第23話(リリン王女)
寿也も、自分の出生を知らない。
一番古い記憶で覚えているのは、星空の記憶。都会では絶対に見られないような、天然のプラネタリウム。……おかしな言い方だ。
空に光が いっぱい。あれは何。
……あれはね、『星』というのだよ。
星? ずいぶんたくさんあるんだね。数えきれない。あ、今、何かがシュッて。
……それは、ほうき星。『流れ星』っていうのよ、寿也。
と、まだ幼い寿也の手を引いているのは、女性。優しそうな、女の人。温かい眼差し。
でも雰囲気だけしか覚えていない。
雰囲気だけの女性は まだ幼い寿也に こう言った。
「寿也、あなたはリリン王女を何が何でも守るのよ。私には無理だった」
……。
リリン王女……?
僕が守るの? 何で?
「アンタ、成長したらこの村を出て、王女を捜して守りに行きなさいよね」
はあ?
「フー。お腹すいたわね帰ろ。今日はミルキーうどんよ、寿也」
この たくましい女性は一体誰だったんだろう。寿也には……わからない。大きくなっても。
「星が天かすに見えてきたぁ!」
寿也の手を離して、女性は大きく空に伸びるように両手をあげた。
リリン王女。守る。僕が。捜して。村を出る。
王女を、守る使命。
そして……ミルキーうどん。
「これが僕の一番古い記憶だ。僕はその女の人と一緒に村に暮らしていたみたいだが、あまり生活を覚えていない。僕がミルキー星人だという事を知ったのは、今の両親に引きとられてから聞いて知った。両親には王女の事なんて教えていないけど……」
一気に話し出す寿也に、待ったをかける真。
「ちょっと待て。いきなり壮大というか、ぶっ飛びそうな話をされても、読者がついて来られない。つまりは何だ。ええと……リリン王女を守る」
真はシンプルに結論をまとめた。
「リリン王女というのが……真木ちゃん」
イエス。作者が叫んだ。
すみません。
「何で わかった。いつから わかったんだ。真木ちゃんがそれと」
真は興味津々に寿也に詰め寄った。とても興奮している。一瞬、助けを電波で呼ぼうかと寿也は思った。それか、ミルキー棒で……。
「なあ教えろ。教えてくれよ! 君が普通のミルキー星人とは違うというのは部屋を見れば明らかだった。君にはひじょーに興味を注がれる。連れて帰って解剖したいくらいだ」
……本当にヘルプ電波を飛ばそうかな。ああでも真木だけの力じゃ無理だな、相手は大人だ、先生は今ウインナー中だし……。
と、寿也はウンザリしていたが、仕方ない何処までも付き合うかと心に決めた。
「まさか真木ちゃんに『王女』なんて書いてあるわけじゃあるまいし」
真はハハハと笑った。寿也はハア……とため息を一つ。
「そのまさかだよ」
真の笑いがピタリと止まる。
「え?」
「真木の頭上に、『リリン王女』って書いてあんの」