表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
131/139

[119]本当にオトナというのはズルいと思います!

 地下通路で鉢合わせしたのはモンスターなんかじゃなくて、まさかの香純ちゃん達だった。はぐれていた二人との再会。さっきまでボクの心を支配していた不安も心細さも、気付けばどこかに吹き飛んでいた。


 そして香純ちゃんの笑顔はやっぱり最高だった。泣いているんだか笑っているんだか分からない状態の彼女は、目尻に涙をためながら、心底嬉しそうに言う。


「そうですぅ……美彌子さん達だけ、ずるいですぅ」

「さっき試した時は変身できなかったじゃん!? どしてだよー」


 ボクらだけコスチェンジしていることに、頬をふくらませ抗議する香純ちゃんと浅見さん。そんな二人に愛想笑いを振り撒きながら、ボクはアヤメの方へと振り向いた。さっきまで緊張した面持ちだった彼女も、今はずいぶんとリラックスした様子。


 彼女は気の抜けた口調で話し出した。


「えーっとですねぇ……話すと長くなるのですが……」

「アヤポンさん! あれ、まだこっち向かってきてますよ!?」


 言いかけのアヤメの言葉に割り込む鋭い声。


 そのmiwa姫の言葉の意味を理解するのに一瞬の間が空く。彼女の言葉に、とても大事なことがすっかり頭から抜け落ちていたことを思い出したのと、後ろの方から迫ってくる不気味な唸り声が響いてきたのは、ほぼ同時だった。


「そうだ忘れていた! 逃げないと」


 得体の知れないクリーチャーが放つ『オォォォォ』という音はさっきより明瞭になってきている。明瞭になった分、より一層不気味さを感じるのは気のせいか。思わず寒くなる背筋。


「そうだよ! アレ、何だよー!?」

「さっき浅見さん、『アレ、絶対モンスターの声だわー、ヤバいやつだわー』って言ってましたー」

「そうだよ! 絶対ヤバいやつだよー!」

「あと『マジかよこっち来るじゃんー!? 勘弁しよてー』とも言ってましたー」

「どうすんだよ美彌子っちー」

「それで、『こうなったらヤケクソだわー! 当たって砕けろ精神だー。いくぞー香純ーッッ』って美彌子さん達に襲い掛かってしまったんですぅ……」


 そういうことね。お互いに相手のことをモンスターと勘違いしていたって訳か。


 そんな中、アヤメが素っ頓狂な声を上げる。


「……そうでした!」

「どしたの、アヤメ?」

「浅見さん、少し宜しいでしょうか?」


 彼女はウィンドウを呼び出し、じっと見つめて何かを設定し始めた。やがて小さく頷いた彼女は、顔を上げて浅見さんに言った。


「ちょっと変身の呪文を唱えてみませんか?」


 香純ちゃんと怪訝そうな表情で顔を見合わせる浅見さん。


「え? 変身……?」

「ハイ!」

「……できるの」

「多分イケると思います!」

「何だってまた……? アヤちゃんの言ってることが良く分からないけど……ま、いっかー」


 彼女は不詳不詳(ふしょうぶしょう)って感じで答えた。


「じゃあ行こっかー、香純も一緒に」

「はいー」

「あ、いえ。カズミさんの方はまだモデリングが完成していないので……」


 言いかけるアヤメの声を待たず、ハモる変身呪文。


「「urR=kraftウルクラフト!」」


 その声に呼応するように、二人の足元から湧き上がる七色の光。少女を盛大に祝福する綺麗なエフェクト。複雑な動きでひとしきり乱舞し終えたカラフルな光がフェードアウトする。眩しさが収まった後、その場所に目を向けると。


 そこに二人の魔法少女が立っていた。変身完了――これで全員揃った。


「すげー、ヤバいじゃんー、本当に変身できちゃったよー!?」

「どういうことです、菖蒲さん?」


 二人は少し興奮した面持ちでアヤメを見る。ところがアヤメは、心ここに在らずって感じでウィンドウと睨めっこしていた。


「ええっ、どういうこと!? おかしーなー……うーん、まさか寝落ちしている間に器用な小人さん(ドワーフ)達がやってくれたんでしょうか……?」

「なに一人でブツブツ言ってるんだよアヤメ! てかアレ、もうかなり近付いて来ているよ! アレと戦うために変身してもらったんでしょ!?」


 その『何か』のシルエットが分かる位に距離は縮まっていた。そして、それはやはり人型をしていた。とても悪い予感。


「戦う? ちょっと、どーゆーことだよー。教えてよー」

「そうでした! ええっと、浅見さん。聞いてください! ワタシ達は今、ある敵と戦っています」

「はい? 敵?」

「敵といいますか……ベルさんという可能性が高いです」

「はぁ?」


 あんぐりと口をあけ、唖然とした表情でこっちを見つめる浅見さん。そりゃそうだ。どんな急転直下が起きれば、こんな謎展開になるって言うんだよ。当事者じゃなけりゃ、ボクだってそんな風に大口をあけて、ポカロンとしていたはずだ。


「そうでした……ベルさんが敵になった経緯(いきさつ)は後ほどご説明します! それで、ええっと……作戦の概要ですが……ベルさんは、ワタシ達がMPゼロで効果発動による戦闘不能になっていると思っているはずです!」

