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[22]ジョウント効果、それはとっても便利なテレポーテーション能力?

「きゃああっ!!」

「香純!?」


 ――香純ちゃんの悲鳴と、津島さんの声。津島さんの声はずっと下の方から。そりゃそうだ、ボクは大きく上昇している。でも、香純ちゃんの悲鳴はすぐそこから……って。あれ?


「香純ちゃん、ちょっと!?」


 彼女は片手でしっかりと人形の服を掴んでいた――というか、ぶら下がっていた。飛行中の、ボクや人形と共に。


「きゃあああぁぁぁ!!」


 あ、落ちた。こんな所でドジっ子を発揮しなくても……って、ヤバい!


「香純ちゃん!!!」


 ボクは急旋回、進路を香純ちゃんの落下軌道に合わせる。だだっ広い空間の中、僅かに現実の面影を残していた実験室の床が、どんどん近付いてくる――。


「間に合えっ……間に合ったッ!!」


 香純ちゃんが地面に激突する直前、彼女を抱きかかえる。地面すれすれに背面飛行をしばらくした後、直立状態に姿勢を戻してゆっくりと着地。


「……ゴメン、香純ちゃん。ちょっと強引過ぎた」

「……いえ……」


 折り重なるような体勢のボクと香純ちゃん。顔なんて今にもくっつきそうだった。そのことに気が付いて、真っ赤になる彼女。慌てて、たたらを踏むようにボクから離れる。


「……あ、ありがとうございますー……」


 香純ちゃんはそう言うとペコリとお辞儀する。いや、お礼を言われる筋合いなんてないんだけど。そもそも彼女も魔法少女だし、ボクが抱きかかえなくても大丈夫だったかな? つい焦って、余計なことをしちゃったかも。


 ――いやいや、でもあの様子じゃ、そのまま地面に激突していたかも。そんな危うさが、香純ちゃんにはあった。


ウォスラッドニイドイス!」


 再び宙に浮くボク。その行き先はタッチの差で片足の人形をゲットしたアヤメのところ。


「アヤメ、大丈夫だった?」

「はい、姫様! でも、この人……浅見さん、強いです! おかしいです! 最新テクノロジーの権化たる強化防護服パワードスーツを纏った私と、互角に渡り合ってるんです!?」

「ほう? 『互角に』だってー? 言ってくれるじゃん! じゃあ、そろそろ本気だそうか? 君達までケシ飛ばないように、しっかり防御してよねー?」


 そう言うと、浅見さんは何やら呪文を唱えだす――彼女の掌に、プラズマの様な光の球が現れ――それはみるみる膨張し、あちこちに放電を始める。


「えっと……何なの、あれ? ものすごくヤバそうな、大技みたいに見えるんだけど?」

「わからないですぅぅぅ!! というか、何ですかアレ!? 魔法? 本当に魔法が存在するの!? ワタシ達、一片の骨も残さず蒸発してしまうのでしょうかぁぁぁ!」

「ちょっと、落ち着いて、アヤメ!」


 ――というか、真面目にヤバい! 既に光の球は、ふた抱え程に成長していた。次の瞬間、そのエネルギーの塊は一気に縮退していく……打ち出すつもりだ!


「……freyrフレイル!……」


 ボクは半ば無意識に、この間、校庭で放ったのと同じ攻撃を繰り出す。と、同時に浅見さんの攻撃も打ち出される。二つの光は、ちょうど中間地点で激突。辺り一帯は激しい光に包まれ、ボク達は視界を失う。


「……!……」


 やがて眩い光は収まる。恐る恐る浅見さんの方に視線を戻す。そこにいたのは――。


「香純ちゃん!」


 防護魔法を展開した香純ちゃんが、浅見さんの前に立っていた。

 その防護魔法はあちこちほつれていた――どうやら、ボクが放ったフレイルは浅見さんの攻撃を吹き飛ばし、そのまま浅見さんを直撃する直前、香純ちゃんが防御をしてくれたらしい。

 一方の浅見さんは地面にへたりこんだまま、驚いた様な表情で口を開く。


「まじかー!? あり得ないっしょ、あの力……いやぁ、香純が来てくれて助かったわー」

「浅見さんー……怖かったですぅ……浅見さんの攻撃魔法と相殺されていなければ、私の防御魔法なんて、呆気なく突き破られてましたぁ……」

「何者だよー、あの果無はてなしって王女様。ウチの王女様みおレベルの化け物じゃないか……どうなっているんだよー」



「……姫様?……」「ん?」


 アヤメが小声で話しかけてくる。


「彼女達、姫様の攻撃に驚いて、私達への攻撃を躊躇しているようです……今がチャンスです。〈デュープ・パペット〉を連れて逃げましょう」

「でも、この結界からどうやって出るの? キミの結界解除で大丈夫?」

「いえ……結界は術者の暗証コードが無いと解除できません……というか、それはワタシ達の使う結界の話で、彼女達の結界……認めたくはありませんが、魔法による結界がどういう仕組みなのか、知る由もないです……」

