結界の家
暗闇の中で藍はひたすら涙を流し続けていた。龍王の肩に担がれて涙がポタリ、ポタリと暗闇に落ちて消えて行く。
藍の目に浮かぶのは、突然現れた龍王が藍を連れ去るのを阻止しようとし切りつけられてしまったユンロンの血まみれの姿。
(ユンロンさん……、ユンロンさん……、死なないで……)
自分の所為で大怪我を負ってしまったユンロンを思うと心が引き裂かれそうで泣くしかなかった。
だが龍王は無言のままで、藍が泣いていようが一向に気にする事無くまるで荷物を運ぶように歩き続ける。
(何故ユンロンさんが……何故僕がこんな目に遭うんだ? 何も悪い事などしていない筈 )
涙を左腕で拭うと指に嵌る金の指環が暗闇でも光っていた。この指環の所為で自分の運命が全て変わってしまたのかと思うと不条理で仕方が無かった。
(王様は勝手過ぎる! 僕だって好きでこの指環を嵌めた訳じゃない!ユンロンさんは僕を庇ってくれただけなのに、あんな惨すぎるよ!)
あんな残虐な行為をしながら平然としているのも信じられなかった。藍は悲しみから徐々に龍王に対する怒りが湧いてくる。
(こんな男、大っ嫌いだ!)
生れて初めて感じる激しい怒りに、このまま大人しくしているのが悔しくなった藍は龍王に怒りを爆発させてしまう。
「放せ!王様かなんだか知らないけど、放せ!馬鹿!」
藍は思いっきり背中を叩いたり、足をバタつかせ暴れるが、龍王は全く意に介さない様子で歩き続ける。
「ユンロンさんに謝れ、僕を庇っただけであんな酷い事をするなんて!人で無し!」
「こんな指環なんか要らない! 欲しいならサッサと腕を切り落とせばいいだろ!!鬼畜のドS!冷血漢! 」
藍は、ありったけの罵詈雑言を王様に続く限り言い続けたが、龍王は全くの無反応で耳が聞こえないのかと藍は思い始める。
(なんなのこの人!?)
10分以上は怒鳴りながら暴れていた藍も疲れて段々弱々しくなり、龍王に相手にもされない自分が情けなく、また涙と嗚咽が漏れ始めた。
「うっう……何で…何も言わないんだー……だんまりなんて卑怯だ!ヒック、ウェッグ……うっううー」
藍の顔は涙と鼻水でグチャグチャで、ささやかな意趣返しのつもりで龍王のマントをハンカチ代わりにして涙を拭いて鼻水をかんしまった。黒いマントは涙と鼻水でかぺかぺになるが、それでも無反応な龍王に藍は自分の存在すら認めていないのかと一層悲しくなった。
「ユンロンさんは…あんなに優しいのに……ヒクッ、あんたなんかユンロンさんの100万分の1でも優しさを分けて貰えばいいんだ……うぇうっうんうう……」
そう言い終わると再び泣いてしまうが
「……アレが優しいだと?」
思いがけず龍王が言葉を発するので、吃驚した藍の涙と鼻水は止まった。
藍は「……とっても優しいよ」と恐る恐る返事をした。
しかし龍王の返事は無く、その後は沈黙が続き独り言だと分かると、龍王の無反応ぶりに藍は泣いて暴れるのも嫌になり疲れてしまた。
(この人は何を考えてるんだろう……きっと心の無い機械人形なのかも知れない。――ところでどこに向ってるんだ)
あまりの虚しさに少し冷静になった藍は改めて辺りを伺う。暗闇は本当に闇しかない――そこは、まるで星がない宇宙空間。上下左右を見回しても底が見えない黒い空間が広がっているのか、それとも狭い真っ暗なトンネルを歩いている気もする。しかし光が無いのに龍王と自分の姿がくっきりと浮かび上がっている不思議な空間に戸惑うしかなかった。
そして突然眩しい光が藍の目に刺して眩しさに目を閉じてしまう。。
「なに!?」
次の瞬間ドサッと衝撃を感じると共にお尻に痛みが走る。
「痛!」
そこは何処かの一室の石の床の上で、龍王は藍を荷物の様にぞんざいに降ろしたのだ。
(本当に荷物か物扱いだ)
痛むお尻を摩りながら憮然と思う藍だった。周りを伺うと何処かの家の居間のようで、フェンロンの別荘の様な豪奢な造りでは無いが、それなりに整えられた十畳程の部屋で、テーブルとイス、飾り棚の様な物が置かれている。
(誰の家?)
