第13話(ジュリエールと謎の妖精)
誰かに つけられている。
えっ? それって女? それとも男? ……わからない、と寿也は言う。
一回待ち伏せしてみて、角から飛び出してみたのだが。おかしな事に居たのはコオロギ一匹。見渡しても、誰も居なかった。確かに後から つけてくる足音は聞こえたのに。
逃がしたのか。くやしいので、そのコオロギは連れて帰った、と言う。
「今朝、コオロギは野っ原に放してやったけどな。どうも腑に落ちん。確かにジッと見られてたんだ」
寿也にしては、よくしゃべる。
……きっと、よっぽど不気味に違いない。
学芸会の本番を迎えた。
もはやストーカーの事など、どうでもよい。頭の中は劇一色だ。
ボロボロになった台本を何度でも読み返す。内容なんてもう完璧に覚えちゃいるが、それでも何度もページをめくった。これぞ緊張。
ビーッ!!
嫌な音に聞こえた。開幕の合図だ。
「これより5年A組による、演劇……」アナウンスが流れる。
ああ心臓が張り裂けそう。どうしよう!
……すると。
(「大丈夫……落ち着いて。怖くないから」)
優しい声が聞こえた。
「え……?」
幕が開く。ドレスの衣装に身を包んだクラスメイトたちが、陽気なダンスリズムに のってクルクルと踊る。
貴族のパーティーの場面から始まりだ。あたしは もうすぐ登場する……。
ジュリエールとして。
(「さあ出番かな。ホラ、行って。練習通り、転ばないように」)
また聞こえた。
あなたは、一体誰? ……そばには誰も居ないのに……。
寿也? ううん、違う人の声。……温かくて、強い声……。
あたしは幸せに導かれるみたいに、ゆっくりと舞台の方へ歩いて行った。
絶対トチらない。あたしは黄金のオーラに包まれたかみたいに、堂々としていた。
「おお……!」と観客席から声がした。
え? そんなにすごかった? とあたしは少し照れる。
何だこの自信は。どっから生まれた?
(ありがとう……謎の妖精さん)
あたしは お礼を言った。
(「いやあ、なになに」)
照れているのか、やけにフレンドリーな妖精ね。
最後に妖精は こう言った。
(「今度メシでも おごってね」)
……一気に夢から覚めた。