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姫と近衛と魔法少女(その少女はボクのことを姫様と呼ぶけれど…)  作者: 阿弖流為
魔法少女に付きものなアレですよ、アレ!
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[49]キノコノコノコキノコノコ

 掌に乗る位の小さなキノコは、しばらくボク達の間をアタフタと行ったり来たりしていた。だけどようやく逃げるという選択肢に思い当たったらしく、ボクと香純ちゃんの間をすり抜け、今度はピョコピョコという足取りで走り出した。


 その姿を視線で追いかけるボク達。

 ちょうどその時。生徒が二人、向こうの方を連れ合って歩いてくるのが目に入った。


「見て! エーデルワイスの君よ!」

「あ、本当だ。うわあ、素敵」


 二人の方もこっちに気が付いたみたいで、大げさに歓声を上げる。


 さり気なく視線を落とすと、そこには動きを止めて縮こまっているキノコが。

 隠れたいがそうも行かず、仕方が無く地面に生えているキノコのフリをしているつもりだろうけど、道のど真ん中に生えているキノコなんて明らかに不自然。しかも、なんか震えているような。


 ボク達をしげしげと見つめているあの二人が、この不自然に生えたキノコに興味を持つのは火を見るより明らかだった。


(さて。どうしたものか……)


 別に助ける義理も無い――けれど、こんなのが見つかったら後々厄介だというのはだいたい想像がつく。


(仕方がない……)


 こんな恥ずかしい真似、真っ平御免だけど背に腹は代えられない。彼女達の注意をキノコから逸らすことにした。


 姿勢を正したボクは、微笑みを浮かべながら髪を掻き上げる。津島さんの真似だ。

 二人の注目がボクに集まったのを確認してから、ちょっとだけ流し目ちっくに視線を送る。頬を赤らめる女の子。その瞳はボクに釘付けとなった。

 この様子だと足元のキノコには気付いてないだろう。


 少し気取った雰囲気を装いながら、ボクは“エーデルワイスの君”モードで声をかけた。


「あら、お二人さん。ごきげんよう。良いお天気ね?」


 仕上げにありったけの笑顔を送ってみせる。さて……二人の反応は?


「きゃああっ! エーデルワイスの君がお声をかけてくださったわ!」

「信じられない! みんなに知らせないと!」


 通りすがりの女の子は、小躍りしながら走り去っていった。


「はあぁ……誤魔化せた」


 ボクはほっと息をつき、地面に固まったままのキノコに語りかけた。


「もう行ったよ」


 それまで動かなかったキノコは恐る恐る立ち上がり、クリっとしたまなこをこちらに向け、戸惑いと強がりを混ぜ合わせたような声で言った。


『何故……助けたキノコ』

「別に助けたつもりはないけど? ただ厄介事が起こると面倒臭かっただけ」

『ぐぬぬ……さてはそんな事を言って、煮る気キノコ? 焼く気キノコ!? やるならやるキノコ! 好きなように調理するが良いキノコ!』

「いやいや、食べたところでお腹を壊しそうだし遠慮するよ」

『感謝なんてしないキノコ! 懐柔なんてされないキノコ!』

「…………」

『魔法少女は敵キノコ! キノコは毒キノコだキノコ! 食べるなら食べるキノコ! そして悶え苦しむが良いキノコ!』

「あのさ?」

『何だキノコ!』

「その末尾の『キノコ』って止めたら? かなり無理があるよ?」


 間が空いた。キノコは心持ち声のトーンを落として言った。


『な、何を言うキノコ……この話し方はキノコのアイデンティティだキノコ。お約束だキノコ……』

「そうやって台詞の最後に何かを付け加えるの、最近は流行らないと思うんだ。たしかそれって、それこそ90年代までの手法じゃなかったけ?」

『……ぐぬぬ……』


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


「――で、何でまたこんな所にハマってたの?」

『……歩いていたら落ち……じゃない、答える義務はないキノコ!……いや、答える義務はないのだ!』

「どうして一人なのですかぁ? お仲間とは一緒じゃないのですかぁ?」

『魔法少女には関係ないのだ!』

「キノコさん達、何処からやってきたのでしょうか?」


 成り行きでボク達はキノコを取り囲み、質問攻めにしていた。

 キノコは毒を吐きつつも、何だかんだと問いかけに答えている。


『キノコは宇宙を旅しているのだ! 永遠のさすらい人ランブリン・マンなのだ!』

「その宇宙の旅人キノコが、何だってまた盗撮画像を売りさばいてるんだよ」

『ここ地球は世知辛いのだ! お金が無ければ菌床一つ買えないのだ!』


 菌床ってあれか? あの、キノコ栽培キットなんかに付いてくる、朽木とかオガクズみたいなやつのこと?


「そんなもの買わなくても、森や林に行けばいくらでも繁殖できるんじゃ……」

『生存競争が激しいのだ! 野生の世界を甘く見るなキノコ! そもそもキノコはシティ派なのだ! 田舎は嫌いなのだ!』


 というか人間に憑りついていただろお前ら? 田舎が嫌いって、ここ田舎だぞ? いろいろと突っ込みたいのをぐっと堪えつつ、ボクは質問の矛先を変えた。


「何であんな絵が上手いんだよ。というか、羨ましいよ」

「そうですね。ワタシ絵心はサッパリなのですが、それでも鬼気迫る物を感じました!」

「実は半分趣味なんじゃないの?」

「それ、何か分かりますぅ……両親の知り合いに画家さんがいるのですが、好きじゃないとやってられないと言ってましたぁ」

『当然だキノコ! ブッシャーは優秀なのだ! そして女体は素晴らしいのだ!』


 そうですか……やっぱりスケベキノコだ。ところでブッシャーって誰?


