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[プロローグ]津島さんの許嫁

「婚約者? いるわよ」


 さも当然といった口調で津島さんは言った。


 どこをどう行き着いてこの話の流れになったのかは思い出せないけれど、冗談という感じでは無く、至極真面目な表情で彼女は続けた。


「写真、見る?」

「え、持ち歩いてるの!?」

「そりゃあ、婚約者フィアンセの写真だもの」


 ボクらは津島さんが生徒手帳の中から取り出した写真を取り囲む。


「あわわ、美形ですぅ……」


 香純ちゃんが小さく声を出した。スーツ姿をビシッと決めた、長髪も麗しい好青年。しかも、その顔には見覚えがあった。


「これひょっとして、バラエティなんかに良く出ている人?」

「たしか文化人類学者……の方でしたっけ? お名前は……ええっと、金田かねだ千隼ちはやさん?」

「おー、良く知ってんじゃん香純ー」

「あ、姫様と一緒にテレビで見たことがあります! ホストっぽい雰囲気なのに、いろんなことを知っているし頭の回転も速くて、『何様コイツ』と姫様も仰ってました!」

「おいこらフィアンセの前でそんなこと言うなよアヤメ。いや、それは本心からだけどさ。で、津島さん。婚約者ってことはあれ? 親が決めた許嫁ってこと?」

「ええ、そうよ」

「今時、旧家同士の政略結婚なんてねー。上流階級のやんごとなき方々はやっぱり、私ら下々の者とはちょっとズレてるわー」


 そう言う浅見さんは津島さんの許嫁のことを知っていたようだ。だけど正直、ボクはショックを隠せなかった。気のせいか津島さんが遠く霞んで見える。


「金田ったら、この辺りでは超有名な名門の家柄だよね」

「すごいですぅ。江戸時代から続く豪農の津島家、旧華族の白井家と肩を並べる、地元の名士です」

「うん。金田家の人達はみんな学者だったり有名な小説家だったり、天才ばかりって噂されてる」

「ふざけてるでしょー? 津島家と白井家と金田家、下賎の者の血を入れたくないからって、みーんな親戚みたいにしてくっ付いちゃってるのよ? 信じられるー?」


 高校一年生にして既に結婚を決めた相手がいるというのもショックだったが、それがこの清楚なお嬢様、津島さんということに、ボクの心は乱れっぱなしだ。

 津島さんは異性関係に関して疎い方だとずっと思っていた。そういった話題も口に出すことも無かったし、ちょっとエッチな話になると顔を真っ赤にしてフリーズするし、そのせいで、美麗な見た目に反して奥手な女の子なんだなと、勝手に決め付けていた。


 クラスメイトの寄れば決まって花を咲かせるコイバナに辟易していたボクは、そんな津島さん達といる方が気も楽で、結局彼女達とつるむことが多かった。だけどそれは、結婚すら決まっているという、超勝ち組の裏返しということだったのか、余裕ってやつか……。何か裏切られたような不思議な感傷。


「で、深央ー。千隼さんとはドコまでいったのー?」


 出たよコイバナ。浅見さんったらさり気なく聞いてきたよ。彼女もしっかり奥手なくせに、ちょっとエッチな話に興味津々なんだ。ある意味、ここにいる中で一番健全な高校生かもしれない。ボクも含めた四人が注目する中、津島さんが口を開く。


「何処に行くって、旅行なんてしたこと無いわよ?」

「いやいや、そうじゃなくってー」

「え?」


 うわ、カマトトぶってるよ。だがこんな誤魔化しでこの話題は終わらないのだ。恋愛に縁の無いボクと同類だと思っていたのに。この心の傷、真実であがなってもらわねば。次に口火を切ったのはボクだった。


「そういえば、金田さんって東京に住んでるんでしょ? 客員教授やってるしテレビ番組にも出てるし、忙しそうだよね」

「長距離恋愛ですぅ」

「会うの大変そうだね。どのくらいの頻度で逢ってるの?」

「え? 彼と会ったのは一回だけよ?」

「は?」


 聞き間違えかと思った。


「一回だけって……今月に入って一回?」

「いいえ?」

「なら、今年に入って一回?」

「違うわよ」

「まさか……」


 そんな馬鹿な、と思いつつボクは聞いた。


「……人生の中で一回ってこと?」

「ええ。そう言ってるでしょ? 話が決まった小学六年生の時に一回だけ」


 嘘だろ!?


「まさかそれから……会って無いの?」

「そうよ。彼、忙しいし」

「一度も?」

「だからそう言ってるでしょ? くどいわね」

「電話とかは?」

「一度もないわ」


 会ったこと無い、電話もしないフィアンセって、一体何なのだ?


「あはは……あの……その……じゃ聞くけどその時、どんなことを話したの?」

「そうね。『歳は離れているし親の決めたものだけど結婚は結婚だ、義務は果たさないと。でも、それまでの間はお互い、それぞれ恋愛を楽しもう』って言ってたわね」

「…………」


 ボクはその瞬間、津島さんの頭上に物凄く大きなフラグがそびえ立っているような錯覚を感じた。しかもそのフラグの土台はヒビだらけで、今にも崩れそうだということも。


 目の前に浮かぶフラグに書かれた大きな文字。思い出すのは、クラスの子に見せてもらう少女漫画やら、序盤だけやった乙女ゲーやら。飽きもせずそれらで何度も繰り返されるシチュエーション。浅見さんと香純ちゃんとアヤメも同じモノを見たような顔をしている。


 津島さんの頭上にある幻影のフラグにはこう書かれていた。


 ――婚約破棄―― 、と。


はい、予告通り「魔法少女と婚約破棄テンプレ」をモチーフに新たな章を開始いたします。テンプレと言いつつ、テンプレ通りになっているかどうかは非常に怪しいですが(たぶんなってなさそう…)。

相変わらずな魔法少女達ですが、暫しお付き合いくださいませ。番外編の連載中は週一更新の予定です。

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