[64]地下の実験室で人体改造?
「こ、ここは?」
「お店の地下スタジオ。私のプライベートオフィスでもあるのだけど」
ハンガーに吊るされた無数の衣装。鎮座するスタジオミラーとドレッサー。狭くもない、さりとてさほど広い訳でも無い、そんな閉空間にボクは閉じ込められた。
「だ、誰か助けて!? 拉致です、誘拐です、犯罪です!」
「うふふ……始めましょう、三月?」
「始めましょうか、葉月?」
ボクを羽交い締めにする先生。酒臭い息がうなじにかかる。抵抗できないボクの身体をまた探る店長。
「うぎゃあぁぁっ!?」
「悲鳴なんて上げてカワイイ」
「いい声で鳴くのね――」
うわ駄目だ!? この人も完全に先生と同類! 消えかかっていた彼女に対するボクの警戒心が、再び形を取り戻す。
「――うん、オッケー。まるで女の子みたいな骨格をしているのね。これはイケるわ」
つかつかとストックヤードへと移動し、大量に吊るされているハンガーから服を選び始める店長。もちろん、そこにあるのは全部女物の洋服だ。つまり彼女達はボクに女装をさせようとしている。
「無理です駄目です! そもそも男に合うサイズの服なんてある訳――」
ボクの悲鳴。先生はとろんとした眼で、そんなボクと服を選ぶ店長を交互に見つめ――げ、先生。いつの間にか一升瓶を片手に、お猪口でチビチビやっている。その先生は、相変わらず少しろれつの回らない口調で言った。
「三月はねー? レイヤーさんなの。ビックリしたー? お堅いブティックの店長さんなのにぃ。そっち方面ではー、結構有名人なのよー?」
レイヤーさんって……コスプレイヤーですか!?
「もんのすごいエロいコスプレもやっちゃうんだからー。そこの、すまし顔の三月がよー? 信じられるー? ほんと、エロエロなんだから」
やたらエロを強調する先生。
「それで彼女のサークルなんだけどー。けっこー大きいのよ? メンバーも多くて。でね、そっち方面も充実しててねー」
「……そっち方面?」
「そうよー。男の娘ー!」
先生がそう言うのと同時だった。
店長の心積もりは決まったらしく、彼女は一振りの衣装を手にしていた。それを見た瞬間、頭から血の気が引くボク。あれを――着ろというのか!?
「や、やだーっ!」
「それー、ひん剥けーっ!」
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
ボクがパンツ一枚にされるのにそう時間はかからなかった。いくら二人掛かりとはいえ、抵抗する男の子を相手に――この二人、恐るべきスキル持ちだ。
「うわー、何この綺麗な肌!?」
「男にしておくのはもったいないわね」
「いやだ、見ないでーッ!!」
まるで乙女のように身をよじらせるボク。だけど、そんなことで許してくれる相手では無い。それは二人の目を見ても明らかだった。
肉欲に塗れたじっとりとした目で、まるで品定めをするかのようにボクを見下ろす。
「あら? しっかりと無駄毛の処理をしてるじゃない、この“娘”」
「それはたまたまです! だから誤解だって何度も言って……!?」
「手間が省けたわね」
「やっぱり思った通り。そっちの趣味があるのに嘘をついていたのかしら……でしょ? お姉さんに教えて」
「うるうる……誤解ですぅ」
「強情な“娘”ね。お仕置きが必要ってことかしら」
二人の瞳に宿る嗜虐的な色が濃くなる。
「それにしても本当に透き通るような肌……ちょっとジェラシー」
「でもやっぱり男の子、さすがに産毛は結構あるわね」
「けど体毛もブロンドだから目立たないのかぁ。いいなぁ。いくらなんでも羨まし過ぎるわ……」
「なら、この衣装もじゅうぶん着こなせそうよ……うふふふ」
再び教師と服飾店店長が襲いかかる。その細い指が、ボクにはエロ系モンスターの触手、あるいはドリルやメスといった凶悪な器具のように思えた。
そう。ここは地下の秘密基地。当然、悪役の方の。高級ブティックという看板の裏で、その卓越した技術の限りを使い生み出される邪悪な衣装の数々。
悪の女幹部に捕えられたボクは今まさに、改造手術を受けているところだった。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「うおおおおお!! に、似合い過ぎぃぃ」
「なにこれ!? 反則よ!」
エキサイトする二人の嬌声。彼女達の狂惑は最高潮に達していた。
この露出度の多い服に着替えさせられ、台に横たえられたボクは上半身だけを起こし、二人の視線に晒される肌の面積を少しでも減らそうと、無駄な足掻きをしていた。
身体を斜め横に反らせ、肌の露出した部分を腕で隠し、このあり得ないほど短いスカートの裾を掴み――。なにしろ、1センチでも多くふとももを隠したかった。
そんな姿がまた、二人の嗜虐心を煽るのは目に見えていたけれど。だけど、そうせざるを得なかった。というかこんな短いスカート、女モードでも履いたこと無いよ!?
ノースリーブのタンクトップ。胸元の大きなリボン。そして極端に短いミニのチュチュスカートとニーソックス。露出度の高さをいっそう強調する、凶悪なデザインだった。
「うなじから肩、腕にかけてのエロいライン! ほんとにこいつオトコ!?」
「ほら、腕を上げて! おおおっ、脇の下がフェチズムを刺激するのよ!」
「肌白いー、しゃぶり付きたいわぁ」
「それね? お洋服の色との対比で肌の白さが際立たつよう、ちゃんと計算しているの。だからピンク色の生地を大胆に使っているのよ?」
「マジでピンク色のお洋服ーっ! リアルであり得ねー! どピンクーっ!」
「それにしても、まさか本当にここまで似合うなんて……」
「そして、その真骨頂は!」
「男の娘の絶対領域ッッッ!」
二人の視線がボクの太ももで交錯する。あまりの羞恥にボクは泣いた。
「ところでこんなキャラいたっけ?」
「それ、コスプレ用の衣装じゃないのよ。リスペクトしているイメージはあるんだけど、理想の男の娘を追及してデザインしたオリジナル。だけど、さすがにこれを着こなせる男がいなくてねー、お蔵入りになっていたのよ」
二人の卑猥な視線は終わらない。それはボクの大腿部に狙いすましていた。
「でも……まだ画竜点睛を欠く、よね?」
「そうね」
二人の視線はずっとそこに留まっていた。押し寄せる予感に恐怖するボク。
「そ、そ、そ、それは一体どういう意味……」
「あら、何かしら? そのトランクス」
「……え!?」
「あり得ないわよね、こんな可愛い女の子が、男の下着だなんて」
「ま、まさか……」
二人は夢見る少女のように見つめ合い、生贄を前にした黒魔女のような笑顔を交わした。
「こんな可愛い女の子が付けるべきなのは……」
「……ぐふふ……縞パンツ、よねー?」
「縞パンツ、だわ」
店長さんは、白とブルーのそれをいつの間にか手にしていた。勝ち誇った顔で。というか、ここ洋服屋だろ!? 何で下着があるんだよ、しかもそんなベタなやつ!
「や、や、や、や、止めてくださいーっ、それだけは男の尊厳として! お許しくださいませ、お代官様ーッッ」
「自分で穿くのと、無理矢理穿かされるのと、どっちがいい? ……男の尊厳として?」
「…………」
「あら、お姉さんにやって欲しいのね?」
「…………」
「まあ! エッチな子」
「ぐぬぬ……穿きます」
ボクの尊厳が陥落した瞬間だった。
★☆ミヤコ君の男体化ゲージ☆★ ―― あと6時間37分。




