[30]カワイイあの娘を自宅にご招待!しかもお泊まり!!
「へぇ……果無さんのお部屋……ちょっと、意外ですぅ……」
それはアヤメと香純ちゃんを連れ立って自宅に戻ってきた金曜日の夕方。ボクの部屋に入って来るなり声を上がる香純ちゃん――って、どういう意味で“意外”なんだか――まぁ、だいたい見当はつくけど。
「素っ気ない部屋でしょ。でも、今日はたまたま片付いているのが幸いだったかな。そうじゃなきゃ、目も当てられなかったよ」
そう、全く女の子らしくない部屋――そりゃそうだ、女の子らしい部屋でたまるか。
「隣はワタシの部屋なんです! ちなみに、もっと素っ気ないです!」
素っ気ないというか、何もないからね。アヤメの部屋。
「少しのんびりしたら、下に降りて夕ご飯の準備をしよう」
「そういえば……お味噌汁は、お二人で作るんでしたよねー?」
「うん」
どことなく羨ましそうな目でボク達を見つめる香純ちゃん。その時だ。アヤメの口から何やら不吉な笑い声。
「うふ……うふふふふふ……」
その声に思わず、背筋に冷たい何かが走ったボクは、恐る恐る彼女の顔を覗き込む。そこには、意気揚々とした、不敵さと歓喜を混ぜ合わせたような、もう何とも表現できない表情が貼り付いていた
コイツまた、良からぬことを考えているんじゃ……。
「ずっと忘れていたのですが、今日、思い出しました。機動歩兵の備品と一緒に素晴らしい調味料を持って来ていたんです!」
「はぁ……あれかい、海外出向のサラリーマンが醤油を懐に忍ばせる的な? でも、いつも言うようだけど得体の知れないモノを味噌汁に入れるのは……」
「いえいえ! このスパイスはどんな料理にも合うんです! 当然、こちらのお料理にも……洋風和風中華いずれにもバッチグーです。この一週間でこちらの料理に慣れ親しんだ、ワタシの味覚がそう語っています!」
胡散臭い、胡散臭い――。その手の煽り文句で売り出す商品にマトモなものがあった試しなんてあっただろうか? 少なくともボクは知らない。それに、その自信たっぷりの口ぶりが逆に怖いぞ。
「……で?」
思わず身構えるボクをよそに、高々と言い放つアヤメ。
「そう! この調味料の名こそ……〈メランジ・スパイス〉!!」
「どわぁっっ!」
アヤメが恭しく懐から取り出したソレを奪い取る――油断も隙もない。
「それはあれか!? ボク達を超能力者に目覚めさせる的何かか! 摂取し過ぎると異形へと変わり、空間を跳躍できるようになるという……」
「何を言っているんですか姫様! それとはメランジ違いです!」
「おわわ……そんな、すごい魔法のお薬が、あるんですねー。楽しみですぅー……」
「香純ちゃんまで、勘弁してくれよぉぉ!」
「もうー、姫様! 返してくださいーッ!」
一緒になってはしゃぐ香純ちゃん――ようやく少し、元気が出てきたみたいだ。
香純ちゃん、それまでずっと落ち込み気味だった。無理もない、仲間だった津島さん達とあんな形で離別してしまったんだ。
(少しは香純ちゃんの支えになっているかな? だとしたら良かった――)改めてそう思う。ボクの家に招いた甲斐があった。
でも、ボク達の方が抱えている方の不安は一向に改善の兆しを見せていない。津島さん達のこともあるけど、本来のミッション――そっちの方が、すっかり行き詰っていたんだ。
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夕食の準備も終わり、ダイニングを囲んでボク達は食事を楽しんでいた。肉じゃがにツナとキャベツの炒め物、出来合いの唐揚げとごぼうサラダ。もちろん、味噌汁に“メランジ・スパイス”とやらを入れるのは完全に阻止した。
そしていつしか、三人のおしゃべりは未だに亜空間に取り残されている、女の子に関する話題へと――。
「入れ替わっている女の子が誰なのか、どうしても分からないね。困ったなぁ」
「はい。あと三人なのですが……。糸口すら見つけられないのです……あれからもう一週間になるのに。困りました」
そう。いろいろ手を尽くしているんだけど、どうやっても手掛かりが掴めず――お手上げ状態に近かった。そんなボク達の会話に、香純ちゃんが口を割り込ませる。
「あの……果無さん、紫野さん?」
「ん? どうしたの、香純ちゃん」
「ひょっとして……白梅女学院の方と限らないの……では?」
「どういうこと?」
「ええっと……人形に入れ替わったのって……校庭で運動されている方かも……って言ってましたよねぇ?」
「うん。それで陸上部とか、体育会系の部活を当たっているんだけど」
「部活の学外交流……練習試合なんかで、他校の方が校庭にいた……可能性は?」
そうだった!
ボクとアヤメは向き合い、お互いの顔を見合わせる。香純ちゃんの説に心を打たれたのはボクだけじゃない。アヤメの目も『それだっ!』と語っていた。
「そうだよ、何でそのことに気が付かなかったんだ!」
「はい! カズミさん、冴えているです!」
「よし、そのセンで当たろう。まず、何処の学校の子が来ていたか、だ。でも……どうやって調べようか……」
正直、どうしたら良いのか想像もつかなかった。しかし香純ちゃんは、いつものほんわかした笑顔でこの素晴らしい提案の続きを話しかけてくる。
「そのことなのですが……」
「何? 香純ちゃん」
「課外活動で他校生徒を呼ぶ場合ですが、生徒会に届けることになっているんですぅ……」
「と、言うことは……」
「生徒会室に行けば、その記録がありますぅ」
「そうか! すごいぞ、香純ちゃん!」
「これは……ひょっとして、ひょっとすると、です!! いやぁ、素晴らしいです! カズミさんに来ていただいて、本当に良かったです!」
思わずボク達二人は香純ちゃん讃歌を唱える。いや、いくら褒めても、褒めすぎるってことは無いぞ、これ!
「早速、週末はその資料を探しに行きましょう!」
「でも、問題は津島さん達の目を盗んで、どうやって生徒会室に入りこむかだなぁ……」
「え、姫様? 週末は学校、お休みですよ?」
「いや、生徒会の人はお役目で、時々来ているみたいなんだ。それに、あんなことがあったばかりだし、何か罠みたいなのを仕掛けられているかも」
「なるほどぉ……厄介ですね」
「えっと……そのこと……なのですがぁ……」
香純ちゃんはそう言いながら、ポケットから一枚の紙切れを出す。
「ん、これは?」
「ひょっとしたら……と思いましてぇ……その資料を書き写してきましたぁ」
「!!」
そのメモには、いくつかの校名と名前、そして部活名が書かれていた。
「おおおっ! カズミさん、凄いです、凄過ぎです!」
「香純ちゃん、名探偵の素質あるよ!」
「えへへっ……ですぅ……」
やっぱり香純ちゃん、ボクの思った通りだ。ノンビリした雰囲気とは裏腹に、とてつもなく冴えている女の子だ。
さあ。そうと来れば、週末にやることは決まっている。




