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[67]ボクたちおホモだち(いや断じて違う!)

「そうだよ妹だよ。もうすぐあいつの誕生日なんだよな。誕生日プレゼント何にするか、いつも悩むんだよ畜生……」


 またこの話題。ダチは相当こだわっているみたい。というか、一人っ子のボクからすればリアル妹のいるこいつが羨ましい。これ以上何を望むって言うんだ。というか、兄妹で誕生日プレゼントを贈るってのは普通のことなの?


 まるでイメージのわかないボクは思わず尋ねた。


「兄妹でプレゼント贈ってるんだ?」

「まあ、恒例行事みたいになってるからな」

「仲いいじゃないか。羨ましい限りだよ」


 社交辞令でも何でもなく、本心が口を突いて出てきた言葉だった。妹がいるってだけで十分羨ましいのに、そんなに仲がいいだなんて。だけどダチはそれを否定する。


「仲いいってか? いやいや、ロクなもんじゃないって……」

「そうなの?」

「そもそも何をプレゼントしたらいいのか、皆目見当もつかん」

「本人に何が欲しいのか聞きゃいいじゃないか?」

「果無は女のこと分かって無いよな……」

「え?」


 まるで自分は分かっているという口ぶり。


「素直に答えると思うか? 『キモいー』とか『馬鹿じゃないのー』とか罵倒するだけで、何が欲しいか教えちゃくれねえ」

「いや、それ照れ隠しなんじゃないの?」

「そんなカワイイもんじゃねえって」


 そんなもんかな。かなり前のことだけど、奴の妹のことは前に何度か見かけていて、そのビジュアルは何となく覚えている。あんな可愛らしい妹さんに罵倒されるなら、むしろご褒美のような気がしないでも無い。


「ならいつも、何を贈っているの?」

「無難に文房具とか写真立てとか。でもやっぱり『なにこれー』って罵倒するだけで、使っているの見たことねえ」

「うーん、まあそうだろうね。それじゃ駄目だよきっと」

「そっか?」

「ああ。やっぱりカワイイものじゃないと。アクセサリーとかそういったのがいいんじゃない?」

「無理無理。それこそ『超キモい』と言われて即ゴミ箱行きよ。使われるなんて、絶対あり得ねえ」

「それこそ照れ隠しじゃないの? 表向きそんな風に振る舞っても妹さん、後でこっそりゴミ箱から回収するって。兄貴からのプレゼント、実際に身につけなくても、持っているだけで嬉しいものだと思うよ?」

「そんなもんか?」

「ああ、そうだよきっと」

「でもアクセサリーか……あれって、超流行り廃りが激しいじゃん。今の流行りなんて分からねー」


 まあ確かに微妙に流行遅れのを渡されたら『ゲッ』って思われるかもだけど。でも、それだって『全くこれだから兄貴は……』って程度でむしろ好印象、微笑ましいエピソードだと思うんだけどなあ。


「流行り物っぽいのを狙わなければいいんじゃないの? むしろそれっぽいのは避けた方がいいかもしれないね。まあ、いずれにしても多少外したところで、嫌だとは感じないと思うよ?」

「そうかなぁ……」

「あ、ちょうどそこに小物のお店があるじゃん。ちょっと寄って行こうよ」

「まじかよ、おい!?」


 ダチの手を引く。だが手を掴んだ瞬間、自分がとんでもないことをしでかしたことに気付いた。


 男同士で手を握るなんて、まるでホモじゃないか!


 やらかしてしまった……アヤメや香純ちゃんとはいつもそうしていたし、周りの女の子もこの位のスキンシップは当たり前だったからうっかりしてた。やっぱり一カ月のブランクの影響が出ているんだなぁ……。

 だけど、掴んだ瞬間に離すのはかえってわざとらしいし、店に入るまで我慢するしかない。ああ、気持ち悪い。大失敗……。



 ボクはダチの手を引いたまま店に入る。そして、あからさまな態度で即座に奴の手を荒っぽく放し、わざとらしくズボンで掌を拭った。


 少し面食らったらしいダチは、女の子ばかりが彼方此方あちこちにたむろする店内を怯えたように見渡している。


「おい果無……物凄く場違いな感じなのだが」


 居心地悪そうに小声で囁く。こういったお店には入り慣れていないのだろう。

 もちろんボクもそうだ。でもこの店に限ってはアヤメや香純ちゃん、それとクラスの子や白梅会の面々とちょくちょく入っていたから、免疫ができている。


「そうかな?」

「そうだろ! おい……俺達、変な風に見られてるんじゃねえか?」

「かもね」

「おい!?」

「冗談だよ。多分ボク等のことは眼中にすら入って無いと思うよ?」


 見て見ろよ。品定めとお喋りに夢中でボク達に気付きもしない様子。女の子にとってみればイケメン以外存在しないも当然なのだ。悲しいことだけど。


「勘弁しろよ。早く出ようぜ」

「なら、とっとと決めちゃおう」

「簡単に言うなよ。どうやって決めるんだ?」

「適当適当。あ、これなんかカワイイんじゃない?」


 すっ呆けた表情のカメのアクセサリー。つぶらな瞳が可愛い。


「あ、このシリーズの柄のリボンもあるんだ。あれ、妹さんってJCになったばかりだっけ? なら、このベルトもいいんじゃない? ちょっと幼い感じだけど中学生くらいならオッケーかな」

「お、おう……」

「うーん、どれもいいなぁ。結構悩むなぁ。あ、そうだ。予算っていくら位なの?」

「……そうだな。いつもは……」


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 ダチはラッピングされた包みをカバンに突っ込みながら、ボクと店を出た。


