第15話(王子強奪)
寿也がさらわれた。
え? あたしを怪盗紳士がさらっていくんじゃなかったの?
予想もしていなかった事態に、舞台袖とあたしは大慌てだ。とにかく幕は下ろされた。
観客は、あたしの最後のセリフが物語のオチだと思っているらしい。ロミオンに捨てられたジュリエール……もしくは王子を強奪された姫。
それより、寿也は何処!?
「寿也!」あたしは駆け出した。
舞台裏で委員長たちも大騒ぎだった。「また寿也くんの悪ふざけなの!?」……と、おかんむり。
違う。
ああ、目を開ければよかった。一体、あたしが目を閉じている間に何が起こったというのだろう。
あたしはクラスメイトの間を駆け抜けて、舞台裏を抜け出した。「真木ちゃん! 舞台あいさつが」と誰かが言った。「ゴメン、パス!」
あたしはそれどころじゃ無いんだから。
先生を見つけた。中庭でキョロキョロしながらウロウロしていた。
「先生!」
「真木!」
ハアハアと、飛び込むように走ってきたあたしを支えてくれた。「とととと寿也が……」
「最初、気がつかなかった。鴨目が、出番を間違えたかアドリブか悪ふざけだと思ったんだが。……鴨目は、トイレで気を失っていたよ。さっき保健室に運んだ。それより」
「誰だか、わからなかったの!?」
「怪盗紳士の服を着て顔を隠していたから、鴨目だと思っていたんだよ! でも違った。由高は何処行ったんだ……!」
顔面蒼白の先生。
あたしだってそうだ。血の気が引く。そして、涙が出てきた。
(寿也……! 何処? 何処に行っちゃったの!? ……)
拭いても拭いても、ポロポロ涙がこぼれてくる。不安が、さらに後押ししてくる。
(寿也ぁ……!)
悲鳴のように嘆いた。
(「……真木……」)
微かに、声が聞こえた。
「寿也っ!?」
あたしは声に出して名前を呼んだ。突然の事にびっくりした先生は、そのまま あたしを見守っている。
(「……僕は、無事だけど……」)
再度、今度は はっきりと聞こえた。紛れも無く、寿也の声だ。
「これってミルキー電波よねっ!? 何て便利なの、ヤッホウ!」
今さらミルキー電波の利便性について感動している。しかも無料だ。
(「学校の屋上に居るから、来てくれるか。とりあえず」)
「屋上ね!? わかったわ、先生も居るから、2人で すぐ行く!」
あたしがクルリと方向転換して今にも走り出そうとすると、寿也がすごく低い声で言った。
(「早く。色んな意味で、身の危険を感じる……」)