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姫と近衛と魔法少女(その少女はボクのことを姫様と呼ぶけれど…)  作者: 阿弖流為
魔法少女に付きものなアレですよ、アレ!
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[55]小動物、マスコット、あるいは淫獣。それは……

 ディッピーと呼ばれたキノコは身体を震わせ、身を悶えるようにしてへたり込む。

 だがそれも束の間のことだった。逡巡を終え遂に観念したのか、彼は絞り出すように言った。


『魔法少女共。キノコと契約するのだ!』

「……え?」


 ボクは力なく聞き返す。キノコと契約? どう言う意味だ? 契約栽培?

 キノコ農園で異世界を無双する……意識が朦朧とし始める中、思わずそんな設定が頭の中に浮かんできた。うず高く積み上げられる原木キノコのビジュアルが頭を過る。


 だけどキノコは今の一言で吹っ切れたらしく、矢継ぎ早に言葉を繰り出してきた。


『仕方が無いのだ! 緊急事態なのだ! 使役されてやるのだ! 有難く思うのだ!』


 あはは……そういうこと? だけど、ボクにできるのは苦笑いだけ。


 お約束と言うか定番、絶対に外せない設定だってことはよく知っている。むしろ、ボク達に……というか、津島さん達に、か……それが今まで無かったという方が驚愕に値する。そう――。


 魔法少女とマスコットキャラクター。


 その所業から淫獣と呼ばれることもあるけど、時として小動物だったり、ぬいぐるみだったり、愛くるしい生命体だったり。総じてそんな設定。

 さらに先鋭化した最近の創作物では、可愛らしい仮面は被っているけど、その正体は魔法少女とは相容れない黒幕。冷徹で決して心を許してはならない存在――ってのが定番だったりするけど。


 でも……キノコだよ? いくらなんでも、おかしいだろ。


 小動物でも無い。ぬいぐるみでも無い。愛らしくも無い……愛らしくてたまるか! キノコだよ、キノコ。歩き喋るキノコ。そんな不気味な存在、払い下げだよ!?


 かと言って、エントロピーがどうのと言いだす知性すら無さそう。というか脳みそは何処にあるんだよ!? キノコの子実体の中に!!


「いや……あの……その……」


 返す言葉を必死に探すボク。出来るだけ当たり障りのない、やんわりとしたお断りの言葉。だけど、キノコは本気だった。


『時間が無いのだ! 頷くだけでいいのだ! それで契約成立なのだ! キノコは魔力の源なのだ! 今は失伝しているけど古い魔導書にはしっかりと書かれているのだ! その力は魔法少女如きには使い切れない程なのだ!』


 不本意ながら、キノコの懇願にボクはそれも選択肢としてアリかな? と思い始めていた。ボクは優柔不断なのだ。無意識のうちに津島さん達の方へ振り返る。


 意外なことに、津島さんと浅見さんは穏やかな表情で頷いた。


 キノコは重ねて言った。


『頼むのだ!』


 今度はアヤメの方へ。彼女は泣き腫らした目をこすり、でもその藍色と翆色のグラデーションがかかった瞳には、あの宝石のような輝きが戻っていて。


 彼女は力強く言った。


「いつまでも落ち込んではいられません! きっとブッシャーさんがワタシ達を導いてくれたのだと思います……その意志、無駄にはしたくないです!」


 そして。


「香純ちゃん?」

「はい……このキノコ達の想いは、私達ときっと同じだと、思います……」


 五人の想いは一致した。ボクは再びキノコへと振り返り、大きく頷いた。


『契約成立なのだ!』


 キノコは満足げな声で宣言した。しかし何も起きない――いや、違う! 体の奥底からポカポカとした温もりが湧き出し、心を満たし始める。それは諦めという名の冷たい負の感情を追い出していく。


「ærkriuflt・kriurithon・glæstæpæn/tol!」


 キノコからの魔力供給で再び魔法が使えるようになった津島さんの声。呪文詠唱。でも――。


「浄化魔法!? そんなことしたら、このキノコ達が……」


 ボクの言いかけた言葉もろとも、世界は眩い光に包まれる。

 急速な勢いで身体の中に入り込んだ悪いモノが光と共に洗い流されていくのがはっきりと分かった。

 光は止む。そして彼女は言った。


「大丈夫よ、果無さん。私達と契約した瞬間、このキノコ達はボスキノコの束縛を離れ邪悪な存在ではなくなった。その証明みたいなものね――」


 その言葉通り、ボクらの周りに集う小さなキノコ達はまだそこに居た。

 津島さんは持ち前のお嬢様的な仕草で立ち上がり、言葉を続けた。


「――さあ、果無さん。戦いを終わらせましょう。貴方の魔法で」

「え? だって――」


 魔法なんて使えない。そもそもボクは魔法少女じゃない。そう言いかけた。


 でも――今なら魔法を使えるような気がした。キノコが不思議な力を分け与えてくれている今なら。

 見渡すと三人の魔法少女は頷いた。魔法をすっと否定してきたアヤメでさえ、気持ちの良い笑顔を返す。その表情から、彼女もボクと同じ思いだということが覗い知れた。


 ボクは錫杖アッシュを掲げ持った。津島さんと浅見さんが、自身の魔法の杖ロッドを重ねた。クロスする三本のロッド。

 さらにアヤメの儀仗兵器ルナケフリが合わさる。ロッドの数は四本になった。それらは共鳴し、ヴーンという音で鳴動し始めた。


「香純ちゃん……あのボスキノコを完全に消し去ってしまうと、今度こそお姉さんのことを聞き出すことができなく……」

「ううん――」


 だけど彼女は首を横に振り、言いかけるボクの言葉を遮った。


「――大好きなお姉ちゃんのこと……あんな存在の言葉で聞きたくない。私なら大丈夫です。一緒に切り拓きましょう……私達の未来を、ね? 美彌子……さん?」


 香純ちゃんは胸を張り自身のロッドを大きく掲げ、そしてゆっくりと下ろした。五本のロッドが交差し、鳴動は一際大きくなる。


「――わかった。遠慮無しのフルパワーで行こう」


『な、何故だァァ! まだ我が野望を捨てる訳には行かぬ!!』


 ボスキノコの叫びを無視し、ボクはイメージを心に思い描く。王女しか行使できない、宇宙の法則さえ打ち砕く必殺技。

 危なっかしい術式だけど、今回は四人のサポートが入る。もう一度視線を巡らせると、目を瞑り集中する四人の姿。ボクには何の不安も無かった。


 時は満ちた。ボクは厳かに解き放った。


hハガルeイスlラグdティールuウル ~ 邪を滅して均衡を維持せよ、母なる浄罪の力を持ちて!」


 生まれ出た光は時空と遊び、空間は震え甲高い音を放ち始める。しかし乱舞する光はそれらを残らず吸収し、束の間の静寂が訪れる。真空崩壊と紙一重の恐るべき力を纏わりつかせ、七色の眩い残像を軌跡としてなびかせながら、召喚された光はある一点に向かい殺到する。


 今度こそ、ボスキノコは完全に消滅した。


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