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姫と近衛と魔法少女(その少女はボクのことを姫様と呼ぶけれど…)  作者: 阿弖流為
魔法少女に付きものなアレですよ、アレ!
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[51]凍てつく霧と闇の世界

 ニヴルヘイム。キノコはそう言った。凍てついた霧と闇の世界、始祖神オーディンが創り出したとされる九世界の最下層。ファンタジーでお馴染みの冥界を示す言葉。そこにボク達は閉じ込められた。


「アヤメ、香純ちゃん。大丈夫?」

「はい……姫様」


 アヤメの声。だけど声はすれども真っ暗闇で姿は見えない。手を伸ばしても、まるで闇に吸い込まれたまま、自分の身体でさえ存在しないような錯覚。

 ややあって、香純ちゃんの呪文が暗黒の中から浮かび上がる。


フェオーアクケーンラグアウス


 呪文が終わると同時にぽうと明かりが灯る。ユラユラとした灯りに照らされ、二人はボクのすぐ目の前にいた。


「一人ぼっちで無くて良かったですぅ……真っ暗で怖いです」

「三人とも無事だね」

「姫様も無事なようで何よりです」


 ボクは二人と手を繋いだ。そうしないと心細さで気が変になりそうだった。


 周囲を見渡す。香純ちゃんの言う通りだった。僅かな光の瞬きさえ無い暗黒。闇の中で漆黒が凝縮されたような重くねっとりとした霧が淀み纏わりつく。香純ちゃんの魔法の灯りを貪欲に吸収する霧。


 ゆらめく魔法の燐光だけが、新月の海底から見る頼り無い漁火のようにボク達を見守っている。

 幸い足元だけはしっかりしていた。どうやらボク達はこの空間の中に浮かぶ球体の中にいるみたいだ。


「……ここは本当に霧と闇の世界ニヴルヘイムなのでしょうかぁ」

「どうだろう……津島さんと浅見さんはこの空間に飛ばされてないのかな?」

「はいー。お二人のマナは感じません……まるで無限に広がる虚無ですぅ」

「この三人だけ、ということか」


 つまり――三人だけということは、戦力が分断されてしまったということも意味している。


 今も津島さん達はキノコと戦っていて、厳しい状況になっているのかもしれない。だけど、それを確かめる術は無い。


「それにしても、何故ワタシ達だけこの空間に放り出されたのでしょう……」

『拙者が思うに、親分はお主らの力を恐れているのでござろう』

「うおわぁっ!?」


 ボク達の会話に突然割り込んできた声。現れたのはキノコだった。アヤメの後ろに潜んでいたらしいそれは、ピョコピョコとボク達の前に躍り出る。


「な、何でキノコがここに」

「まさか、ここで戦うつもりですかっ?」


 ボクを庇うように前へ出るアヤメ。しかしキノコはその場に留まり傘を横に振った。その様子は、覚悟を決めた武士が正座して来るべき時を待っている姿を連想させた。


『否。そなたらと剣を交えるつもりはござらぬ』

「まさか昨日のキノコ?」

『はて。昨日とは?』

「お昼に出会っただろ?」

『それは拙者ではござらぬ。だが、彼の者とお主らとのやり取りは存じておる。何しろ、“個にして全、全にして個”故――』


 なるほど。ボクらは納得した様な表情を見せたのだろう。そのことを確認するとキノコはボクにそのくりっとしたまなこを差し向けた。


『――ところで、何故拙者がここに、と聞いたのはお主でござったかな?』

「え? うん」

『簡単なことでござる。拙者は間者として放たれた。アヤメ殿……と言ったか? 戦いが始まってからずっと、拙者はずっとそなたの近くに居たのでござる』


 一体どういうこと? キノコはアヤメに振り返り、アヤメは目をパチクリとさせ聞き返した。


「ワタシの? というか、何故そんな事を?」

『はっ、はっ、はっ、自覚なしでござるか。これは参った……』

「え? え?」

『拙者からも言わせてもらおう。お主の知恵は大したものでござる。その知恵を警戒した親分は、拙者を送り込んだのでござるよ』

「は? はあ……つまり聞き耳を立てていたってことでしょうか?」

『ご明察。お主に策を打たせぬよう、先回りして先手を打ったという次第……これがここに至る顛末という訳でござる』


 そう語るキノコはまるで平然とした口調を崩さない。アヤメも警戒を解いたみたいだ。彼女の背中から徐々に力が抜けて行くのを感じながら、ボクは尋ねた。


「てかさ、ボク達にそんな事ペラペラと喋っていいの? 敵でしょ」

『はっはっはっ。三途の川の駄賃代わりと思っておけば良いでござる。地獄の一丁目へお伴する、拙者の独り言と聞き流してくだされ』

「え?」

『なに、今更親分に義理立てする筋合もなかろうて。そもそも、かような所に囚われては敵も味方も無し。そなたらも、見捨てられた拙者も助かる見込みは無いであろうからな』

「何を言ってるの!? 見捨てられた?」


 キノコの言葉がまるで理解できなかった。

 敵と一緒に飛ばした? 仲間を? ここへ? あり得ないんだけど。


 ところがボクのそんな疑問もキノコは察したらしい。自分の置かれた境遇を語り始めた。


『拙者は所詮、捨て駒なのでござるよ』

「どういうこと?」

『拙者の絵師としての役割は終わり申した。“エロエロお嬢様学校のJK生着替えで菌床買占め大作戦”は失敗に終わったのでござる。さすれば、拙者にはこのような役割しか残っておらぬのは必定。親分も拙者のことなぞ気にかけず、一緒にこのニヴルヘイムとやらに送ったのであろう。はっはっはっ』


 自虐的に笑うキノコ。その姿を見て、ボクの心の中で何かが弾けた。


「そんな馬鹿な! それって、おかしいよ!」


 思わず叫んでいた。


「だって“個にして全、全にして個”だろ? なのに、そう簡単に仲間――というか自分自身を見捨てるのかよ?」


 ボクの問いに、どこか居心地悪そうな様子のキノコは答えない。どこかしょんぼりとしているようにも見える。



 ピキンと言う音が響いた。ボク達を囲む球体が欠けた音。重苦しい闇がゆっくりと流れ込む。魔法の灯りがほんの僅か弱まる。

 ここもそう長く続かないのかもしれない。



 そんな中、何の前触れもなく身を乗り出したのは香純ちゃんだった。


「教えてください! トールケルの魔女……キスゲの魔女ヘメロカリスと逢ったの? 何処にいたの? 他に何か言ってましたか? お願いです、知りたいのです!」


前回の後書き結果報告。実験は失敗の模様。やはりフォント関連は端末依存ですね。


さて。誰得なピンチ回が続いてしまい退屈させております。

オチに向けてぼちぼちスパート(…をかけられればいいな)。

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