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姫と近衛と魔法少女(その少女はボクのことを姫様と呼ぶけれど…)  作者: 阿弖流為
魔法少女に付きものなアレですよ、アレ!
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[39]仲良しクラスの三人組っ!

「姫様ぁ! お待たせしましたぁっ!」


 それは教室の入り口に立つ、黒髪の少女が発した声だった。

 彼女は走って来たらしく、顔が少し上気していた。香純ちゃんの前に立つボクは、悪戯っぽく――正確に言うと、ちょいと意地悪を練り込んだ――口調で答えた。


「あら、アヤメ。早かったのね」

「当然ですっ! 全速力で追っかけてきましたぁっ!!」


 彼女は勝ち誇ったようにそう言うと、まるで仔犬みたいに、全身で嬉しそうな雰囲気を撒き散らしながら駆け寄ってきた。


「アヤちゃん、御主人様をほっぽったら駄目じゃない」

「いつも『三百六十五日、二十四時間、姫様に付き従いますっ』なんて言ってるのに」

「ホント。有言実行のアヤちゃんが泣いちゃうね。珍しいこともあるんだ」

「これじゃメイド失格だぞ!」


 クラスメイトの入れる茶々に、アヤメ――教室に飛び込んできた黒髪の少女は面目なさそうに首をすくめた。


「いやぁ、ワタシとしたことが……。というか、確かにワタシは姫様に仕える身ではありますが、正確にはメイドという訳ではなく……いえ、別に、姫様と共に居られるのならワタシの肩書など、メイドでも侍女でも乳母でも教育係でも専任コックでも隠し刀でも隠密でもスッパでもコッパでもいいのですが……」


 困ったような顔でそこまで言うと、香純ちゃんの姿に気が付いたのか、溌剌とした声で、いつもの朝の挨拶をかけてきた。


「カズミ様、おはようございますっ! それにしても、今日もキュートですねっ! グーです!」

「あ、はい。おはようございます、菖蒲さん」


 いかにも軽薄というか、うわついた単語を羅列するアヤメに、香純ちゃんはしっかりとした挨拶を返す。こういうところに、人間力が試される。まあ、アヤメが人間と言っていいのかどうかについては、多少の考察が必要だろうけど。

 そのアヤメは視線を少し動かすと、今度はボクに向かって口を開いた。


「ああっ、姫様! 今日も朝からカズミ様に見惚れておいでなのですかぁぁっ!」

「ひょっとして妬いているの? アヤメ」


 この表情豊かな少女、アヤメ。こちらでの名は紫野菖蒲。あの日、ボク達はこの白梅女学院に転校してきた。全ての元凶にして、ボクが頼れる数少ない人物の一人。愉快そうに尋ねるボクの言葉に、アヤメはこぶしに力を込めて力説する。


「当然ですっ! というか、カズミ様にぞっこんずっこんだと言うことを、あっさりお認めになるのですかぁっ? ぐぬぬ……。でも、とってもプリチーなカズミ様に姫様が心奪われるのも、致し方が無いところ……分かりました、今日もキラキラと輝いているカズミ様に免じて、アリということにしましょう」

「ですって。良かったわ。さあ、席に戻りましょう、香純ちゃん。アヤメも」

「はいっっ、姫様!!」


 アヤメはボクのことを「姫様」と呼ぶが、彼女自身が「姫」と呼ばれてもおかしくない風貌を持っていた。綺麗に揃えた姫カットの黒髪と、透き通るような白い肌。どことなく古風な純和風の佇まいは、「大和撫子」という言葉がこれ以上当てはまる人物は他に居ないのではないかと思えるほど、彼女にマッチしていた。


 ほんっと、見た目だけは良い。


 それこそ、口さえ閉じていれば、どこか高貴な家の一人娘で通用するはずだ。全身から上品さ漂う容姿端麗な姿からは、深窓の令嬢、といった感じがぷんぷんと漂ってくる。


 繰り返すけど、ほんっと、良いよね、アヤメ。見た目だけは。キミはもう少し、口を閉じていた方がいいよ。そしたらきっと、モテモテだ。


 ボク達は席に着いた。前から順に香純ちゃん、ボク、そしてボクの隣はアヤメ。三人の席は教室の真ん中辺り、ちょっと後ろという、とても中途半端なポジション。創作物の世界だと、ボクらの居る場所は居心地の良い窓際か一番後ろの席のはずなのだけど。

 要するに、現実はままならないと言うか、所詮は現実とフィクションの間には、日本海溝より深い隔たりがあるということを示す端的な例ではある。


 ――ま、創作物の場合は作画とか、背景とか、シチュエーションを作る上での都合とか、そいうった諸々の事情があることが容易に推測できるだろうことは、言わないでおこう。


「現実と、フィクションか……」


 無意識のうちに呟いていたらしい。香純ちゃんが不思議そうな顔で振り向いた。

「ううん、何でもない」

 ボクは答えた。


 現実とフィクション。虚構が現実に入り込む余地など無い。ずっとそう思っていた。当り前のことだ。

 でも、その当たり前が一カ月前にガラガラと音を立てて崩れ落ちた。ボクは香純ちゃんとどうでもいいことを駄弁り始める。香純ちゃんの、まるで吸い込まれるような澄んだ瞳をぼんやりと眺めながら、ボクは思った。


 香純ちゃんは、思った通りの、特別な女の子だった。

 何しろ彼女は、本物の、魔法少女なのだから。


はい。退屈させております。以上、エピソード2(と言っていいのかな?)開幕に向けての、主要人物紹介と舞台説明を兼ねた導入部でした。次(…うーん、次の次…かな?)辺りから、ぼちぼち本格始動です。

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