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[104]その名はmiwa姫量産計画

「貴方こそこのゲームの象徴……いえ、このゲームそのものと言えます! 貴方無しでは、我々の再生プランは完結しない!」


 ヨダカの言葉にポカンとしたままのmiwa姫。そんな彼女をしっかと見据えたまま、ヨダカは力強く言った。


「考えても見てください。このゲームのタイトルを聞いて、真っ先に思い浮かぶのは一体何でしょう? バトルシステム? ゲームシナリオ? いえいえ……miwa姫、貴方です! その鮮烈なビジュアルを誰が忘れましょうか? そして我々の再生プラン……名付けて『miwa姫量産計画』ッッ!」


 miwa姫量産計画? ボクはアヤメと顔を見合わせる。


「どゆこと?」

「さー?」


 隊列を組んだmiwa姫が、荒れ果てた大地を一糸乱れぬ足取りで行進するビジュアルが思わず脳裏に浮かぶけど、ヨダカの言ってるのは、たぶん、そういうことでは無い。


「ところが、です! 現実はどうでしょう? 実際のゲームの中では、たった一人のレアキャラ扱い……いくらレアキャラとは言え、それはあんまりではないでしょうか? こんな素晴らしい資源を最大限に生かさずにどうするというのです? まさに機会損失! こんなのは許されざる犯罪ッ、市場原理主義への冒涜ですッ! 全く、運営は無能としか言いようがありません!」


 ピンと来ない様子のmiwa姫と、自分の言葉に酔いしれ、感極まった様子のヨダカ。聞かれもしないのに、彼は勿体ぶったかのように腕を組み、miwa姫量産計画とやらのあらましを語り始めた。


「さて。ここからが本題です。miwa姫という魅惑のコンテンツを極限まで活かすにはどうしたらいいか? 私の言いたいことはもうお判りでしょう……さあ、すっ呆けた表情のお嬢様!」

「は……? ワタシ!? えーと、えーと……」

「そう! それはエロです! エロスです!」


 アヤメの言葉を待たず言い放つヨダカ。……って……おい! ちょっと待った。


「エロこそは人間の欲望の根源、リビドーの解放! それは古今東西いつの時代も変わりません。ありとあらゆる表現媒体において市場拡大の大きな牽引力となり続けた原動力! コンテンツ産業における最終兵器ッ!!」

「ふざけないでよッ」


 耳をつんざく叫び声。声を荒げるベルさんだった。


「まさかmiwa姫にエロいことをさせようって言うの!? そんなの、私が許さないわ」

「いえいえ、決めるのは株主です! 貴方にはその権利はありませんよ? あと、正確にはmiwa姫、ではなく、miwa姫達、ということになりましょうか」

「miwa姫のコピーにイカガワシイことをさせるだなんて……狂ってるわ! ハゲタカ野郎どころか、エロ業界の手先だったのねッ」

「素晴らしいこととは思いませんか? 人々の内なる秘めた願いを叶えるのです! ご奉仕です!」


 ヨダカのあまりに生々しい提案に、引きつった表情のmiwa姫が口をパクパクさせている。狼狽える彼女はわなわなと声を震わせた。


「はい? あの? 私……? ご奉仕って、一体どういう……」

「さて。世の中にはいろいろな性癖がありますからね」

「エロゲーを作りたいなら、こことは関係ないところで勝手に作ればいいじゃない! 何だってまた、よりによってmiwa姫なのよッ!?」


 牙をむくベルさんにヨダカは肩をすくめ、わざとらしいジェスチャーで首を横に振る。口にはしてないが、その姿は『わかってないですねぇ』と語っていた。


「はぁ……言葉にしなければなりませんか。何故miwa姫なのか? 決まってるじゃないですか。彼女のオリジナルとも言える存在……そう、憧れの王女殿下! 彼女の存在こそが原動力です」

「!?」

「男性であれば誰しもが心の奥底に抱いている願望ではないしょうか。雲の上の存在である王女殿下と親しくなりたい。そして、あわよくばこの腕に抱きたい……あ、そうそう。一部女性も、でしょうかね?」

