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[07]明かされる両親の秘密?

「で、ボクの両親がいつ、キミの世界の王様と王妃様とやらになったって訳?」


 目の前の少女によるさっきまでの説明。何処から突っ込んでいいか分からなかったが、とりあえず両親のことを彼女に問い質すことにした――このことが、ボクが置かれたこの訳の分からない状況の元凶なような気がしてきたから。


「最初からです……というか、王位を継承したのは5年前。それまでは皇太子殿下と皇太子妃殿下でしたね」

「……はぁ……」

「むしろ、こちらの世界での果無夫婦こそがフェイクです。零細設計事務所に勤める果無・父、そして夫の薄給を補い高校に入学した一人娘……もとい、表向きは一人息子を養うため週三日のパートタイムを最近始めた果無・母こそ、世を忍ぶ仮の姿!」

「何か安っぽい設定だなぁ……まあいいや、仮にキミの言っていることが本当だとしようか。王様だよ? 王妃様だよ? そんな偉い人が何でまた、その王座をほったらかしにして……」

「嫌になったみたいですよ?」

「……え?……」

「堅苦しい王宮が心底、嫌いになったそうです。どうも、お二人とも自由人というか、放蕩者的なところがありまして……で、お若い頃からこの世界に興味があったそうで『俺たち二人はしばらく、あっちで一般人として暮らすわ』と宣言して、そのまま……」

「そんなこと……許されるの?」

「当然、王宮は上へ下への大混乱。相当すったもんだがあったと聞いております。それが、今から20年前……あ、ちなみにこちらの1年とあちらの1年は、だいたい、一緒なんですよ!」

「……でもさ、ずっと王座をすっぽかしたままなんて、あり得ないでしょ?……」


 きっと、ボクは信じられないという面持ちでそう問いかけていたんだと思う。正直に言うと、結構テキトーなところがある父親だとは思っていた。しかし、そこまでいい加減な人間だったとは。

 そんなボクの内心を知ってか知らずか、目の前の美少女はボクの知らない父さんの生態について語り出す。


「当然、ちょくちょくお帰りになられてます。ほら、王様……というか姫様のお父様、出張で月一くらいは泊まりでお出かけになられてますでしょ? まぁ、そのうち半分くらいは王宮に帰られているんです」

「まさか……二人して結婚記念日だ、会社の斡旋でチケットが取れたとかで、時々泊まりの旅行に出かけるのは……」

「はい、そのまさかです。賓客を迎えての晩餐会など、お二人揃って参加されることもありますから」

「……そうだったのか……はっ!?……いかん、いかん。信じてしまうところだった。うふふふ……実は、気が付いたことがあるんだ。キミの言葉の、重大な矛盾にね!」

「何でしょう、姫様?」

「確か四歳の頃に、ボクに出会ったって言ってたよね?」

「はい、言いました。幼い頃に見た、姫様の神々しいお姿……その時の体験が、ワタシの進むべき道を決めたといっても過言ではありません!」

「何で、違う世界に住むキミとボクが出会えるの?」

「え?……だって姫様、四歳くらいの頃まで、時々あちらの世界にお越しになられていたんですよ?」

「いや、記憶にないぞ! 幼稚園に入る前か……まぁ、その頃の記憶なんて殆ど無いけど、泊まりで出かけたなんて、せいぜい父さんの実家……田舎に帰ったことくらいだ」


 さあどうだ、これが事実だ。しかし、ボクのトレーナーを身に纏った女の子は、顔色一つ変えていなかった。それどころか、今度はボクに質問を始める。


「その後、その実家へはお帰りになったことは?」

「無いよ?……そう言えば、何で田舎に行かなくなっちゃったんだろう……」


 そうなんだ。ちょっと不思議だなぁ、何か事情があるのかなぁ? なんて思うこともあったけど大して気にしていなかった。そんなボクの自問自答を中断する形で、彼女は次の問いを投げかける。


「で、その実家へはどうやって行かれました? クルマ? 電車? 飛行機?」

「あれ……どうだっけ。何か金属的な乗り物で、変なカプセルに入れられて……それが怖くてワンワン泣いていたことは、何となく覚えている……」

「で、その実家はどんな感じでした? それと、そちらの方々は、どのような言葉を喋ってました?」

「えっと……なんかすごい大きなお屋敷……というか王宮だったな……石造りの……そうだ、広過ぎて怖かったんだ……それで……向こうの人達、方言が凄かったのかな?……全然言葉が通じなくて、それでまた、泣いちゃったんだっけ……」

