[33]かなり頑固な魔法少女が約一名、いるようです
――うん、わかっている。物事って言うのは、その場の勢いってやつで突っ走っても、そのうち息切れしちゃう。で、人間の真価ってヤツはそこからが問われるんだ。
でも、ボクはやはり凡人だったようだ。息切れしたまま視野狭窄、いつ終わるか、早く終わんないか、いっそのこと逃げ出してしまいたい――そんなことを考え始めていた。
「……もう、何体くらい倒したのでしょうか、姫様……」
「……そうだね……かれこれ五十体以上……いや、百体近くいってるかも……」
「ですよねぇ……いつ終わるのでしょうか……」
「何言ってるのですかぁ、お二人ともぉ……さっき、二十三体を数えたばかりですぅ……」
「香純ちゃん……ちゃんと数えていたんだ……そっか……二十三、ねぇ……」
「……で……いつ終わるのでしょうか……姫様ぁ……」
「……さあ」
再び溜め息をつくボクとアヤメ。その横では香純ちゃんが心配そうな顔をしている。やっぱり、この中では香純ちゃんの精神力が一番強いらしい。
ボク達はいつしか駅前のロータリーに来ていた。ゆっくりと歩き出す先は、ガランとした地下道に続く階段。少しの間、怪物の目が届かないところで力を取り戻そう――そう考えての行動だ。
どうやら怪物はボク達目がけて集まっている。ボク達を倒せば、この結界から解き放たれるって、分かっているんだ。
香純ちゃんによれば、結界は街全体に発動しているということらしい。そのせいだろうか、地下道の中はちゃんと地下道していて、別にパステル色の空は広がっていない。
学校の中で結界を発動した時は、部屋の中でもだだっ広い空間が広がっていたのに、今回はなんで違うの? って言いたいところだけどさ。教室の中だけの限定空間での結界と、街全体の大規模結界では事情が違うんだって。なかなか良くできた都合主義だね。
追い詰められた状態ではこういった場所の方がむしろ落ち着く。もっとも、こんな場所で《ストリングス》の襲来を受け、追い詰められたらオシマイだけども。
「香純ちゃん、疲れているでしょ? 大丈夫?」
「はい……マナはかなり消費してしまってますが、しばらく休息すれば、まだもう少し行けますぅ……でも、お二人は大丈夫なのですかぁ?……ずっと強力な攻撃魔法を撃ち続けて……」
「幸いなことに、ほぼフルチャージ状態でしたので余裕はあります……というか、攻撃魔法では無くて、れっきとした科学技術による……」
その時だった。ずっと続く地下モールの先、その角にフッと人影が現れたのは。
「……!?……」
「……!?……」
突然の出来事。お互いに足が止まり、無言のままじっと見つめ合う。
最初に沈黙を破ったのは、香純ちゃんだった。
「……津島さん、浅見さん!……」
その言葉を聞き、その二人も少し緊張が緩んだようだった。
「風見さん? ……ビックリしたわ」
さすがの津島さんも、このニアミスには驚いた様だった。その姿には何処となく焦燥の色が見て取れる。きっと、かなりしんどいのだろう。
無理もない――たぶん、彼女達の置かれた状況はボク達と同じ。つまり怪物と戦い続け、しばしの休息を求めてここにやってきた。それとどん詰まりと言っていいこの状況。その打破を模索してここにきたに違いない。
彼女達とは一応『敵同士』だけど、今は得体の知れない化け物と戦っている真っ最中。こんなシチュエーションで同類に出会うっていうのは心強く感じるものだ。お互いに相手を警戒するような雰囲気では無い。
むしろ心の中では、お互い励まし合う様な会話を渇望していた。それはボクだけじゃないだろう。口火を切ったのは香純ちゃんだった。
「やっぱり……お二人も、戦っていたのですねぇ……」
「そうだよー、ということは香純もー? どれくらいくらいやっつけたー?」
「……えっと……二十三体ですぅ……」
「そっかー、こっちも同じくらいだよー」
