い。無くなった。
自分が解剖されるかもっていうのに、言い返しもしないし。
何なのだろう、この2人。
あたしの居ない間に、何かあったのだろうか……。
あたしはパチッと目を開けた。
いつもはワンルーム内に、あたしと先生が布団を並べて寝ているのだけれど。今日は違う。
先生は居ない(ウインナー中だ)し、真さんと寿也がお泊まりだ。2つの布団の上に、3人が川の字になって寝ている。窓の方から順に、あたし、真さん、寿也。あたしは窓の方を向いていて、窓から星を見た。
四角い限られた窓のスペースに、星空という天然の絵画。
残念ながら方角が違うのか、月が居ない。
(「真木……」)
ピクッ、とあたしは反応した。でも振り返らない。
声の主は寿也だ。
(「……何? 眠れないの、寿也」)
(「お前こそ」)
(「あたしも何だか、眠れない」)