目の前に龍王が立っていた。ここが何処か聞いても無駄だろうと藍は諦めたが、無言で見下ろす龍王の存在は無視できない。藍は怖くて怯える心を叱咤し何とか憎しみを込めて睨み返す……が壮絶な迫力のある美しい顔を見続けるのは一種の拷問の様に感じてしまった。
しかし、言葉が通じない相手だから、せめて目で訴えようとユンロンの分も睨みつける心算で頑張ている藍だが心が折れそう。
なにしろ龍王の表情は一向に変化せず気にしている風では無く、無表情で微動だもせず人形を相手にしている気分。全く何を考えているのか分からないのが、より一層藍の恐怖を増幅していった。
藍は、もしかしてこの拷問のような沈黙が永遠に続くのかと思っていると龍王がぼそりと呟く。
「酷い顔だ」
確かに藍の顔は泣いて目蓋も腫れて顔も浮腫み涙と鼻水で顔がグチャグチャだ。だがこの場でそう評す龍王の感覚は何処か常人とは違っていた。
「……王様が酷い事するから、余計酷くなったんだ」
律義なのか藍は龍王の酷い言葉に自虐的に答えてしまった。その途端に虚しいような脱力感に襲われる。自分が泣き叫んでも一向に反応しなかった龍王が泣いた後の顔を見て酷い顔だと評する気持ちが理解できない。龍王との意思疎通なんて出来ないのだと悟る。
「一体何なんですか…王様は何がしたいの?……殺すなら早く殺して下さい」
これ以上、この人と一緒にいたくないと思ってしまった藍は咄嗟に龍王にそう願ってしまった。
「お前を殺す心算は無い」
だが無感情な声が藍の望みを切り捨てる。
「それじゃあ、この指環を外して下さい!」
「それも不可能だ。契約を済ました指環は余でも外せない。先程腕を切り落とせばと思ったが、指環の不可侵の力が働き阻止された。其の指環のせいで余とお前は永遠の伴侶として命が結ばれてしまった。故にお前を自由にしておく訳にもいかない。だからと言って余の隣に置くつもりもないがな」
感情を込めない平坦な声で告げる龍王は、まるで本当に人形か機械が話しているようで藍には言葉の意味をよく理解できなかった。だが自分の存在が歓迎されていないのだけは理解した。
そして藍は次の龍王の言葉に愕然とする。
「余の生が終わるまで、お前はこの場所で暮らすがよい」
「どういう事です?!」
まるで罪人を牢獄に閉じ込めるかのような言葉に藍は慌てる。
「心配せずとも生活に必要な物は全て用意し、生活に困らないよう人も付けよう」
「嫌だ!せめて元の世界に戻して!」
こんな異世界で場所も分からない家に閉じ込められるなら地球に戻った方がましだと藍は思った。龍王なら自分を元の世界に戻せるはずだと更に叫ぶ。
「金の指環が勝手に僕の指に嵌っただけだ! それなのにこんなの酷い! 僕を元の世界に返してよ!」
必死に藍は訴えるが、龍王は藍に興味を失くして無視して踵を返し背を向けてしまう。
「無視しないで、ちゃんと返事をして!」
龍王を引き止めようと藍は立ち上がろうとすが、龍王が壁に右手を当てると、そこにポッカリとブラックホールのような穴が現れる。その不思議な現象を目の当たりにした藍は更に慌てる。
「待って!!」
このままでは置いて行かれると思い、慌て駆け寄り龍王のマントを掴もうとするが、その手は空を切ってしまう。
「行かないで!」
一緒にいたくはないが、置いてかれるのはもっと嫌で必死に龍王が潜った穴に入ろうと追いかけるが、壁に開いていた穴が忽然と消える。
「あ、あ……」
