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[101]王女殿下にはプライバシーは無いそうです

「そうなのですよ! ベルさん、実はインテリさんなのですよ」

「ふっ。なに意外そうな顔してるのよ? 失礼しちゃうわね。こう見えて王立科学アカデミーの考古学研究所にスカウトされてた位なんだから……王宮に採用されたから、その話は断っちゃったけど」

「考古学って、歴史とか?」

「ええ。女学校の専門教育課程で王国の古代史を専攻してたのよ」

「古代史研究はロマンがありますからね! アマチュア愛好家も多い人気の学問です!」

「まぁ、ちょっとしたミステリーというか、調べれば調べるほど、不思議だらけで混乱してきちゃうんだけどね」

「へぇ……」


 温泉効果で身も心もリラックスしたせいだろうか。ボクらは和気あいあいとした雰囲気で、よもやま話に花を咲かせていた。そんな流れで、いつしか話題はベルさんの女学校時代のアレヤコレヤを経由して、古代史の話へと飛んでいた。


「我が王国の歴史にも不思議なんてあるんですか? 興味ありますねェ……一体どんなことでしょう」


 そう訊ねたのはアヤメ。miwa姫に身を寄せていたベルさんは、miwa姫の頭を撫でる手を休めずに答える。


「まぁ、何て言うの? 鼎立王朝の時代にまで遡るのだけど……ほら、ありがちな話よ。古くからある王家の歴史って、神話と結び付いたりなんかしちゃってるでしょ? 要するにその境界が曖昧だってだけの話でもあるんだけど」

「はぁ。でも鼎立王朝時代は古代だけというワケでは無いですよね? ……えっと、近代史あたりにまで下るんじゃありませんでしたっけ?」

「まあね。だから不思議とも言えるのだけど。つい最近のこと……あ、千年単位で歴史を紐解いている身にしてみればよ? その時代まで、まるで作り話のようなエピソードが続くの……」

「ていりつおうちょう?」


 話が見えないボクと津島さんは顔を見合わせた。そんなボクらに、ベルさんは口を尖らせて言葉の糾弾を浴びせかける。


「まさかあんた、鼎立王朝を知らないっての!?」

「は、はぁ……」

「本当に? まさか知らないの? 本気? 正気? ……今に続くハート王朝の歴史よ!? えぇっと……運命の三姉妹とか、リトゲンの魔女とか……」

「?」

「……ほ、本当? だってほら、あの有名なラナンキュラスの竪琴よ!? 知らない? あと裏切りのジーノの逸話とか……」

「何ですか? ハート王朝って」

「あああッッッ!! そこから!? てか、何も知らないって訳? マジで蛮族だわ……これだから未開人はッ! どうしてそんなのがこのゲームに紛れ込んでるのよッ!」


 ベルさんと話していると、ボクがものすごくダメな子のような気がしてきます。ゴメンナサイ。


「はいはいスミマセンね無学で。で、教えてください。その不思議って?」

「…………」

「ベル先生?」

「ゴホン……」


 うん。ベルさんの攻略法が分かってきたような気がした。


「……何て言うのかしら……具体的にコレってのは指し示しにくいんだけど……まぁ、あれよ。魔法の存在を示唆するような痕跡が出土してたり、史実を突き合わせていくとそれを示唆する証拠があったりってこと」

「魔法?」

「そう。王国の中で魔法が使われていたって考えないと説明がつかないって話。まぁ、お伽話って片付けちゃえば簡単なのだけど、全部が全部否定できない……そう考えないと辻褄が合わないエピソードもあるのよね」

「へぇ……」


 魔法が「あった」ねぇ。こっちは現在進行中で魔法を目の当たりにしているんだけど……。思わず津島さんの方へと視線が吸い寄せられる。


 もちろん現実世界に魔法が存在するなんてこと、ボク自身も信じられないし、ボクらの世界だって表向きは魔法なんて無いことになっている。だけど魔法が確実に存在することは、この魔法少女が身をもって証明している訳で――さて、この魔法少女ご本人はこの件をどう考えているのだろう?


 空気を読まず『私魔法使えます!』とかやっちゃうんじゃないかと多少期待したけど、何も考えてないポンコツ魔法少女はそんな横紙破りに気付きもしてないらしい。さっきから、ベルさんの話にしきりと相槌を打っている。


「まぁ、昔は本当に魔法があって、今は使えなくなっちゃっただけって考えた方が、よっぽど気も楽なんでしょうけどね」

「むぬぅ……王国に生まれてこの方、そんな空恐ろしい話が存在するなんて夢にも思いませんでした……時にベルさん」

「どうしたのアヤポンさん?」

「本当に魔法を証明する遺物なんてあるのですか?」

「さすがに断片だけで、そのものズバリの物は無いわよ……と言いたいところだけどね。ほら、運命の泉(Wyrd)の遺構があるでしょ? 今は歴史博物館になっている」

「はい! でもその辺りの逸話は9割方神話とイイますか作り話ですよね?」

「どうかしら……でね? そこの地下資料室の奥深くに、リトゲンの魔女が身に着けていたとされる衣装が残されているとか何とか。未だに不思議な力が残っているそうよ?」

「またまたぁ……」

「本当らしいのよ? ケースの中で厳重に保管されているはずが突然消えたり、そうかと思ったら全然別の場所に出現したりとか」

「……お湯の温度が一気に下がったような気がしてきました。リトゲンの魔女って、そもそも昔話の登場人物じゃないですか!」


 本気で怖がっているのだろうか。アヤメは小さく震えるとボクにしがみついてきた。


「あら。オカルト話とでも思っている? ほら、王宮騎士団の戦乙女(ヴァルキュリア)達が正規装備として使っている強化防護服(パワードスーツ)があるでしょ? あれのデザイン、リトゲンの魔女の衣装を真似ているという噂もあるわよ」

