第14話(あなたのために)
練習は本番のように。本番は練習のように。
誰が言い出したんだろう、全くその通りだ。
あたしは練習のように、ジュリエールに なりきっていった。
「ロミオン様……何故あなたはロミオン様なの」「あなたのためなら、この名を捨てます」
あたしはバルコニーから、下に居るロミオンこと寿也を見つめた。練習中の寿也は、実はハグオンですとかセイバーですとか、アドリブ上等だった。
委員長に嘆かれっぱなしだったけれど、やはり本番は台本通りキチンとやっている。
しかしまあ、何というか……。
「もし この名が2人の障害となるのなら、今夜を限りにこの名を捨てましょう……ジュリエール、あなたのために」
真剣な顔であたしを見る寿也。真っ直ぐ、下から あたしだけを。
……ニヤリ。いや、ドキン。
こうして見ると、寿也ってカッコいいんだよね、とか思いつつ。
寿也は、どう思っているのでしょう。一応、メイクと衣装は完璧だと思うのですが。
おっと、いかんいかん。あたしはジュリエール。ジュリエール。
ロミオンを愛する、ジュリエール。
物語はピークを迎えていた。クライマックス。
あたしは棺の中で花に囲まれて、眠っている。仮死状態、というやつだ。
ここでロミオンが登場。あたしが死んだと思ったロミオンは、毒を飲んでジュリエールの後を追おうとするのだ。後でジュリエールが目を覚ますとも知らずに。
ロミオンは駆けつけた。棺の中のあたしを見て、セリフを吐く。
「何という事だ。あなたの居ない この世になんて未練は無い。今すぐ、私も……」
そうそう。その調子。
ロミオンが毒を飲んで死んだ後、あたしは目を覚まして今度は剣で死のうとするのよ。早く倒れちゃって、ロミオン。寿也。
「あなたの元へ……」
……そう言いかけて、セリフが止まった。
シーン……。静かだ。
ツカツカツカ。
ツカツカツカ? 誰かが近づいて来た音がした。
バッサァァァア! ……? 布を かぶせたような音。
「誰だ、お前!?」
え? 寿也の怒った声!?
「君を さらって行くよ。それでは また」
謎の声がした。
ん?
……何処かで聞いた声。
タッタッタッタッタッ。
最後は走り去る音。
……。
……。
あたしは、ガバッ!! と身を起こした。
周りには誰も居ない。
居ないイナイイナイ!! 寿也も!
どよめく観客。あたしは混乱して叫ぶしか無かった。
「ロミオン様、いずこ!?」