龍王が通り抜けた後、瞬時に穴は閉じ壁は元の白い壁に戻ってしまったのだ。
藍は一人取り残された部屋で呆気にとられる。
(信じられない……アレだけの説明で置いてきぼり)
暫らく茫然としていたが静かすぎる部屋が怖くなり始める。まるでこの世界に一人ぼっちのよう。部屋には太陽石の灯りがあるが、窓を見れば外は暗く夜。
ジッとしていても不安な藍は家の中を調べる事にした。もしかすると誰かいないかと期待したのだ。
「誰かいませんか?」
三つある扉を開けて呼びかけてみるが居間以外は暗く人の気配は無かった。一つの部屋は寝室で天蓋付きの大きなベットがあった。恐る恐る暗い部屋に入り窓から外を見る。目が闇に慣れて来ると周囲が木々で囲まれ、夜空を見ると満天の星が煌めいていて少しだけ安心する。
もしかしたら、さっき通って来たような暗黒空間のような場所にある家なのかと思ったのだ。現に龍王はブラックホールのような穴を開けて何処かに行ってしまった。此処が異世界で藍の世界の常識が全く通じないのを痛感するしかない。電話も無ければ電気も自動車も無い世界で助けを求めようがない。
唯一頼れるユンロンも龍王によって怪我を負い瀕死の状態で助けは求められない。
「ユンロンさんは手当てをして貰えたかな……」
側にフェンロンが居てくれたのがせめてもの救いで、藍にはそれだけが心に灯る希望だった。
ユンロンが無事ならば、それだけで良かった。
助けを求めたい気はあるが、あの龍王のユンロンに対する所業を見た藍には二度と会えないと諦めるしかなかった。
「ユンロンさん……」
切ない想いが心を締め付けるがどうしようもなかった。泣くだけ泣いてしまった藍には涙すら流れず、色々あり過ぎて虚脱感が襲ってきた。
もうどうしようもない現状に疲れてしまた。
(寝よう……)
次々に起こる災難に精神が摩耗し気が可笑しくなりそうだ。折角安らげる場所が出来たかと思うと、次々にそれは壊され藍からすり抜けて行ってしまう。まるで運命が藍の幸せを阻止しているようだ。
「ユンロンさん、助けに来て……」
望んではいけないと分かっていても、藍の口からつい零れてしまう。
(今の僕に望みのある未来なんてあるんだろうか? 無いなら無いでいい。だけど今は眠りたい。どうせなら永遠に眠れればいいのに……)
疲れ果てた藍は寝台の布団い体を潜り込み目を瞑る。
そしてユンロンの夢を見て永遠に眠り続けようと思う藍だった。
――青龍国の西に在る滿洲は天領区と隣接していた。そして天領を囲む外溝の死海の側にある辺境に領地を持つ龍族の老夫婦がいた。かつては王都の中央軍に在籍していたオウロンは老いて職を辞して妻のモンと二人で田舎暮らしを楽しみながら余生を送っていたのだ。
夫婦の住む屋敷は、普通の龍族が住むにはあまりに粗末でみすぼらしい小屋だが、この周辺では立派な建物で二人には十分満足な住居だった。
そして何時ものようにオウロンはモンの作った料理をつまみに酒を楽しみ、モンはその向かいで縫物をして夜の時間を静かに過ごしていた。
ほどよい酔いが回ったオウロンは盃に手酌で最後の酒を注いで、口元に運んで味わいながら呑んでいると忽然と背後に凄まじい龍気を感じ一瞬動きが止まる。
「久しいの、オウロン」
背後から聞き覚えのある声に驚き、思わず目の前に居る妻に酒を吹きだしてしまうが、当のモンは怒りもせず、目を見開きそれはそれは真っ青な顔をして夫の背後を見ていた。その表情は幽霊でも見たように蒼白で、オウロンはおずおずと後を振り返って見る。そして恐れ多くも幽霊の方が良かったと心中で呟いてしまった。
