[プロローグ]ミヤコ姫の男体化ゲージ
――ミヤコ姫の男体化ゲージとは――
遥かなる異世界。そこに我々の知らない王国がある。
王国を統べるのはハート・テナンシー王家。神代から連綿と続く高貴な血筋。神話に彩られた稀有な出自を持つ王の一族は絶大な権力と強大な力を持ち、その慈愛に満ちた施政は国を潤していた。
王国のプリンセス、第一王女にして王位継承者であるミヤコ・ハート・テナンシー。齢15歳。
このうら若く美しい姫はとある事情により王国を離れ、畏れ多くも、王国とは縁もゆかりも無いこの世界で暮らしている。
そんな彼女にはある秘められた能力があった。
王家の血をひく直系の姫君。それも数代に一人だけ、始祖の強い血を引き継ぎ、大いなる力を持つ姫だけが行使できる、世にも珍しいその能力――。
能力の名は、男体化。
王国発行の銀貨にその肖像が刻まれる程の美貌を持ち、王国民から敬愛されているこの可憐な王女は、男の姿へと形を変えることができるのだった。それは王国中枢部でも極一部の人間しか知らない、秘められた真実。
ただし彼女が力を行使するには、ある条件が満たされている必要があった。
それは時が運んでくる小さな欠片。
昼と夜の周期――つまり24時間。その度に約24分という限られた時間だけ、彼女には、男という仮初の姿を纏う力が与えられる。
エーデルワイスの妖精を思わせる麗しく気高い姫。だが彼女は、そうやって溜めた僅かな一時を、男性の姿で過ごすことを密かな楽しみとしていた。
8時間24分――それが今この時、彼女に与えられていた時間。この至福の時を得るため、姫君は三週間近く力を行使せず、我慢に我慢を重ねずっと封印してきたのだ。




