[43]ベ、別にお胸の大きさなんて気にしてないんだからっ!
「――現場検証ですかぁ?」
「そりゃ捜査の基本だからね」
香純ちゃんの質問に、思いっきり知ったかぶりをして答えたボクは、津島さん達白梅会の面々と共に更衣室へと向かっていた。
学校に残っている生徒もすっかりまばらになった放課後。その廊下をぞろぞろと五人集まって歩く中、浅見さんが津島さんに尋ねた。
「盗撮魔、捕まえられるかなー」
「そうね……。もうすぐプール開きだし、それまでには何とかしたいわ」
「そうだよねー。プールの更衣室なんて盗撮されたらさすがに洒落にならないしねー」
え……プール?
「ちょっと、津島さん。ここって水泳の授業あるんだ?」
「当然でしょ。どうしたの、果無さん?」
「……いや、何でも……」
ボクはアヤメの腕を掴み、廊下の端へと駆け寄った。
「アヤメ、どうすんだよ。水泳だってさ」
「そうらしいですねぇ。で、どうしたのですか、姫様? 急に慌てて」
「だって水泳だよ? 水着だよ? どうすればいいんだよ!」
「どうすればって……? あ、まさかクラスの皆さまのスクール水着姿を堪能できるのが待ち遠しくて堪らないとか」
「違う! ボクはどうするんだよ。スクール水着を着ろってか!?」
「え? あ、そういうことでしたか」
ようやく理解してくれたらしい――それがボクにとってどんなに恥ずかしいことか。
「そうだよ。あり得ないって!」
「……先程のお胸の話を引きずっているのですね。ご安心を! 別に誰も気にしてませんって。それはそれで姫様の個性です!」
「違ぁーう!」
無意識のうちに大声を出してしまったのだろう。津島さん達が不思議そうに振り返る。
ボクはさらに声を潜め、アヤメに言った。
「女の子の水着、しかもスクール水着を着るなんて、変態行為もいいところだろう……そんなの、ボクの中の尊厳が全否定するよ。 無理!」
「何を仰っているのですか、姫様? 姫様は身も心も、内実共に正真正銘の女の子ですよ? 何処もおかしいことは無いじゃないですか」
「あああっ! どうしてそうなる」
「そうでしたねぇ……姫様のスクール水着姿、待ち遠しいです……じゅるじゅる……あ、いけない。よだれが……」
やはり――何としても盗撮魔をとっ捕まえなければ。クラスの子に見られるのは止むを得ないとしても、ネットで拡散するのだけは何としても阻止しないと。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
無機質なロッカーが並んだ殺風景な更衣室
静けさ漂う誰もいない空間。ここだけ時間が止まっているかのような錯覚。今も誰かがロッカーの中で、息を潜めているんじゃないかという妙なプレッシャーに惑わされながら、ボク達はロッカーの中を縫うように歩いた。
「――私が調べた時は、隠しカメラなんて無かったのだけれどもね」
津島さんは口元に手をやり、気乗りしない様子でそう言った。
盗撮サイトを見つけた津島さんは昨日、証拠を見つけるため一人であちこち調べていたらしい。とは言え、彼女の言い分を真に受けるのはとても危険だ。
その賢そうな立ち振る舞いとまるで正反対なのが津島深央さんだから。
「えっと、盗撮画像のアングルだとカメラはあっちの方にあるはずだけど……え?」
たった今、ボクはそれと目が合ってしまった。カメラのレンズと。
「あれ……カメラだよね?」
「そうだねー」
あまりに唐突なカメラとの出会い。混乱するボクは思わず浅見さんに確認をとった。彼女の返す肯定の言葉。どうやら二人の意見は完全な一致をみたようだった。
それは隠す気なんてまるで無いかのように、堂々とこっちの方を見ていた。放送局で使われているようなカメラだった。隠していないからそれは隠しカメラでは決して無い。ただのカメラだ。それは自ら存在を誇示するかのように鎮座していた。
近くで見ようとカメラの方へと歩くボクと浅見さん。その動きに合わせインナーフォーカスタイプのレンズが小刻みに動く。明らかに稼働中だ。
恐る恐るカメラに手を伸ばす浅見さん。
ところが彼女を制止するように、津島さんが声を上げた。
「あ、動かさないで」
「え?」
浅見さんは手を止めて津島さんに振り向いた。浅見さんの物言いたげな表情の代わりに、ボクの背中から顔を出したアヤメが言った。
「なるほど。無闇に証拠品を動かすな、ですか。捜査の基本ですね!」
確かにアヤメの言う通りだ。浅見さんも納得したらしく手をひっこめた。さすが津島さん、こんな状況でも冷静だ。一同、彼女に尊敬のまなざしを向ける。
しかし視線を一身に集めた津島さんは、さらりとトンデモナイことを言い放った。
「それ、私が置いたの」
「……は?」
何を言っている? 津島さん。
「だから昨日、私が取り付けたのよ」
「何故!?」
「何故って……犯人を監視するためよ? 決まってるじゃない」
「は……?」
「え? だって盗撮カメラは無かったのよ? 味をしめた犯人が、もう一度カメラを設置しようと舞い戻って来ても不思議じゃないでしょ? 犯罪心理ってやつね」
「いや……でも……だからって」
「さすが私。冴えているわ」
彼女の思考が理解できない。
駄目でしょう、津島さん。貴方が犯罪に手を染めているってことですよ!?
