食い意地
先代の急死に伴い、我が家のお犬様に加わったのが、これまたペットショップに残っていた、りくである。
家に来て以来、一人になった事のないあゆのため、そんな名目でやって来たりくはあゆと同じミニチュアダックスフンド。
ロングとスムースの両親から産まれ、姉なのか妹なのかは不明であるが、姉妹は早々に家族が決まったというのにりくは何ヵ月もペットショップで日々を過ごしていた。
ミニチュアダックスフンドの割にはこれまた小さめで、どちらと言えば、スムース寄りの短い毛並みはブラックタン。知ってる人もいるだろう、麻呂眉毛が特徴の毛色である。
零れそうな大きな茶色の目が印象的な文句なしの美形さんだ。
ハンサムで頭だって多分悪くないりくであるが、周囲も驚く食い意地の持ち主でもある。
特筆すべきはご飯の時か。
初めての我が家だろうとも初日からご飯をペロリと平らげたりくは五歳なったばかりの今でも食欲が衰える事はない。
「よしっ」
一応、お座り、待ての後。号令と共にご飯に食い付く。まあ、がっつく、がっつく。一心不乱にがっつくのだ。
その食いっぷりを擬音で示すなら、ガツガツ、バクハクであろう。
食事中のりくに近付こうものなら、器から口は離さず、唸ったり吠えたりして、さらに食事のスピードが上がる。結果、急ぎすぎて器からご飯の数粒が飛び出してしまう。
急いては事を仕損じる、とでも言うのか。部屋から飛び出たご飯は量が少なくて早々に食べ終わったあゆが歩きながら食べてしまうのだ。
このりくの食いっぷりは他を圧しているらしく。
「りくくんは凄い食べ方ですね」
諸事情により動物病院でご飯をもらった事があるのだが、その時に動物病院のスタッフが驚いたと言うのだから、よっぽど激しいのだ。
食べ物に並々ならぬ執着を持つのは一向に構わない。が、食べ物を用いた躾が行えないのは困る。
食べ物に集中するあまり、躾なんてしていられないのだ、りくは。
おかげでりくが出来るのはお座りと待てのみ。ご飯の時間のはそれすらしっかり出来ないで、お座りは腰を落としきっていない中途半端、待ては最中ずっと吠えている。
兎に角、りくの凄まじい食いっぷりたるや、数日食べていないかのようである。
可笑しい、毎日しっかり食しているのに。
「ね、りく?」
「ヴ~」
幾ら食事中だからって話し掛けただけで唸るな。