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姫と近衛と魔法少女(その少女はボクのことを姫様と呼ぶけれど…)  作者: 阿弖流為
魔法少女に付きものなアレですよ、アレ!
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[54]恐怖!キノコ兄弟

「倒した……の?」


 香純ちゃんの肩に寄りかかり困憊した様子の津島さん。彼女は辺りを窺いながらそう尋ね、ボクは願望を口にする。


「そうでなきゃ困る」


 だが現実は残酷だった。


『……ふっふっふっ。それは残念だったな』


 響き渡るあの声。信じられないことに、あの攻撃を持ってしても怪物は息絶えていなかった。

 形を失いバラバラになった破片は不気味に集い、融合し、歪んだキノコの形へと戻っていく。忌々しいボスキノコの高笑いと、無力感にさいなまれたまま悪態一つ紡ぎ出せないボク達。声を出す気力すらも残っていなかった。


 妙な会話が足元から聞こえてきたのは、そんな時だった。


『嘘だキノコ!? あの攻撃を喰らって平気だなんて、どんだけタフなんだ親分!?』

『ふむ。私共の置かれた立場は変わらず。残念ながら親分の配下のまま、ということですな』

『うひょひょひょひょひょ……』

『フッ。洒落にならねえぜ』

『畜生。こんな展開、ブッシャーが浮かばれないキノコ!』


 ボクらの代わりに騒ぎ始めたのは、小さなキノコ達。それらはいつの間にすぐ近くに集まっていた。


 しかしボスキノコは、そんな移り気な下僕の様子など歯牙にもかけず、不吉な言葉を言い放った。


『さて。受けたダメージの回復に努めねばな……先程の続きと洒落込むとしよう。さあ、悶えよ魔法少女共!!』


 その言葉が終わる間もなく胸の奥に小さな違和感。見る見るうちにそれが身体中に広がった。


「!?」


 全身から抜ける力。たまらず膝をつく。見ると香純ちゃんや津島さん、皆同じようにして倒れ込んでいた。

 ふと掌を見ると、そこにびっしりと菌糸が付いていた。拭っても、拭っても、次々と増えていく菌糸。どうやらボク達は寄生されたようだった。


「そうね……ずっとここで戦っていたのだもの。胞子を吸ってしまっていても、おかしく無いわね……」


 再び諦め口調の津島さん。

 ボクは残された意識の中で必死に考える。防護強化服パワードスーツの生命維持システムは働いている。魔法少女だって何か強い力で守られているはずだった。

 にも拘らずこの状況……体内に入ったキノコの増殖はそれを上回るペースで……。


「アヤメ……これ、何とかならな……い?」

「え……ええ、姫様。どうしましょう……」


 しかし心ここに在らずのアヤメ。彼女は精神的ダメージから完全には抜け出していない様子だった。


『おおお! 入って来るぞ魔法少女の生命力! うぬらが弱り果て、放たれし我が胞子が根を張れる時を待っておったぞ! うおおおお! ピチピチでギンギン――ッ!』


 ずっと向こうでウネウネと動くボスキノコだけが一人歓喜の声を上げる。今度こそ、絶体絶命だった。


『フッ。結局、親分が勝つのか……』

『魔法少女に勝つことはできたものの、私共としては本当にこれで良かったのか、考えさせられるところですな』

『なあ? 俺達、本当に親分と契りを交わして良かったのかな……』

『うひょひょひょひょひょ……』

『おい、いまさら何弱気なことを言ってるのだ!?』


 そんなボクらのピンチなど知ったことかという感じで、足元のキノコ達は傘を突き合わせるように話し込んでいた。

 こっちがどうしようも無い状況で能天気に好き勝手話すキノコ達を恨めしくも思うが、それを行動に示す力さえ残って無かった。


『それにしてもなあ……ピチピチでギンギンは無いだろ』

『まあ、厭らしい』

『あれが俺達のボスか。恥ずかし過ぎるだろ』

『……やるせないゼ』

『しかし親分のあの姿……こうやって改めて見ると化物ですな』

『……確かに。良く見ると……本当にアレが俺達と同類……なのか?』

『うひょひょひょひょひょ……しかも、さっきのプリンセスの攻撃を受けてなお健在……もはやアレはキノコでは無いのでヒャあぁぁ』

『……キノコじゃない、だと』

『あら? そう言われてみれば……確かに変ね』


 ひときわ白いキノコが傘を傾げるように言った。他のキノコが注目する中、そのキノコは傘を震わせて叫んだ。


