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姫と近衛と魔法少女(その少女はボクのことを姫様と呼ぶけれど…)  作者: 阿弖流為
魔法少女に付きものなアレですよ、アレ!
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ようやく、エピローグ的な何か

「――で、結局あの着替えの画像でいくら位儲けたんだ、あのキノコ達」

「それが、数枚しかダウンロードされなかったみたいですよ」

「何故!?」


 決戦の翌日。学校帰りの道すがら、ボクとアヤメはいつも通り他愛の無い会話を交わしながら歩いていた。


「何故、といいますか……ダウンロードしたのは津島さんだけだったみたいですね」

「なんだそりゃ? というか、そもそも裏サイトって、キノコがどうやったらレンタルサーバーを借りれるんだよ!」


 ところが肝心のキノコは『用事があるのだ!』と言い残したまま今朝からずっといない。香純ちゃん達に聞くと、ディッピーだけでなく他のキノコも行先不明らしい。


 代わりに事情を説明してくれたのは、隣を歩くアヤメだった。


「どうも白梅女学院がっこうのサーバーをハッキングしていたようですよ?」

「ええっ!? なんだよ、それ」

「で、なにぶん女子高のサーバーですから、かなり頑丈なセキュリティが施されていたみたいで……乗っ取ってはみたものの、外部の人はアクセスが拒否されちゃったり、そもそも検索エンジンに引っ掛からないので、気付いた人は誰もいなかったみたいですねぇ」


 おいおい、間抜けすぎるだろう……。というかあの裏サイト、そもそも最初から何もしないで放っておいても良かったんじゃ?


「そもそも津島さん……何でそんなページに気付いたんだ?」


 やっぱり津島お嬢様、かなり変わっている人だ。


 まあ、大騒ぎはしたけれど、結局、今回の盗撮騒ぎで実質的な被害を受けた生徒は殆ど居ない、ということになるらしい。


 ところであの絵師キノコ……ブッシャーが描いた原画は、それぞれ被写体の女の子に配られることになった。


 もちろん、本当のことは言えないし信じてもらえないだろうから、事の顛末については、適当に理由を付けて誤魔化した。


 みんな着替え中の絵なんて、どんな顔をして受け取るのかな、怒り出さないかな……と不安だったけど、意外なことにとても喜んで受け取ってくれた。


 恥ずかしい姿のはずなんだけど、綺麗に描かれていると嬉しいものらしい。やっぱり、ボクには女心と言うのが理解できない。


「ああっ、そうだ!」

「どうされました、姫様?」

「最後の絵! ボクのことを描いたやつ! あれ、何処行ったんだよ」

「ああ、あの絵ですか。ブッシャーさんの最高傑作だと、クレイグさんも言ってました」

「あんなのが流出したら洒落にならないよ……」

「いやあ、こちらを見つめる、姫様のあの戸惑いと恍惚が入り混じった魅惑的な表情……ぐっと心に来るものがありますよねぇ。欲しかったのですが、ジャンケンに負けて津島さんの手に渡ってしまいました」

「おい、どういうことだよ!? ボクのいない間にそんな取引が?」


 てか津島さん、何でそんな絵を欲しがるんだ。


「と言うか待てよ……学園のアイドル、津島さんの絵だったらみんな欲しがると思うんだけど、あの絵師キノコ……なんで描かなかったのかなぁ?」

「えへへ……実はですね?」


 悪戯な笑みを浮かべるアヤメ。彼女は肩にかけたカバンを開け、ガサゴソと中をまた探り始めた。


「熾烈な交渉の末、代わりに譲り受けることになったのです。ほら、見てください!」


 その絵にはヒメサユリの君、津島さんの着替えが繊細なタッチで描かれていた。


 端正な顔立ちの美少女。そのスラリとした肩から背中、腰にかけての美しいライン。遮る物の無い、さらけ出した白い肌が眩しくて、つややかな黒髪ロングヘアーとのコントラストでよりいっそう映えていた。


 彼女が身に付けているのは、清楚でシンプルな白い下着。考えようによっては旧家のお嬢様である津島さんらしくも思えるし、皆が抱く彼女のイメージからは幼すぎる下着のようにも見える、ちょっと不思議な取り合わせだった。


 絵の中の津島さんは整った顔をうつむかせ、華奢な両手で、そのあまりに慎ましい胸をブラジャー越しに『寄せて上げて』し、そんな自分の胸を納得いかなそうな表情で見つめていた。


「姫様と同じ構図です! エーデルワイスの君と、ヒメサユリの君。いやあ、凄いコレクションです!」


 大切そうにその絵を仕舞うアヤメ。


 いや待てよ? ボクの絵にも確かにそんな構図のがあったよな……津島さんが最初にダウンロードしたやつ。そうだ、あの絵の原画! ボクは貰って無いんだけど……。


「おいアヤメ? ひょっとしてあの絵も君が持っているの!?」

「えへへーん、家宝にするのですよーっ!」


 逃げるアヤメ。ボクは彼女を追いかけるようにして自宅に戻った。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 その日の夜。アヤメとボクは勉強という名目で、ノートと教科書を机の上に開いたまま、ボクの部屋で昨日見たアニメの論評会を開いていた。一階から母さんの呼ぶ声が聞こえてきたのは、そんな時のことだった。


「ごはんよーっ、ミヤコぉ、アヤメちゃーん」

「はーい、王妃殿下! さあ、姫様も行きましょう」


 ボク達はダイニングに降りていく。そこには晩御飯を準備している母さんと、一足先にお茶碗へと箸を伸ばしている父さん。

 その父さんは舌鼓を打ちながら、機嫌良さそうに母さんへと話しかけた。


「今日の夕飯はやけに豪勢じゃねえか」

「ええ。キノコご飯にキノコのお味噌汁、キノコのあえ物にキノコの天ぷらよ」

「どうしたんだよ、なにか祝い事でもあったのか?」

「そういう訳じゃないの。キノコがたくさん手に入ったの」


「……え?」


 ボクとアヤメは、ぎょっとしてお互いの顔を見合わせる。

 父さんはこの料理をよほど気に入ったのか、熱心に箸と口を動かしている。


「しかしいい味してるな。こりゃ箸が進む」

「でしょう? 天然モノよ」

「ほら、ミヤコにアヤメちゃんも突っ立って無いで早く食えよ。旨いぜ」

「あ……あは……えっと……」


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 それっきりディッピー達を見る事は無かった。合掌――。


これでようやくマスコットキャラクター(または小動物ないし淫獣)も仲間に加わり魔法少女テンプレものとして恰好が付いたという感じでして。当初、小話程度のつもりだったエピソードが随分と長くなってしまいました。延々とお付き合い頂きありがとうございます。

さて。次章は趣向を少し変えます。テーマは『女装』。定番ネタにチャレンジ、ミヤコ君の受難は続くようです。


…それにしてもキノコブラザーズは本当に果無家の面々の胃袋に収まってしまったのでしょうか。

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