「へっ、陛下! 何故このような場所に!?」
そこには以前と変わらない神々しい龍王の姿を見出すが、オウロンは酒に酔った幻覚だと思い込みたかった……が…並々ならぬ神力の気配に本物だとしか思えなかった。
夫婦は急いで椅子から立ち上がると直ぐ平伏し龍王の言葉を待つ。
「今宵、そなた達に頼みがあって来た。付いて参れ」
「はっ」
そして相変わらず要点のみの少ない言葉に疑問を持ちつつも問う事無く従う。龍王は神力を壁に流し込んで空間に冥道を開ける。冥道とは異なる世界を繋ぐ狭間の世界で、そこを通る事によって異世界にも行けるが、自分の世界でも遠く離れた場所に瞬時に移動もできる力。この力を持つ神族は限られた高位の者だけで青龍国では龍王だけとされていた。
龍王の背後に付き従いオウロンは妻の手を取って冥道を進み、連れてこられたのは藍が連れて行かれた同じ部屋だった。
訳も分からず付いて来たオウロン夫婦は、こんな場所に何があるのかと周囲を伺うが、龍王は無言のまま隣の部屋に行ってしまう。慌てて二人も続いて入って行くと寝室になっており、暗い部屋の寝台の上には一人の少年が横たわっている。龍王はその少年を指し示した。
「この者の面倒を頼みたい」
「このお方は?」
「この者はこの場所に一生涯幽閉する。それ故、お前達に世話をして欲しいのだが、もし受けるのなら、お前達も生涯此処に留まる事になる……受けるか」
龍王に勅命を言われては受けるしかないオウロンはその場に跪く。
「陛下の御為なら、いかなる命も受け賜る所存です」
深く頭を垂れ拝命する。
「頼む」
これで用件は済んだとばかりに龍王はオウロンに詳細を語ることなくその場から立ち去ろうと冥道を再び開ける。その気配を察したオウロンは、思い切って顔を上げると龍王が瞑道を潜ろうとしていた。
(まさかこれだけ!?)
「陛下ー! お待ちを!!」
無礼と思いつつ声を上げて呼び止める。間一髪で龍王が立ち止まりホッとする。そして龍王は無言で振り返ると、無表情だが何だと問いかけられているとオウロンは感じた。
「恐れながらも、陛下との連絡はどうすれば?」
やはり龍王は無言のまま引き返し、オウロンたちの前を横切り、オウロンだけが龍王に付いて行き、元来た隣室を通ってもう一つの扉を開けると台所があった。台所に何があるのかと訝しむ。そんなオウロンをよそに龍王は何の変哲もない古びた戸棚を指し示した。
「この中に欲しい物を記した紙か手紙を入れるがよい」
「はぁ?」
龍王の言葉に疑問しか浮かばない。この戸棚に手紙を入れるだけで連絡がとれるのかと不思議で、しげしげと扉を開いて中を見るが、棚が無く空っぽ。大人二人が余裕で入れる大きさで、何の力も感じないただの古びた戸棚に思えてならず、オウロンは首を傾げた。その隙を付くかのように龍王は、その場で再び瞑道を開けてサッサと潜る。
「あっぁ~~ 陛下……」
気が付いた時には既に遅く、冥道を潜り閉じる寸前で間に合わなかった。オウロンは龍王が立ち去った後は茫然自失。
(陛下~全然事情が呑み込めませーーーん)
声を出さず、心で叫ぶしか無かった。そこへ妻のモンが慌ててやって来る。
「あなたー大変よー!」
「こっちも大変だよ……」
かなり驚いている様子のモンは、たそがれている夫の手をひっぱりる。オウロンは仕方なく付いて行った。これ以上に驚く事は無いだろうと思い、妻に引かれてやって来たのは、先程の寝室。