「あと、他には?」

「そうだなぁ……迷子になるから部屋から出ちゃ駄目だよって、母さんに言われてたんだけど、退屈でつい……で、王宮のお花畑……青と、黄色と、真っ白い花……どこまでも続いているかのように広かったのを覚えている……で、本当に迷子になっちゃって……」

「ほうほう」

「そうだ! その時に女の子と出会ったんだ……ボクと同じ位だったかな……泣いていたボクを慰めてくれて……一緒に遊んだんだっけかな……言葉はやっぱり通じなかったけど」

「え?……」

「そうそう、その時に『結婚しよう』なんて言っちゃったんだ……そんな言葉、どこで覚えたんだか……ホント、幼児ってバカだよね? それからどうしたんだろうなぁ……その子に案内されてお屋敷に戻ったんだっけか?……って、おーい?」

「……………………」


 ――あれ? いきなり黙りこんじゃった……しかも、何か目を潤ませて……でも、ちょっと嬉しそうな表情?……どうしちゃったんだろう。変なこと言っちゃったかな?


「おーい、どうしましたー?」

「……あ! スミマセン、姫様。つい、考え事を……えーと、それでですね。今、姫様が仰ったこと、もう一度整理して、よーく、考えてみてください。何かおかしいなー、ちょっと現実離れしているなー、なんて感じませんか?」

「全然?」

「……え?……」

「幼児の頃の記憶なんて、いい加減なものだよ! ましてやボクは子供の頃、ファンタジーとか大好きだったんだ。その頃に読んだ絵本とか、物語の設定やガジェットで上書きされて、ごっちゃになっていてもおかしくない……っていうか、そうに決まっている」

「はぁ……そうですか……」


 それまでの嬉しそうな顔から一転、ちょっとガッカリした様な表情。

 でも――良く考えてみると、さっき言った四歳の時のあれって、とても不思議な体験――いや、記憶だ。彼女の言うことも、不思議と辻褄が合っちゃう。まぁ、そうだとしても彼女の思惑通りに話を合わせる必要もないよ……ね。


 この少女が言っていることは真実なのか、偽りなのか。嘘を言ったり、人をだましたりするような娘には見えないけど――いずれにせよ、時という魔法がそのうち、本当のことをあぶり出してくれるだろう。


 お約束だとこの少女、ボクにずっと付き纏うつもりだろうが……それまでの間、適当に相手していればいいだろう。少なくとも、ボクに害を及ぼすようには思えないし――まあ、この子に悪意が無さそうだということだけは、今までのやり取りで確信が持てた気がする。


 それよりなにより――この女の子、超カワイイ。ボクの好みにどんぴしゃりだということに、今更になって気が付いたんだ。

 姫カット風の黒髪。おっとりした感じと快活さが同居した様な感じで、とても和風な佇まいなんだけど、瞳なんかはちょっと北欧のお人形さんっぽい感じ。彼女はボクのことを“姫様”と呼ぶけど、むしろこの少女の方がお姫様っぽい。

 お姫様というか、良く物語に出てくる茶道とか華道の家元で育った一人娘、といった雰囲気だろうか。キチンと礼儀作法を躾けられている一方で、本人はその枠から飛び出したがっている――そんな個性が見て取れた。


 ――と、そんなことを考えていた時だった。さっきのやり取りで大人しくしていた、この人畜無害(?)少女が再び口を開く。


「それで、姫様?」

「ん、何?」


 しまったーっ!! 繰り返される“姫様”というのに、不本意ながら、思わず順応してしまったらしい! ピンチだぞ、どうする果無都!


「この週末は、結構忙しくなります。早くシャワーを浴びて、出かけましょう。いろいろと準備が必要なのです」

「準備って?」

「来週から、学校が始まりますので」

「あ、そうだよ! 学校だよ!? 体育とかもあるし、この身体じゃ、とても誤魔化しきれない! とにかく、とりあえずでもいいから男に戻して!」

「いえ、そうではないです……と言いますか、私には王女殿下の性別を変えることはできないのです……それどころか、一度封印を完全に解いてしまった以上、王様でさえも王女殿下を再び今までの様な仮の姿……つまり、男性の姿には変えられないかと」

「ええええええ!?」

「そういうことですので、制服、下着、その他もろもろの準備、それが終わりましたら、こちらの世界での、女の子のエチケットとか、マナーについて色々とご説明を……」

「はい? どういうこと」

「姫様とワタシ、一緒に転入……いえ、正確に言いますと姫様は転入では無いのですが」

「何を……言っているの? 転入って、どこに?」


「市立白梅女学院……はい、すぐそこにある、あの高校です」


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