しかし、津島さんの他に能天気なのがもう一人いた。ボクの横にいるアヤメだ。彼女は興味津々と言った感じでそれに見入っていた。
「それにしても高級そうなカメラですね!」
「あら、分かる? 業務用の8Kカメラよ。わざわざ取り寄せたの」
「何故そんなものを!」
「もちろん、画像がいいからよ?」
「どうしてそうなる!」
何かがおかしい。浅見さんの取って付けたような笑顔は引きつっていた。
「あのー……」
香純ちゃんがおずおずと声をかけた。津島さんが振り向く。
「どうしたの、香純?」
白梅会用に生徒会から支給されたタブレットを手にした香純ちゃんが答えた。
「生徒会に苦情のメールが何通も来てて……。『更衣室にカメラが置かれているんだけど、どういうこと?』とのことらしいですぅ……」
いや、来るよね。苦情。
「ふっ……いちいち細かいわね」
「いやいや、駄目っしょ、これー」
「そうかしら? 少しくらい着替えを撮られたところで減るものでも無し。たかがパンツやブラでしょ」
おいおい、そのフレーズ……あんたはスケベなオッサンか、津島さん?
「勘弁してよー、深央ーっ。また生徒会から大目玉食らうよー?」
「ふっ。私はそんなもの恐れないわ。昔から言うでしょ。正義を成すためには多少の犠牲は付きもの。巨悪を斃せるなら乙女の肌色の一つや二つ、安いものとは思わない?」
「思わないって! どうしていつもいつも突拍子の無いことを言い出すのさー、深央」
「ふっ……頭が固いのね」
いや――。津島さんの思考の方が柔軟過ぎるのだと思います。とても軟体動物的な何かを感じさせます。
「とにかく駄目! 深央っ!」
「えええっ。そんなーっ」
浅見さんの一喝に往生際の悪い津島さんは遂に沈黙した。
……白梅会って、いつもこんなやり合いをしているの? ひょっとして浅見さん、苦労人だったりする?
連載を再開してちょうど一カ月が経ちました。
二年以上も放置していた作品なんて誰も見てくれないよね~きっと…と思いきや。想像をかなり超えるアクセスをいただきまして…本当に有難いことです。
それどころか、ブックマークや評価が増えているではありませんか!?
連載当初、連載中断中、そして連載再開後。ブックマークして頂いた方、暖かい感想を寄せて頂いた方、そして評価を入れて頂いた方々に、この場を借りて改めてお礼申し上げます。
ありがとうございます。ほんと、励みになります。
さて。この作品ですが、こんな感じで媚びず怯まず顧みず、これからも好き勝手に書き連ねていこうかと考えている次第です。色々とスベってしまうことも多いかと思いますが、ネタだけは余る程ストックしてますので(この二年で後追いになってしまったものも多数あるのですが…)、その中に皆様が膝を打っていただけるような話があることを祈り、後書きの〆とさせていただきます。