「う、うぎゃぁぁぁぁっッ!」


 背筋に何か冷たいものが走る。その何かは、恐ろしいビジュアルを伴い脳内を駆け巡った。


「う、うぎゃぁぁぁぁっッ!」


 無意識のうちにもう一度叫んでいた。あまりに恐ろしい精神攻撃。ゲージがあればきっとライフは1ドット分の幅も残って無かった筈だ。前も後ろも分からなくなったボクは、気が付いたらアヤメの肩を抱いていた。


「そうなのか!? おい、アヤメそうなのか? 世の中にそんなこと考えてる奴がいるのか!?」

「姫様お気を確かに!」

「うぎゃぁぁぁっ、お、おぞましいシチュエーションが浮かんだまま消えない……」

「あああっ……ど、どうしましょう!? ワ、ワタシに何かできることはありますか姫様」

「まじで思ってる奴いるのか!? 本当なの? 居るの? そんな奴……」

「ぐぬぬ否定はできませぬ……何しろ王国のシンボル、美の象徴……かような下心を秘めた輩がいてもおかしくはありませぬ。ああ恐ろしや……そんなふしだらな想いを抱いてしまう罪人はワタシだけで十分です……」

「これ以上言わないでッ! あはは……そうなんだ。……ハッ!?」

「何でしょう姫様!」

「アヤメ……あ、あるんだろ? 宇宙を滅ぼすような超兵器が? 貸してくれそれを! ……滅ぼしてやる……あは……あははははは……こんな邪悪な世界……」


 思わず洩らしたボクの叫びと、支離滅裂なアヤメの声。心の片隅では、あまりの精神的ダメージでどこかおかしくなっているのは分かっているけれど。


 そんなボクらを置き去りに、鬼の形相のベルさんがヨダカに突っかかっているのが、視界の片隅にチラリと映る。


「今の言葉、聞き捨てならないわッ! 王女殿下に対する冒涜よ」

「あくまでもイメージ、ですよ? たまたま王女殿下に似ているmiwa姫が、たまたまご奉仕キャラとして活躍しちゃうだけ……そういう訳ですよ」

「詭弁だわ」

「そうですね。世が世なら絞首刑になってもおかしくないでしょうかねぇ……開かれた王室、万歳です」

「そもそも、いくらゲームだからってそんなこと許されるはずないわよッ! その邪悪な言葉、万が一にでもミヤコ王女殿下のお耳に入ったりしたら、どう責任を取るつもりッ!」

「姫様は聖女のように広い心を持ったお方。きっと笑ってお許しになられることでしょう。時にベルドールさん? 自分に正直になりましょうよ。ひょっとして貴方も、王女殿下エッチなことをしたい汚れた心の持ち主の一人ではないですか?」

「そうよ叶うことならペロチューしたいわよ!」


 滅んでしまえこんな世界ッッッ! どこだ超兵器?


「……さて。見解の一致を見たところで」

「見てないわよッッ!」

「それにしても1号の様子が変ですね」

「1号?」

「はい。そこの」


 ヨダカはボクのことを指さす。


「miwa姫コピー1号という意味ですよ。それにしても妙ですね……システムを再起動しないと実装できないと聞いたのですが……まぁいいでしょう。せっかくですから、ここでちょっと脱いでもらいましょうか。どんなダイナマイトボディか興味があります」

「あ、さっき一緒に温泉に入ったわ」

「裸をご覧になったと!? これは羨ましい。さぞ素晴らしかったことでしょう……」

「欠陥品よ。お胸がかなり残念」

「あらまそれは残念」


 なぬ?


「つーか、コピーじゃないわよ? ただのそっくりさん」

「なんと!? 他人の空似ということですか? ……これは面妖な」

「顔はね。お胸は赤の他人よ。しかも異世界人」


 相変わらず歯に衣着せぬベルさんだった。


「さて、と――私のしたことが。若い娘さん方とのお喋りについ夢中になってしまい、無駄な時間を費やしてしまったようです」


 そう言うと真顔になるヨダカ。ずっとへつらうような薄ら笑いを浮かべていた男が初めて見せる顔だけに、底知れぬ凄味があった。ボクらのことをねめつけたまま、彼は冷たい声を放つ


「皆様には退場して頂けなければなりませんね」


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