「…………」

「一つだけ言えるのは、ワタシ達と彼女達、お互いの結界に入りこめるということ。どうやら深いレベルでは、二つとも同じ法則に基づいたものとかと」

「で?」

「……いずれにせよ、ワタシがこの結界を解除することはできませんですぅ」

「じゃあ、どうすれば……他に方法は?」

「ワタシ達の結界と同じルールということであれば、一旦、亜空間を経由して空間をジャンプすれば、脱出することは可能です」

「そんなことができるんだ」

「はい。では行きます。私に掴まって下さい」

「うん。これでいいかな」

「では……『ジョウント』!」


  **


 数回襲ってきた目眩の後、ボク達は跳び箱やらマットやらが押し込まれている小部屋――体育館の端っこに来ていた。どうやら、亜空間を利用した結界からの脱出に成功したみたいだ。


「彼女達、追っかけてこないかな?」

「すぐには見つからないとは思いますが……まずは早いところ、このお二人を元に戻しましょう……エゼル・ケン・フィオ!……導け、時の狭間に空きし扉。来たれよ、眠れし乙女たち!」


 マットに横たえられた人形は、科学部の少女二人に入れ替わる。亜空間で眠っていたこの二人は、人形に紐付けられたリンク情報を元に呼び寄せられ、無事この世界に戻ってきたのだ。


「――でもさ、実験準備室にいたはずのこの二人がいきなりここに出現しちゃって、大丈夫かなぁ?」

「ええ、多少の混乱はあるかもです……しかしながら、現状ではこれが最善の選択になってしまうので……」

「そうだね。津島さん達は君の戦闘用アンドロイドを『傀儡』って言ってたっけ? なんか破壊しようとしていたけど……この先、この子たちに被害は及ばないかな?」

「大丈夫だと思います。あの方々はどうやら、人間かどうかの見分けがつく様ですので」

「うん……マナがどうとか言っていたっけ」

「それに、今まで取り戻した方々も、別に被害は受けていませんよね? 津島さん達も、その辺りのことはちゃんと理解しているんだと思いますよ?」

「確かに。委員長もあの後、浅見さん達と普通にやっているみたいだし。でも、それだったら、ボク達のことも変な風に疑って欲しくないよなぁ……」

「はい。誤解をとく機会があればよいのですが」


 津島さんの冷たい瞳、浅見さんのやる気満々で楽しそうな表情――そして、泣き出しそうな香純ちゃんの顔が、チラリと頭をもたげる。


「ところで、残るは後……三人……でもこれからは津島さん達と競争か。大変そうだね」

「そうですね。何か作戦を考えないと……」

「ところで、だ!」

「はい?」


 ボクはアヤメに向き直り、彼女の肩に手を乗せる。


「感動したよ!」

「え?……何でしょう、姫様?」

「ジョウントだよ、ジョウント!! キミ、〈ジョウント効果〉使えたんだ! 凄いぞ! いやぁ、憧れたよ、ジョウント効果! それこそ小学生時代から。もう、定番過ぎて笑っちゃうけどさ!」

「……は、はぁ?……」

「それにジョウント効果って、いろんな創作物で使われているけど、未だに色あせないよね! 街でチンピラに絡まれたらジョウントで脱出! 潜入捜査で敵にバレそうになったらジョウウントで脱出! 女子更衣室での覗きがバレそうになったらジョウントで脱出!」

「姫様、脱出マニアですか?……」

「それだけじゃない、戦闘で負けそうになったらジョウントで脱出! これこそ最強にして正統的なジョウントの使用方法!……って、それはさっきのボク達か」

「はぁ。その言葉、そこはかとなくご都合主義的な響きを感じます……それはそうと姫様、女子更衣室? のぞき?……何か今、姫様の違う一面を垣間見てしまったような」

「ちょっと待って、それは物の例えだよ! 言っとくけど、そんな性癖は無いからね!」

「そうですね。今では合法的に、クラスの皆さまと着替えを……」

「あああっ! それは勘弁してよ。いまだに悩んでいるというか、かなり心の中で葛藤があるんだから!」

「あらら……姫様ったら、ま・じ・め!」

「ていうか、せっかくのジョウント能力、もっと積極的に使おうよ! 家から学校まで、一瞬だよ?」

「いえ……勘違いされているようですけど、さっきのは別に便利なテレポーテーション能力では無いです。というか、今回はたまたま条件が合致しただけで、思った場所にテレポーテーションできるなんて、そんな便利なことが都合よくある訳が……」

「えええっ? だってアヤメ、『ジョウント』って言ってたじゃないか?」

「あれは、ただの掛け声です……」


 ――あ、そうなんだ。ちょっとガッカリ。というか、紛らわしいぞ! それだったら、もうちょっと違う掛け声にしてくれ。


サブタイトルにもなっている「ジョウント効果」ってなに? と思われている皆様に解説。それはとっても便利なテレポーテーション能力です……というかサブタイトル通りですね。いわゆるSF用語です。いや、既にいろいろな創作物で登場しており、SFという枠を超えてすっかり定番となっている概念かもしれません。要するに“精神力でテレポーテーションする”という代物ですが、それの何処がSF(“サイエンス”なフィクション)なのかイマイチ意味不明です。SFというのはかくも多様性に富んだ、ふわっとしたモノなのかもしれません。

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