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[17]朝から魔法少女活動です!

「はいっ! 〈デュープ・パペット〉捕縛完了! では、本人の召喚を開始しますね」

「御苦労さん、アヤメ。これで21人分……あと、5人だね」

「そうです! 合唱部の方々に始まって、会議中だった放送委員の方々、隣のクラスの学級委員、居残り勉強中だった生徒さん三名、用務員のおばさん……校舎の陰で待ち合わせ、嬉し恥ずかしな逢瀬を重ねていた、レズレズな関係のお二人もいました」

「うん、そうだった。いろいろと情報を集めて、それとなく探りを入れて――」

「はい。それから、あの時間に校舎の壊れた部分にいたってことを確認してから、タイミングを見計らってアプローチ」

「口で言うと簡単だけど、結構大変だったね」

「ええ。特にレズっ子二人に関しては運が良かったです。たまたま噂を耳にしなければ、ちょっと気が付かなかったです」


 今日は水曜日。例によって始業時間よりかなり前に学校へやってきたボク達は魔法少女へと変身し、亜空間へと飛ばされた生徒達の回収作業を進めていた。


「でも、壊しちゃったのが体育館とか部室棟とかじゃなくて良かった。もしそうだったら、部活中の子達が巻き込まれて、26人どころじゃ済まなかったよ」

「かなりツイてます。崩れたのが音楽室なんかとは離れた、校舎の中でもかなり放課後人口密度が低いエリアでしたし」

「そういえば、この女の子達は校庭にいて運悪く瓦礫が当たりそうになっちゃった、陸上部の子だっけ?」

「ということは、体育会系の部活で校庭にいた人にも捜索範囲を広げないと、ですね。これからが正念場です」

「うーん……大丈夫かなぁ。情報集めだけでも大変そうだ。何とかなる見込みはあるの?」

「いえ……『何とかなる』じゃなくて、『何とかしないと』です……あまり悠長に構えてはいられません」

「どういうこと?」

「時間が経てば経つほど、〈デュープ・パペット〉が本人の記憶を蓄積して、判別が困難になります……いえ、それだけではありません……」

「ん?」

「だって、入れ替わっている間、本人はその時間を無駄にしてしまっていることになります! 貴重な高校生活、一日でも早く取り戻してあげないと」

「そうだね」


 ――うん、そうだ。やっぱりアヤメ、凄いや。亜空間で寂しく眠る彼女達のこと、ちゃんと気遣っている。その仕草や喋り方からはとても幼く感じるてしまうんだけど、なかなかどうして。ボクなんかよりずっとしっかりしているんだ。

 何しろアヤメは子供の時にはもう自分の進むべき道を見つけ、それに向かって努力してきた。そんな女の子がしっかりしていない訳は無い。


 もっとも、その人生の目標というのが“異世界に住むボクと出会うため、機動歩兵になる!”というものだったことに関しては、まるっきり意味不明だが。


 ボク達がいるのは、学校のグラウンドから少し離れた校舎の裏。短距離走の選手だった二年生の先輩二人――いや、先輩の振りをした〈デュープ・パペット〉二体を誘い出し、戦闘の末に何とか捕えた。この後、このコピーロボットのメモリから亜空間へのアクセス情報を引き出して、本人を呼び出すんだ。

 ボクのすぐ横で、朗々と奏でられるアヤメの呪文が響き渡る。


「エゼル・ケン・フィオ! 導け、時の狭間に空きし扉。来たれよ、眠れし乙女たち!」


 アヤメの呪文を受けて、芝生の上に寝かされた戦闘用アンドロイドが光に包まれる。一瞬その光が大きく脈動し、やがて静かに収まる。亜空間へ退避した女の子と入れ替わった合図――って、おい!


「ちょっとアヤメ!? 何でこの二人、裸なんだよ!」


 そう。下着も付けず仰向けに横たわる裸体。その肌はウェアのラインがくっきり。真っ白い肌と、少しだけ日に焼けた四肢とのコントラストが眩しい。


「この間までは、ちゃんと服を着て出現してたじゃないか!」

「うーむ。どういうことでしょう……」


 口に手をやり考え込むふりをするアヤメ。そう、ボクは知っている。彼女はふりをしているだけだ。何しろこの数日間、アヤメとは自宅でも学校でも付きっきりだ。そのお陰で彼女の思考傾向は手に取るように分かる。

 こんな仕草の時は――つまり、真面目に考えている訳は無いってこと。しかし真剣な表情で彼女は呟く。


「――はい。これはっきっと、ああいうことです」

「ああいうことって?」

「一種のサービスってことですね」

「は?」

「要するに前回までの放送枠は日曜の朝――お子様たちを前に過激な表現はできなかった。しかし大人の事情で放送時間帯は深夜へ――諸々の制約は取り除かれ、話題作りのため自ずと――――って、ア痛タタ! 姫様、酷いーッ!」


 ボクのチョップはアヤメの脳天を直撃――知っているかい? ボクのチョップは山をも打ち砕くんだ。ジミヘンやレイヴォーンもそう唄っていた。


「アヤメ、また訳の分からないことを! 魔法少女だからって、リアルとアニメを一緒にしないでよ!」

「うるうる……今のは他愛のない冗談ですぅ! えっと……あれです。この布面積の小さいウェアだと個別に亜空間から召喚した方が良いと、システムが判断したんだと思いますぅぅぅ……」


 その言葉通り、いつの間にやらボク達の目の前には、彼女達の物であろうウェアと下着がひらひらと舞い落ちて来ている。そして、そんな話をしている間にも、陸上部の子が目を覚ましそうになる。


「まずいっ、早く着せないと!」

「はい! 姫様、手伝って!」

「ええええっっ!? だって、そんなことしたら!」

「既に姫様は女性です、問題ありません!」

「いや、だって……」

「早く! 目を覚ましちゃいます!!」


(ああああっ! ご、ゴメンナサイ……)なるべく直視しないように気を付けて、落ちてきたパンツを履かせ、ブラを――あああっ多分ちゃんと付けられていない、ゴメン! それどころじゃない、本当に目を覚ましそうだ。何かくすぐったさそうにしている!


  **


「――ううう。何とか、間に合った」


 何か、朝からどっと疲れて来てしまった気がする。間に合ったというか、間に合わせたというか。いい加減に服を着せたもんだからきっとこの子、目が覚めたら違和感バリバリなんだろうな。

 そう思いながらボクは自分の両手を見つめる。ついさっきの、柔らかくて暖かい肌の感触。忘れたくないような、とっとと忘れなきゃいけないような、そんな心の葛藤――。


「では姫様、結界を解きます。変身も解いちゃいましょう……さ、朝連中の陸上部のみなさーん、お邪魔しましたー」

「う、うん……ボク達は教室に行こうか。今日も一日、授業と情報収集だ」


 マーブル模様の空が朝の澄んだ青空に変わっていくのを背中で感じながら、ボクとアヤメは校舎の中に入っていく。


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