「へぇ、それは初耳です……王国の英雄にあやかろうとしたのでしょうかねぇ?」

「とにかく、生半可な気持ちで歴史に向き合うと精神グッサリやられちゃうから気を付けてね……って、原始人の貴方達に言ってもしゃーなしだけど」


 ボクの方に視線を這わせてからそう言うと、ベルさんは目を伏せ、色っぽい仕草で自分の腕を撫で始めた。そうだ。今ボクは、女の人とお風呂に入っているという夢のシチュエーションにいるんだった。もっと楽しまないと。


 なるべくベルさんのことを直視しないよう気を付けていたけれど、考えてみれば向こうは本当はボクが男だって知らないんだし、ガン見したって構わないワケだ。何をビビってるんだボク。ちゃんと現実を直視して、映像を記憶に焼き付けないと……ベルさん、けっこう色白。


「はいはい、原始人でスミマセンね。で、そんな原始人が謹んで文明人のベルさんに改めて聞きますけど、何なんですか? ハート王朝って」

「ああッ、もうどうにかしてよこの子達……。いくら異世界の住人だからって無知過ぎ! 神代から脈々と続く我が王国を統べる君主の家系、王家よ! 私が本来仕えているはずの姫君がその末裔の、ハート・テナンシー王家よ!」

「はーい。私のオリジナル、ミヤコ王女殿下ですよねー」

「……オリジナル?」

「はい! ご存じありませんでした? 私はミヤコ王女殿下のパーソナリティ・データを元にモデリングされているのですよ」

「ちょっと待った!」


 ボクはニタニタと嬉しそうな表情で会話にぶら下げっているアヤメを引きずり、ベルさん達の死角に回り込む。ここならひそひそ話は聞こえないだろう。


「ちょっとアヤメ?」

「どうされました姫様? こんな所でイチャラブですかまぁ強引な皆さん見てますよ……アヒタタ! 冗談(ひょうたん)()すほっぺ引っ張らない()……」

「まあいい。だいたい分かった。ボクとは全然関係ない異世界の、ボクは全くあずかり知らぬ世界の話だということは、理解した」

「はい? 何を言ってるのです姫様? それにしても変ですねぇ。ベルさんもmiwa姫も、何でこんな回りくどい言い方をしているのでしょう? ミヤコ王女殿下ご本人ですよ!? その御方が目の前におられるのに」

「パーソナリティ・データって何?」

「はぁ……そっちですか? えーと、DNA情報とか体重身長、基礎体温、日々の体調とか、恥ずかしい直近のテストの点数とか……そういった一切合切でしょうかねぇ」

「…………」

「なのでmiwa姫、超リアルなのです! 姫様そっくりなのです!」

「ちょっと待った。テストの点数? それってどんな意味が……てか、まさかボクのことずっとモニターしてるとか言うなよな?」


 マジで勘弁してくれ。


「いえいえ大事な御身体です! ずっと遠く離れた異世界に暮らしているとは言え、王宮の医師団が最新のテクノロジーを持って遠隔モニターしているのですよ? 体調管理だけではありません! そんなこんなのデータが積み重なっているのですよ!」

「データの横流しかよ!」

「ビッグデータの有効活用……ですかねぇ?」

「どんなビッグデータだよ……いえむしろ断固として抗議します。それってプライバシー侵害じゃないの?」

「何しろ王族の方々は公人ですから。ええっと、プライバシーに関してはまあ、多少の妥協が必要なのかも知れませんねぇ」

「他人事だと思って……」

「あ、ちなみにどうしてお胸のサイズは反映されてないの? という突っ込みに関しましては……まぁ……どういう訳でしょうねぇ?」


 ――と、アヤメの視線はボクの胸の辺りに。


「いえいえ、突っ込んでませんから」

「まぁアレですね。アニメでもあるじゃないですか? 原作より大幅に盛られてるとか。ゲームもコンテンツ産業の申し子、エンタメ性が最重要視されるワケでして! まぁ気にしないのが吉です!」

「だから気にしてないって!」

「あ、待ってください? ……逆の可能性もありますねぇ。姫様の本来のポテンシャルがmiwa姫のお胸(アレ)という可能性もあります! きっと男性の姿で第二次性徴期前の大切な時期を過ごされたためホルモンバランスがどーとか? かも。……でも大丈夫! きっとまだ可能性はあります!」

「ああっ、止めろ!」


 どうしてそうやって決めつける。てか、ボクの胸で遊んでるだろ絶対?


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