第11話(佐藤千歳)
「ああロミオン様、ロミオン様。何故あなたはロミオン様なの」
「親が付けてくれたから」
「ハイ カーットォ! 由高くん、頼むから台本覚えて来て」
そう学級委員長に叱られている寿也。大あくびをしてつまらなそうにしている。
「だって面倒。適当でいいじゃん」
「何言ってんの! この大河内秋乃様が手がけた脚本、『ロミオンとジュリエール』は、この背犬小学校の歴史に残って語り継がれる名作となるのよ! 黙って台本通りにしてよ!」
脚本・演出・監督をかって出た彼女に、逆らえる者は居ない。
たかだか学芸会で……かわいそうな寿也……と、あたし。あたしが学校を欠席している間、劇のキャスティングで あたしが主役に勝手に選ばれてしまった。
そして相手役は寿也。何のマチガイだ。
しかも愛と悲しみだぁ? チョイト哀れみの勘違いでないのか。
「ま、思い出だ。だってお前、もうすぐガンダーラかどっか、行くんだろ」
放課後、帰る前に寿也が聞いてきた。
「ガンダーラじゃなくてオーストラリアよ! ……うん、だけどもう少し先だと思う。最近先生の帰りが遅いから、聞くに聞けなくって」
もう誰も居ない教室で、寿也はドアの所であたしを見ていた。でももう帰ろうとしている。
「人間が何やろうとしてんだか……」
寿也は目を伏せた。
あたしはカチンときた。
「先生を悪く言わないで!」
あたしは怒る。「……ごめん」寿也は謝って教室のドアから去った。
オヤ? 寿也が素直に謝った……ちょっと、不気味。
何はともあれ。季節は秋。
校舎の外に出ると、風を冷たい、と感じるようになった。校門を出るまでの通りに沿って銀杏の樹が「私たちが主役よ見て」と言わんばかりに賑やかに色を付けている。
視界が黄色っぽく、または赤っぽくなるのよね この季節、と思い描きながら一人校門を出た所で。
寿也に背格好のよく似た男の子が、門のそばに立っていた。
ファー付きのベストを着て、端整そうな顔をしている。姿勢がいいのか、スラッとして立ち方が締まっている。
誰かと待ち合わせしているのだろうか。あたしは前を通りすぎた。
「あの」
男の子は話しかけてきた。「はい?」
「由高寿也って、ご存知ですか?」
ニコッと、愛想よく笑った。
「友達ですけど……寿也に何か?」
「僕は佐藤 千歳といいます。寿、帰られました?」
トシ……って呼び方、親しげね。
「先に……帰ったと思うけど」
「そうですか。では、また。ありがとう真木さん」
そう言ってあたしが行く方とは逆に歩いて行った。
(何の用だったんだろ、寿也に……あの人)
あたしは去り行く男の子の背を、角を曲がって見えなくなるまで見続けていた。
あたしも歩き出す。寒いから早く帰ろう。
そこでハッと気がついた。
あたし、自分の名前言ったっけ?