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[72]エロキノコ確保

 ビルに入ったボクはエレベーターへ。三階の表示と共に開いた扉の前に誰もいなかったことに先ずは安心、恐る恐る足を踏み出す。お店のドアはすぐそこだ。

 ヤバいブツを売買するショップだし、閉鎖的でおっかない場所に違いない――こんなちんちくりんな高校生が入ったら最後、タダじゃ帰してくれないんじゃないか――そう覚悟して入ったこのお店だけれど、思ってたより開放的で普通の雰囲気だった。


 売っている品物は普通じゃなかったけど。そう、どれもエロいアイテム!


 ボクはお湯でも沸かせそうなくらいに顔を熱くして店内を彷徨った。きっと傍から見ると耳なんて真っ赤なのだろう。並んでいる商品は当然、そういった品物。あんなのやこんなの、ネットでネタにされているのは知っているけど、現物を見るのは初めての品ばかり。中には用途すら分からない代物も混じっている。


 ディッピーは案外とすぐに見つけられた。そのスケベキノコは、似たような形のアイテムが揃えられている棚に、溶け込むように並んでいた。


「ディッピー!」

『ほわ? あ、プリンセス!』

「何やってるんだよ、こんなところで」

『ここにいると落ち着くキノコ。つい寝てしまったキノコ』

「ほら、帰るよ!」


 乱暴にディッピーを掴んだボク。目的達成、さあ帰ろう――と、そこで自分の身に降りかかる視線を感じた。声をかけて来たのは、その視線の持ち主だった。


「あんちゃんも好きやねー」

「……え?」


 カウンターから親しそうに話しかける店員の指は、ボクのジャージを指し示していた。


「それ、白梅女学院のジャージやん。拗らせとるなぁ」

「あ、いや、その!」


 一発で見極めた!? コイツ、できる。


 まだ若い感じの店員。ビンテージ物とおぼしきラフなカジュアルを着崩した、中々にスタイルの良い洒落っけのある男が、少しまなじりの下がった人好きのしそうな顔をほころばせ、狼狽えるボクを相手に一方的に語り始めた。


「ええのん、ええのん。そないな趣味、まだまだカワイイもんや。そやけどいいなぁ、若いってええもんや。もう、この抑え切れない感じ。好きやわぁ」

「あ、は、いや……」

「自分、こういった店慣れてなさそうやね? 思い切ってこの店まで来たのん?」

「ち、ち、違……」

「興味津々、いかにも青春って感じや。あ、気にせんでええんよ。ここ、見とるだけでも楽しいもんなぁ。そうそう、僕、店員や無いから。僕にカウンターを任せて、店長ったら遊びに出とるんよ。てなわけで、まあ、好きに冷やかしといてな?」


 なんて人懐っこい店員――いや、店員じゃないって言ってたか――なんだ。気まず過ぎる。このまま店を出るには忍びないというか、この人を前に許されない気がして来た。ああっ、なんて気が小さいんだ、果無都(ボク)


「こ、これください!」


 ボクはそこら辺から適当に選んだやつを差し出した。


「まいどありー! 今宵は楽しみなよ、少年!」


 親しげな声を背に、ボクはこの店を後にした。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


「姫様! ご無事でしたか!」

「おかえりー、美彌子っち」

「ふうう……ようやく出られた」


 アヤメと浅見さんの待つ路地裏へ戻ると、生還してきたボクの健闘を讃える二人の声。アヤメから手渡されたミネラルウォーターで心を落ち着かせてから、着替えるために手にした紙袋を浅見さんに手渡す。


「侮っていた……一発でこのジャージが学校のだってバレちゃったよ」

『まったくディッピーったら、プリンセスに手間をかけさせて、ダメじゃない』

『う……ディッピーは孤高のキノコなのだ! どこに行こうとキノコの勝手なのだ!』

「ねえ、美彌子っち?」

「ん?」

「これ、何なのー?」


 はっ!? 無意識のうちにエロアイテムを浅見さんに渡してしまった。紙袋を覗き込む浅見さんは、興味しんしんといった感じで声をかけて来た。


「えっと……その……気持ち良くなるアイテム?」

「……!?」


 ハタと動きが止まる浅見さん。紙袋に落ちてた視線が、恐る恐るボクの方へと向く。


「な……何で?」

「勢いで買う破目になっちゃったんだよ! これ以上突っ込まないで」

「ね、ねー……ちょっとだけ、見ていい?」

「は?」


 答えも待たずに紙袋の中に手を突っ込む浅見さんの息が荒い。


「うおー! 何これ!? えー、うわぁ……ひょっとしてこれ、男の子用の……やつ?」

「そ、そうみたいだけど……」

「うわぁ、見るからにヤバ気な形をしているわー。で……これ、ど、どうやって……使うの?」


 あああっ! それとボクの股間を交互に見ながら言わないでください! 全く、興味津々過ぎるよ。おまけに、それまでキョトンと見ていたアヤメまで、それがどんな機能を持つものなのか見当がついたらしく、挙動不審気味に顔を背けたり覗き込んだりを繰り返し始めた。


「想像しちゃダメ! 変身を解除するから、そっち向いていて!」


 女モードに戻りジャージからセーラー服に着替えている間も、浅見さんはボクに注目しっ放しだ。


「……やっぱり凄いわぁ、さすがプリンセス。男の子の身体に変身するって、どんな感じなんだろー」

「あはは……どうなんだろうね?」


 それをいろんな角度から凝視していた浅見さんは、何か思い当たったようで素っ頓狂な声を上げた。


「はっ!? まさか美彌子っち……帰ってからこれで楽しむとか! 男の子に変身して」

「やらないやらない! 勘弁してよ」

「ほんとにー?」

「欲しくて買った訳じゃないし……もし良ければあげるよ、それ」

「え……」


 よし。反撃成功。こんなもん押し付けられて困るのはそっちだ。これでさすがの浅見さんも黙るだろう――。


 そう思ったのだけど……だがそんなことは無かった。


「止めてよー。こんなもん、もらってどうしようって言うさー……って……いいの? 本当に?」

「は!?」

「いやー、ベ、別に欲しい訳じゃないのよー? 興味あるっていうか、むしろ男の子の生態の資料としてというか……あー、男の子ってホントに馬鹿よねー、こんなので気持ちくなれるんだー、あは、あはは……」


 そう言いつつ浅見さんはそれをカバンの中に押し込んだ。

 あああっ、浅見さんったら妄想力が豊か過ぎ!


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