「ま、まあ助かったぜ。これで心のつかえが一つ取れた」

「店員さん、『身内の方にプレゼントですか』って言ってたけどさ、良く分かったよね。超能力者なのかなぁ?」

「あ、ああ……。それにしても果無」

「ん?」

「やっぱりお前、少し変わったな」

「そう? ……あ、そうだ」

「何だよ急に?」

「貸しているエフェクター返せよ」

「あれ。果無にエフェクターなんて借りてたっけ?」

「そうだよ」

「思い出せねえ……何、借りてたっけ?」

「ディストーションプラスだよ」

「ああ、あれ果無のだっけか。悪い悪い」


 そんな脈略の無い会話を交わしながら、アーケード街を歩いていた時だ。


 目に留まったのは、向こうから並んで歩いてくる女の子二人。まだずっと遠くワンブロック近く離れているのだけど、談笑しながら歩くその姿は、街往く人々を押しのけボクの目に飛び込んできた。

 寂れた地方都市とはいっても、そこは天気の良い週末。中央通りには、それなりに人が歩いている。だけどずっと遠くからも目を惹きつけるほどの存在感。目立ち具合はまさに格別だった。と言うか――。


(津島さんに浅見さん!?)


 ボクはそれが誰なのか知っていた。二人とも白梅女学院に通う一年。二人揃ってハイスペック系女子なのだけど、特に津島さんの方はあり得ないほど容姿端麗で才色兼備、学校の中で知らぬ者は居ないだろうという位の有名人だ。


 おめかしした二人は、颯爽と道幅の広いアーケードの真ん中を歩いている。まるで映画のワンシーン。道行く人も思わず振り返ったり、見惚れていたり。ふと隣を歩くダチの顔を覗き込むと、まるで魂を抜かれたかのような表情を見せていた。


 それにしても津島さん、街中を歩くなんてことあるんだ。彼女に対しては漠然と、お付きの人とかSPの人とかをいつもはべらせていそうな、とか、黒塗りの車でいつも移動している、とか、そういったあからさまなステロタイプを抱いていたけど、別にそう言う訳ではないらしい。


 しかも。驚いたのはそれだけでは無かった。津島さんの服。


(あれって昨日、あのお店(ミスティー・ムーン)で見たフルオーダーの洋服(オートクチュール)!?)


 あの、物凄く気品溢れる雰囲気を漂わせていたワンピース。そういえば、高橋店長さん――だっけか、特注品として御用命したのはお金持ちでクールビューティーなお嬢様だって言ってたっけ。あのセンスの良さといい、人を選びそうなスタイルといい、今にして思えば、それが津島さんでも不思議では無かった。


 とにかく彼女とあの洋服、完璧に似合っていた。


 程なくして二人はボクらの横を通った。当然、こっちに気付く様子も無ければ気にかける様子も無い。そりゃそうだ。彼女達にしてみればボクらは単なる通行人に過ぎない。津島さんは通行人が浴びせかける視線の束を気にも留めない様子で、浅見さん談笑していた。


 すれ違いざま、爽やかな高原の風が鼻先を撫でたような気がした。気高い香りを運ぶ二人。ボクらはその後ろ姿を追いかけた。


「――はあ。あんな超絶美少女、実在するんだな」


 心ここに在らずといった様子のダチは想いの丈を吐き出す。一方のボクは『悪い、実はボクあのお嬢様と知り合いなんだ』と自慢したくなる気持ちを抑え付け、99%の同意と1%の優越感を織り交ぜた言葉で応じた。


「うん……そうだね。あはは……」


 ちょっとした成り行きのお陰で、あの二人とは学校の中でしょっちゅう顔を合わせる間柄だったりする。そんなこと微塵も知らないダチは尋ねてきた。


「なあ。ちょっと聞いていいか?」

「なに、改まって?」

「もしあんな美少女が同じクラスだったとして、告白する勇気はあるか?」


 考えたことも無かった。そっか……もし第二高校のクラスに津島さんが居たとしたら? ボクは一体どうしただろう。


 最初に思い浮かんできたのは、勃発する争奪戦というテンプレな展開。だけど、かつての学校生活に想像を巡らせるうち、案外とそうでも無いかもしれないという気がしてきた。


 ありきたりな男子には『気後れ』という感情が存在する。少なくともボクは声をかけるのさえ躊躇していたはずだ。彼女に馴れ馴れしく近づけるのは、一握りの自信過剰イケメン野郎位のはず。ボクは思った通りのことを口にした。


「――無理無理。雲の上の存在過ぎてどうにもこうにも。というか玉砕する未来しか見えない」

「そうだよなぁ。手に余るというか、もうちょっと現実見ろというか。そもそも、俺らなんて相手にされる訳無いよな」

「言ってて情けなくなるけどね」

「いやいや、身の程をわきまえるってのも大事じゃねえの。全く、スクールカースト下層は悲しいぜ」


 そんな風に津島さん達との遭遇の余韻に浸っていた時。ふと、道の真ん中に何かが落ちているのを見つけた。


「あれ?」


 それを拾い上げたボクは思わず声を上げる。どこか見覚えのある、しっとりとした色合いのワインレッドの手帳だった。


「なんだそれ?」


 ダチの声は右の耳から左の耳へと通り抜けていた。自分のポケットをまた探り自分の物で無いことを確認したい衝動に駆られつつ、ボクはそれを開いた。


(う、嘘だろ!?)


 それは学生証の入った生徒手帳だった。それも、県下有数のお嬢様学校、白梅女学院の学生証。写っている写真は切れ長の目と綺麗な黒髪が目を引く、静かに微笑む絶世の美少女――学園のアイドル、『ヒメサユリの君』こと津島深央さんその人。そう。ついさっき、すれ違ったあの超絶美少女が落としていったものだった。


★☆ミヤコ君の男体化ゲージ☆★ ―― あと4時間11分。

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