『そうよ! 臭うわ! 臭うわよ! あら嫌!』

『どうしたデレス!? 誰か屁をしたか!』

『まあ、お下品! 違うわよ! 親分の方からプーンと漂ってくるこの汚らしい臭さ……間違いないわ、納豆菌バチルスよ!?』

『な、なんだってー!?』


 ベタな会話劇を繰り返した揚句、これまたベタに驚いて見せるキノコ。


『嘘だろ、納豆菌は俺ら菌類キノコの天敵だぜ!?』

『うひょひょひょ……親分は納豆菌と融合したのだぎゃひゃあぁぁ!?』

『聞き捨てなりませんな。それは我ら高貴な菌類に対する冒涜!』

『おいどういうことだ親分! 教えるのだ!』


 そう叫ぶキノコの声には恐怖と軽蔑が含まれていた。


『いかにも! ようやく気付いたか下僕共よ!』

『どうしてそんな事をしたキノコ!?』

『ふふふ……では聞こう。我ら菌類はあまりにか弱い存在とは思わぬか?』

『どう言うことだキノコ?』


 ボスキノコは滔々とうとうと語り出した。


『……寒さに弱く熱に弱く乾燥に弱く、さりとて水中でも生きてゆけぬ。これら我ら菌類の真実。一方の納豆菌……熱湯の中、真空中、放射線が降りそそぐ中……ありとあらゆる環境で生き残る強靭さ。羨ましいとは思わぬか? だから手を組んだのよ!』

『悪魔に魂を売ったようなものだキノコ! 何のためにそこまでして』

『決まっておろう! ありとあらゆる生命を喰らい尽し、行く行くは宇宙を支配し我が物するため!』


 宇宙を支配? また大きく出たものだ。それにしても、言葉の節々に感じる邪悪な響き。とうの昔に理性なんかかなぐり捨て、欲望のままに生きることを決意した存在。ボスキノコのタガは完全に外れていた。


 その言葉にようやく、足元のキノコも彼の者の異常さ気付いたらしい。


『愚かな! 共生こそキノコの生活史なのだ! 宿主と緩やかに繋がり共に生きるのがキノコなのだ! 喰らい尽しては駄目なのだ! キノコの矜持なのだ!』

『ほう? 人間共を支配するという我が言葉に共感したのはうぬ等では?』

『それは言葉の綾なのだ! キノコの邪魔をしなければそれでいいのだ!』

『くっくっくっ……これだから向上心の無い無能な輩は困る。古い価値観にしがみ付いていたら発展は無いということに何故気付かぬ……さて、お喋りは終わりだ……魔法少女の生命力だけではこの渇きは満たされぬ』

『ど、どう言う意味だキノコ?』

『うぬらも我が糧とする! 喜べ、“個にして全、全にして個”が真の意味で現実のものとなるのだ!』


 触手を思わせる動きで細い糸が迸る。それは一瞬にして足元のキノコ達を絡め取った。


『うぎゃあぁっ』

『いやぁん、なによぉこれ止めてエッチ!』

『うひょひょひょひょ!?』

『ふむ……これは不覚をとりましたな』

『親分は狂ったキノコ!?』


 次々と抗議の声を上げるキノコ。しかしボスキノコは、唯一身体の自由を奪わなかったキノコに向かい平然と命じる。


『――さあ。苦痛に満ちた方法で魔法少女に止めを刺すのだ! その瞬間、爆発的な生命力が我に流れ込む! くっくっ……待ち遠しい。さあ、行け! その後、うぬの事もゆっくりと取り込み、兄弟達の待つヴァルハラへと送り込んでやろう!』


『ぐぬぬ……』


 呻きながらも、じわり、じわり、とにじり寄るキノコ。彼にとって、やはりボスキノコは抵抗が許されない絶対的な存在なのか。


 しかし。


『フッ……それでいいのか、ディッピー? それが貴様の結論か』


 雁字搦めになったキノコの中の一体が力を振り絞るように声をかけた。足を止めるディッピーと呼ばれたキノコ。


『だけど……』

『アレはもう、あたし達の仲間では無いわ!』

『ブッシャーの犠牲を無駄にするのですか、ディッピー?』

『うるさい! クレイグにブッシャーの何が分かる!』

『それは貴方も同じでは? 彼は最後に何を言いました?』

『!?』

『うひょひょひょひょ……魔法少女と共に……親分の支配力が弱まっている今がチャンスなのひゃらぁ!』

『…………』

『それに……見たでしょう? プリンセスの力! 親分……いいえ、融合体に対抗し得る唯一の存在。彼女があたし達最後の希望よ!』


引っ張ります!キノコの生活史にまで話が…でも間もなく決着は付きます。

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