「そもそも昨日とキャラが違い過ぎるんだけど……どこか設定ミスしていない?」


 誰の何の設定ミスか分からないけど、とりあえず聞いてみた。しかしキノコは、さも当然といった口調で激しく言い放つ。


『どこもおかしくないキノコ! 人間は何も分かっていないのだ!』

「え?」


 キノコの剣幕にボク達は顔を見合わせた。


「ひょっとして昨日のキノコとは別人……人違いってこと?……いや、キノコだから“人”ってことは無いか」

『そんな事無いキノコ! 親分もブッシャーも自分もキノコはキノコ、同じなのだ! “個にして全、全にして個”なのだ!』

「ああ、そいういことね――」


 元ネタが簡単に分かってしまうというのも、面白味が無いような気がしないでもないけれど、あの大作の名言を堂々とパクるキノコに突っ込みを入れない訳にはいかない。ボクは成る程という思いを胸一杯に呟いた。


「――あの作品か。古典だけど名作だよね」

「そうですね姫様! そう言えばあれも菌類が人類を圧倒している世界観でしたっけ?」

「え? 知ってるの、アヤメ?」

「もちです!」

「異世界から来た君が、しかも何でそんな古い作品を知ってるんだよ」

「前にもお話ししたかもしれませんが、あちらの世界でも、こちらの創作物は結構人気なのですよ?」

「そうだったっけ」

「ましてや姫様が暮らす世界に興味があったワタシとしましては、そっち系は少女時代に洗いざらいチェック済みなのです!」

「オタクだったってこと?」

「そうかもしれません! お友達はあまりいませんでしたから、アニメとコミックがワタシの心の支えだったとも言えます!」


 ぼっちの幼女アヤメが、一人寂しく日本のアニメやコミックを貪る姿を想像したボクは、思わずそのギャップに萌えそうになった。

 そんな中、置いてけぼりになった香純ちゃんが、おずおずと声を差し入れる。


「あの……何の話か、さっぱり分からないですぅ」

「ああ、ごめん香純ちゃん。えっとね……大ざっぱに説明すると、いわゆる“超個体”ってやつかな?」

「ちょうこたい、ですかぁ?」

「うん。要するに個々の個性はあるんだけど、それが集まるとあたかも大きな一つの生命体として振る舞うっていう概念。SFなんかで良く出てくるんだ」

「つまりこのキノコもそういった形の自我を持っている、と。そうですよね、姫様?」

「まあ、そんな感じ」

「なるほどぉ……」


 ちょこん。黙ってボク達のやり取りを傍観するキノコ。その姿からは、昨日戦ったキノコの凶悪さとか厭らしさは全く感じない。

 本人は同じモノだと言うが、とても信じられなかった。


 このすっ呆けたキノコを前に毒気を抜かれたのはボクだけでは無いようで、昨日はえらく怒っていたアヤメですら、わだかまりない様子を見せている。彼女は膝を揃えてしゃがむと、好奇心いっぱいの瞳でキノコに問いかけた。


「ところでキノコさん?」

『何だキノコ! なめた口きくと毒吐くぜ! キノコは毒キノコなのだ!』


 精一杯凄んで見せているようだけど、やっぱり粋がっているようにしか見えない。


「昨日、最後に『憶えていやがれー』的な捨て台詞を吐かれてましたけど、まだやる気なのでしょうか?」

『当然だキノコ! 菌類は地上の支配者なのだ! 邪魔者は排除するのみ、なのだ!』

「えっと……今ここで戦う、ということですか?」

『……今は無理なのだ! 準備不足なのだ! だけど親分が策を弄しているのだ!』

「策って?」

『分からない……じゃなかった、教えないキノコ! 魔法少女を倒し、人間共を支配するための、とっておきの策なのだ! 魔法少女は絶対やっつけるキノコ!』


 とても見ていられなかった。だからボクは、アヤメとキノコのやり取りに口を挟んだ。


「それ本心? 何か無理しているように見えるけど……」


 まるで根拠も自信も無かったけれど、そんな気がしたから。

 するとキノコは一瞬だけ暗い表情をした。いや、ただの錯覚。なにしろキノコに表情なんてある訳無いのだから。


『何を言うのだこの腐れプリンセス! 無理なんかして……いないキノコ……』


 甲高い声でなじるキノコだったが、急に消え入るような声に変わった。


『……でも親分、また恐ろしいこと考えているかも……駄目だキノコ! 弱気になるなキノコ! キノコの意思は一つなのだ! キノコは一心同体キノコ! 憎き魔法少女! 命拾いしたキノコ! 今日のところは許すのだ! 首を洗って待っているがいいキノコ!』


 キノコは、今度こそピョコピョコというSEを出しそうな勢いで花壇の方へと駆けて行った。あっという間に草花の間に紛れ、それっきり見つけることはできなかったし、そもそもボク達の方もキノコの後を追って探そうとも思わなかった。


だんだんと話のオチが見えてきましたね(ヒネリが足りないかなぁ)。

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