なるほど。浅見さんの言葉を信じるなら、たった二人でそれだけの数を倒したってことか――さすがに強いや。その浅見さんは隣の津島さんに話しかける。
「おーい、深央―っ。マナも残り少なくなってきたし、丁度いいんじゃないー?」
「……どういうこと?」
「決まってんじゃん。香純たちと合流しようってこと」
「…………」
津島さんは思案に暮れるような表情をする――でも、それも長くは続かなかった。
「駄目ね」
「ええっ、何でよー?」
残念そうな顔をする浅見さん。香純ちゃんは下を向いてしまった。
「信用できない」
「おいおいーっ。じゃー、ここで香純たちと戦うってかー?」
「いえ……そこまで愚かじゃないわ」
「じゃあ、何だよー。果無ちゃん達もあれ相手に戦ってんじゃん。良く判んないけど、敵の敵は味方って言うし、共同戦線、いいんじゃないのー?」
「確かに、ね。でも彼女達には彼女達の思惑があるのかもしれない……それが、私達と相容れないものかも。それだけじゃない。あれを全て倒した時、私達に牙をむくかもしれない。あるいは、今回の一件は彼女達の狂言……っていう可能性も」
「そんな訳、ある訳無いじゃないかーっ!」
それまで黙って彼女達のやり取りを聞いていたけど、ボクは思わず声をあげてしまう。どこまで頭が固いんだ津島さん。でも、彼女は何処までも冷静だった。
「そうかもね。でも、私達にとってはリスクが高過ぎる。貴方達の邪魔はしないわ……そして、貴方達も私の邪魔をしないと信じている……でも、別行動よ……一緒に行動するのは駄目」
はいはい。見逃してくれる――だけど、信用はしないってことね。別にイイよ、そう考えるなら。ボクも弁解する気はさらさらないし。
(本当にイイよッ、このスットコドッコイ!)そう悪態をつきたいのを我慢して、津島さんに向けて声を上げる。
「わかったよーっ、じゃあ、がんばってねーっ……」
いや、白状すると津島さんに対して悪態をつく勇気は最初から無かったけど。とにかく、ボクはこの場を離れようと彼女達とは別方向に歩きだそうとする――いや、歩き出そうとしたんだけど――。
「……!?……」
ボク達三人、そして津島さん達も異変に気が付き、身を固くする。
それは微かに聞える『ジャァァァァ……ダ、ダ、ダ……』と言う音、地響き、そして足の裏から感じる揺れ。それは次第に大きくなる。
「……まさか!?……」
次の瞬間だった。津島さん達が立っている向こうの方。腹の底に響く音と共に、その奥から土煙が上がる。
『ジャッ、ジャッ、ジャッ、ジャッ……』次に聞こえてきたのはこれだ。規則正しく、そして少しずつ大きくなるその不快な音。針金の束を振り回したような音と表現すればよいだろうか。
「見つかってしまった様ね……」
津島さんと浅見さんは後ろを振り返った後、二歩、三歩と後ずさり、辺りを覗う。次の瞬間だ。真っ黒い物体が通路の角から溢れだす。それはものすごい勢いでなだれ込んで来て、二人を呑み込もうとする。それは変形した〈ストリングス〉。
クシャクシャに丸まり、絡み合った無数の鋼線。この地下道の入り口にいる巨人が、それを無理矢理押し込んでいるかのような動きだった。でも津島さん達はその〈ストリングス〉には呑み込まれていない。防御魔法を展開して、何とか踏みとどまっている。
「ここから逃げましょう! 早く、こちらに来て下さい!」
叫ぶアヤメ。津島さん達にも躊躇はなかった。〈ストリングス〉を抑え込みながらも、横っとびに走りだす構えを見せる。
――しかし――。
もしも計算されたものだとすると、あまりにえげつなさ過ぎる。それはボク達と津島さん達を挟んだ中間地点で起きた。
突然、地下道の天井が崩れる音が響き渡り、津島さん達が立っている区画に向かって崩壊は連鎖する。それは漠然と抱いていた恐怖を上書きし、疲れた心を絶望で満たすに十分足るものだった。
その時だ。悲鳴と共に香純ちゃんが動いたのは――。