「この子の手の指環を見て下さい!」
妻に言われ、手を見るとそこには龍王の契約の指環が嵌っていた。甚だしく驚いたオウロンは息を呑んだ後
「こっ、この方は陛下の伴侶だったのかーーーー!?」
オウロンの口から大絶叫がほとばしり、小さなな家を震わせる。横にいたモンも大きな声で鼓膜が破れるのではと耳を塞いだ。
叫んだ後のオウロンは百年分の驚きの余韻に浸る間もなく「この子が起きてしまうでしょ!」とモンに叱られてしまうのだった。
モンは半信半疑だった事実が夫の言葉で本当だと知る。――寝ているこの少年が龍王の伴侶だと信じるしかなかった。初めはもしかすると龍王の庶子で人間に産ませた子供かと思っていたが、指に嵌る金の指環を見て慌てて夫に知らせに行ったのだ。
夫婦は未だ信じられない想いで、不思議な黒髪の藍を見つめていた。
「あなた、陛下は御自分の伴侶様をこの様な場所に何故置かれるんでしょう?」
「陛下は伴侶様を幽閉すると仰っていた……そして我々に仕えるようにとのご命令だ」
「まあ……」
幽閉という物騒な言葉にモンの心が痛んだ。こんな幼い可愛い子を閉じ込めるなんて可哀想でならなかった。自分達のような老人ならば、こんな場所でも耐えられるが、まだ若い子には寂しい場所で憐れ。
「陛下のお考えは分からないが、この方に心からお仕えしよう。わし達は陛下にひとかたならぬ御恩があるからな」
「はい」
モンは優しい微笑みを浮かべ頷いた。
それから家を調べると、玄関の土間に、居間、寝室が二部屋、台所の小さな家で三人で暮らすには十分な広さだ。だが随分と年代を感じる建物でかなり傷んでいて修繕と掃除が必要だと二人は感じる。取り敢えず明日からしようと決めた二人は、もう一つの寝室で寝る事にする。しかしそこにある寝台は木の台だけで布団もなにも無い。仕方なく二人で身を寄せ合いそのまま寝台に横になるが直ぐに寝入るのだった。
翌朝、目を覚ました二人は、この場所が如何に閉鎖された場所だと知る。
「どうやらここは、妖獣の森の中にある一軒屋のようじゃ。しかも結界が貼られて外に出られんし、空の上からも出る事は出来ん。完全に外から遮断された正に結界に閉じ込められた空間だ」
動ける範囲は、荒れ果てた狭い庭のような場所だけで、周囲を取り囲む森にすら出れない箱庭のような空間。朗報と言えば、温泉が湧いており、何時でも湯あみが出来る事ぐらいで、台所は鍋一つ無く、当然食料も無い状態に途方に暮れてしまった。
「大丈夫だモンよ。陛下が仰るには、欲しい物を紙に書いてこの戸棚に入れれば届くそうだからな」
夫の言葉に半信半疑ながら、モンは欲しい物を紙に書いて戸棚に入れてみてから扉を閉めるが何の変化も無い。
「変だの?」
そーっと開いてみると紙だけが無くなっていたが、戸棚は空っぽなので二人は拍子抜けする。
取敢えず様子を見ようと、数度覗きに行くが何も無く困り果てる。二人とも飢えて死ぬ事は無い体だが空腹感はあり、料理や食べる事、酒は好きなので生きる楽しみが減ってしまうのは歓迎できない。
軽い絶望感に浸る二人は日が暮れる前に、何度目かの正直とばかりに戸棚の扉を開ければ、綺麗に並べられた調理用具に食料、酒、掃除道具を見て安堵した。
翌日からは家の修繕や掃除に二人ははりきり出す。未だ眠り続ける龍王の伴侶が何時起きても気持ちよく暮らせるように夫婦そろって勤しむのだった。