第19話(伝説)
「ボロいアパートで狭いけど、家に来たまえ。真木、今夜は鍋パーティーにしよう」
という先生の提案で、寿也と佐藤くんを我が家に招く事にした。
「俺の事は千歳でいいよ。サトウと呼ばれるとミルキー星人て事がバレそうで嫌だ」
学校の下校途中、帰り道で あたしたち3人と先生と、並んで歩いていた時にそう言った。変な気遣いね佐藤くん。
「だから呼ぶなって」
うん気をつけてあげる。佐藤くん。「……」
先生もさっきサラリと言っていた、ボロいアパート『しょぼクレ荘』に着いた。古屋なイメージで造られた建物かどうかは、いつか勇気を出して大家さんに聞くしか無い。
ここの2階、奥から3番目の部屋に あたしと先生は住んでいる。
「手前から2番目の部屋だな」
と、先生が先行く寿也たちに教えた。つまり2階には部屋が4部屋ある。
5部屋と思ったアナタ、だまされないように。
我が家に辿り着き、先生は玄関の鍵を開けた。そしてドアを開ける。
ガチャ。
そして。
バタン。
先生は すぐにドアを閉めた。
先生の謎の行動。
「……? 先生、どうかした?」
先生は しばらく動かなかった。
あたしたちは後ろで「???」という顔をするばかり。
「真木」
先生は、ゆっくりとあたしを見る。
「何……? 先生、額に汗が」
「いや、今、このアパートに まつわる伝説を思い出した」
伝説って。
「4部屋しか無いはずの部屋の数が、いきなり5つになっていたという」
それは伝説というより怪談では。
「ここで合ってますけど」
と、寿也が表札を指さして言った。表札には しっかり『軽井岩生・真木』と。
「何か居たんですか?」
千歳くんも首を傾げた。
先生は、今度は ゆっくり玄関のドアを開ける。そして入って行った。
玄関を進むと すぐに台所の向こうがワンルーム。
「おい岩生。物騒だな、玄関の鍵が開いてたぞ。閉めといたけど」
……男の声がした。
「ま、俺にとっちゃ開いててラッキーだった。ホレ、もうすぐ煮える」
コタツの上にスキヤキ鍋。熱い湯気の向こうで、男が一人。
あたしたちの帰りを待っていた……のか?
「真……」
「よう岩生。帰って来たぞ」
先生の手からカバンがゴトンと落ちた。
あたしは男の声に何処かで聞き覚えがある気がした。
【あとがき】
手が勝手に書きました。『しょぼクレ荘』。
物書きの奇跡を見たのかもしれません。