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[06]全裸で外出の際はご注意を!

「大丈夫だ……崩れていない」


 そう、女子高じゃ無きゃそこに通って、通学で毎日30分近くを歩く今の生活を続けなくてもよかったのに……なんていつも思っていた、あの豪奢な建物はいつも通りそびえ立っていた。見たところ、傷一つ付いていない。いつも通りの風景。


 その時だ。犬を連れたおじさんが通りにひょいと出てくる。近所の人だ。


 そのおじさん、ボクに気が付くと――口をあんぐりと開け、目を大きく見開き――そして手にしたリイドをポトリと落とす。何か、凄く驚いているようだ。手綱を放されたワンコは不思議そうに主人の周りをグルグルと回り、『ワン』と一声。


「何だろう?」


 その時、ボクはとんでもないことに思い当たる――おずおずと、ゆっくりと、恐る恐る、自分の体に視線を落とす。


「わぁぁぁぁっ! は、裸のままだった!!」


 もう、血の気は引くし、その直後には、恥ずかしさで血が上って顔なんかは真っ赤になっちゃって、涙目のまま玄関へと一目散。


「あわわわわ……終わった……ボクの人生が……」


 玄関に入ると、ボクは廊下に崩れ落ち、膝を落としたまま泣いていた。


「姫様ぁぁぁ……お止めしようとしたのに……真っ昼間からストリーカー号ストリーキングは駄目ですぅ」

「うわぁぁぁ……変態だと思われたぁぁぁ……しかも、この女の子の体で……」

「あ、でも姫様に助けられた後、このお屋敷に入る時はワタシもスッポンポンでした! 問題無しです。姫様とワタシ、一蓮托生です! 二人とも変な人です!!」


 あああ……この変な人に、変な慰められかたをしてしまった……ボクは泣き続ける。


「まぁ、若さゆえの勢いというか、よくあることです。見てしまったのは年配の殿方でしょ? であれば、大丈夫です。姫様……美しい女性の裸を偶然、見てしまって悪い気はしないでしょうし、言いふらすようなことはしないと思いますよ?」

「……そう、かなぁ……」

「ええ、保証します……根拠は無いですが。それに、もし万が一、姫様の悪評が立つようなことがあれば、王宮に伝わる伝説の儀仗兵器を手に、王様に代わりこのワタクシめがその不埒物を捻り潰してくれましょうぞ!!」

「止めてください! ボクはもう、誰にも会わず一人静かに余生を過ごしたいんだーッ」

「姫様がそうおっしゃるなら……そうですね、ワタシと姫様、二人だけの世界で、ひたすらイチャイチャするという背徳的な一生を送るのも、また乙なものが!」

「あああ、お父さん、お母さん、この不義理な息子をお許しください……って、待てよ。そういえば……」

「そういえば?」

「母さんは? 今日、どっかに出かけてるんだっけ? 朝、学校に行く時はそんなこと言って無かったんだけど」

「あ、そうでした。そのことなんですが」

「ま……まさか、母さんがあれに巻き込まれたとか……」

「いえいえ、それは無いです。王様と王妃殿下は今朝がた〈ストリングス〉討伐隊指揮のため緊急で本国に戻られました。まぁ、ワタシはお二人が不在の間、王女殿下の身辺警護のため派遣された、という訳です」

「……ストリングス……って?」


 突然出てきた“ストリングス”という言葉。どうやらそれは固有名詞らしい。当惑するボクに気が付いたのだろう。少女は身を乗り出し、真剣そうな目つきでボクを見つめるとゆっくりとした口調で言葉を繋ぐ。


「さっきの、あの怪物です。時に姫様、“宇宙ひも”あるいは“ダークマター”というのを御存知でしょうか?」

「ダークマター?……うん、言葉だけは。よくSFなんかに出てくるやつだよね。ビッグバンだっけ? 宇宙の始まり、超高温だった原始の宇宙が物凄い勢いで膨張しながら、急速に冷却されていく……確かその過程で出現したっていう暗黒物質」

「そうです、さすが王女殿下! 火の球だった原始宇宙、それは今の宇宙とは全く異なる物理法則に支配された世界です。それが、ある温度を下回った瞬間、相転移――“自発的な対称性の破れ”っていう現象を引き起こすんです」

「ごめん……イキナリ難しい話をされても……」

「あ、スミマセン……えっと、うんと端折った説明をしますとね? この相転移っていうのは同時多発的、宇宙のあちこちで発生して、同時に宇宙全体へと広がるんです。それって、宇宙の摂理を考えると起きるはずの無い、本来あってはならないことなんです」

「起きてはならないこと?」

「ええ。つまり、一つの宇宙の中でいくつもの小宇宙がぶつかり合うという、自己矛盾に満ちた現象なんです」

「待てよ……その説明、何か聞いたことがあるぞ? で、その時に宇宙の摂理に矛盾が生じないよう、その辻褄を合せるため、膨大な量の質量が生み出されてしまった……それがダークマター。それは“宇宙ひも”という形で今も残っている……」

「その通り! 姫様、博識ーっ!!」

「で、それが……あの怪物の正体だと?」

「いえ、全然違います」


 おい……少女の両肩を掴む手に力が入る。


「あ・あ・あ・あ……ちょっと……姫・様・と……小難・しい・会・話・を・してみた・かった……だけなん・で・す・う・う・う……!!」


 再びボクの手で揺さぶられる少女――今度は、彼女が目を回しだす直前で手を止める。微笑ましいじゃれあいだ。


「申し訳ありません……ごほん。えっと、あの怪物を〈ストリングス〉と呼んでいるのは本当です。でも、その正体は全く不明……まぁ、その正体が“宇宙ひも”だって言うのは、いくつもあるトンでも説のうちの、一つなんですけど」

「で、そのストリングスとやらが、キミの言う王様と王妃様とどう関係があるの?」

「ええ。実は王国が運営するファウンデーションの一つに突然、〈ストリングス〉の大群が攻撃を仕掛けてきたんです。そのため、本国から機動歩兵部隊が派遣されることになったのですが…………」


 ボクなりに理解した彼女の説明を要約すると、こんな感じだ――


 その〈ストリングス〉とかいう怪物は大昔からチョクチョク彼女達の世界を襲っているそうなんだ。でも、まぁ大昔から戦っているので撃退方法なんかは確立していて、防衛は出来ているらしい。

 ところが今回、何故かその〈ストリングス〉が大群で攻撃を仕掛けて来て、稀に見る大々的な戦闘が勃発してしまったんだと。


 で、彼女の世界を統べる存在である王家の人達っていうのは、血統的に超常の力を持っていて一般の兵士や騎士、戦士の数十倍の戦闘能力なんだそうだ。


 当然、偉い人達なので普段は玉座にふんぞり返って『じゃ、キミ達よろしくー』的な立場なんだけど、ここぞという時は自ら出陣することで、民衆にその力を誇示しつつ、その強大な力で敵を圧倒したりする。そうすることで、民衆や王宮の側近、軍や行政機関は王の権威を再確認、外敵も退けられて政体は安泰、一石二鳥って訳。


 そして今回、その“王、自らが出陣する”という事案が発生しっちゃたと。


 ――以上、果無都がお伝えしました……って、自分でもサッパリ分からん。


ブックマーク&評価を入れてくださった方々、ありがとうございます。

さて、宇宙ひもとかダークマターとか何かSFっぽい用語は出てきたのですが、お話の方は相変わらずこんな感じです。

そろそろ状況が動き出しますので、もうしばらくの間、お付き合いくださいませ。

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