「エムピー?」

「はい。その油断を利用して不意打ちしますので、アサミさん達はワタシの合図で……」


 だけどアヤメの作戦が実行に移されることは無かった。ふと<それ>の方に視線を動かしたボクは、見たくないものを見てしまった。


「うわ、いきなり走り出してきたぞ!?」


 一同の視線が、一斉にそちらの方へと向く。


 ウネウネと気持ち悪い動きで迫りくる怪異。揺らめく灯りが映し出す不気味な影。それは両手を大げさに振り回しながら疾走してきた。しかも呻き声を上げながら。そのビジュアルとサウンドのコンビネーションは、腹の底から沸き上がってくる嫌悪感をもたらすに十分なものだった。


「ま、マジでヤバイじゃんー!?」


 恐怖の色に染まっていく浅見さんと香純ちゃんの顔。遂に浅見さんは叫ぶ。


「ぎゃぁぁっ! こ、こっちくんなーッッ! freyrフレイル! freyrフレイル!」


 当てずっぽうに放たれた攻撃魔法(をエミュレートした効果)。だが、恐怖に突き動かされた行動は正確さに欠けるとは良く言ったものだ。彼女の術式はターゲットの肩先1メートル以上外れ、ずっと向こうに着弾してしまう。


 その爆風に後押しされるようにして、<それ>はこっちにやってくるスピードを上げた。


 洩れ聞こえる震え声。


「ひ、ひぇぇぇぇッ!?」


 誰とはなく、無意識のうちに発した悲鳴。それは、ボクの悲鳴でもあった。


 恐怖は更なる恐慌を呼び寄せ、ボクらはごちゃごちゃになりながら肩を寄せ、抱き合うように集まった。香純ちゃんなんか、プルプルと震えながらボクの胸に顔をうずめている。


 そんなボクらをよそに<それ>は走ってくると共に、呆けた声を上げた。その声が、今度はちゃんと言葉になって耳に届いた。言葉らしい言葉。


「ストーーーッップ! 私です私! た、助けてください~~~」


 え? ――助けてください?


 やがて、<それ>はこちらからはっきりと見える距離にまで近付いてきた。それは、ボロボロになったヨダカだった。


 ヤツは足を絡ませながらヨタヨタと走ってくる。


「いやー、追い付きました……感動の再会ですなぁ」

「?」

「本気で死ぬかと思いましたよ」

「えっと……ゲームオーバーしなかったんだ……地面の亀裂に落っこちたのに……」


 心の中で舌打ちしながら思わず本音。だが、ヤツはそんな事お構いなしな様子だった。


「いやぁ、もうシステムがグチャグチャなのですよ。死亡判定も何もあったもんじゃありません」


 そうなのか。良かったと言うべきか、惜しかったと言うべきか。


「それに、何としてもベルさんを止めてサーバーデータの完全消去を阻止しないといけませんし……私としても必死なのですよ。こんな所で(たお)れる訳には行きません!」


 根拠不明なプロ意識は相変わらずらしい。


「あ、そう……大変ですね。そんじゃ、ボクらは先を急いでるんで……」

「そうですな。急いだ方が良いでしょう……さ、皆様もこんな場所でもたもたしていないで!」

「……え?」


 まさか……ボクらと合流する気だよこの人!?


「ちょっと待った!」

「どうされました、miwa姫そっくりのお方? 急がないとベルドールさんに追い付かれますよ。彼女、もう凄まじい勢いで破壊を繰り返してます……あれはもう、完全に正気を失ってますよ」

「言われなくても急ぐつもりだけど……」

「さぁ、移動しながら作戦会議です。時間がもったいない」


 おいこら。勝手に決めないでよ。


「あのぅ……ヨダカさん?」

「はい何でしょう黒髪の少女?」


 この不条理な想いを抱いているのは、どうやらボクだけじゃなかったらしい。どこからツッコもうかと頭の空回りしていたボクに代わり、アヤメが口を開いた。


「ワタシ達とヨダカさんとは、敵同士だと認識しているのですが……」

「はぁ。それがどうされました?」

「え? ……えっと……つまり、ですね? お互い相容れない物があると思うのですが」

「この危機的状況で、かような意見の相違は取るに足らないこととは思いませんか?」

「…………」

「手を組みましょう」


 臆面もなくしれっと言ってのけるヨダカ。そういう面の皮の厚さも、彼の業界にとっては大切なことなのだろうか。彼は熱い口調で言う。


「共同戦線です。利害の一致する今なら、昨日の敵も固く手を取り合えると信じてます」

「てか、そもそもの諸悪の根源は、一体何処の誰だよ!?」

「姫様の言う通りです! 第一、ベルさんにあんなイカレアイテムを渡したのはヨダカさんですよ?」


 そうだそうだ! アヤメの言う通りだ!


 ――しかし。


「ふっ……まるで子細なことです」


 心の吐露と言う名のツッコミにもヤツは怯まず、すまし顔で言い切った。


 呆れすぎて、顔を突き合わせながら『どうする? いっそのこと、このまま見なかったことにして闇に葬り去る?』と無言の会話を交わすボクとアヤメに向かって、ヨダカは力強く宣言した。


「とっておきのプランがあります。きっと気に入ると思いますよ?」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